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QCサークルに目標は要らぬ 手段が尽きるまで改善せよ

一般的なQCサークル活動では、改善目標を明確に設定し、その達成度で活動を評価することが多い。

しかし多くの場合、目標そのものが活動の制限となり、PDCAサイクルを阻害し、深掘りした改善の芽を摘んでしまう。以下、この結論について考察してみよう。


    

1.目標は立つのか?

目標は「立つか立たないか」の問題であって、「立てる立てない」の問題ではない。

そもそも“目標ありき”で活動を進めることが、問題追及や手段の創造性を狭める危険をはらんでいる。

1-1.カンとハッタリの禁止

QCサークル活動では目標を立ててはならない。目標の設定に必要なデータがないからである。目標が立つというなら、そのデータ的根拠を示さねばならない。

データ的根拠もなしに大きな成果を吹聴することをカンとハッタリと称して、品質管理の世界では恥ずべき行為とされ、厳禁である。

目標の設定が必要なのは、第8章:方針管理の年度方針の場合である。方針管理のような失敗が許されない一発勝負の大改善では、目標が設定できる程にデータが揃い、研究が進んだことの証が必要だからである。

〔石破茂氏と高市早苗氏の考え方の違い〕

最低賃金の政策に関する国会答弁で、両者は異なる説明をしている。これは、願望と目標の違いを理解しているかどうかの違いである。

石破茂氏の回答
2020年代に全国平均で1500円に上げる。
高市早苗氏の回答
目標を明確に示すのは非常に難しいです。

 → 読者からの反対意見

1-2.オリンピック施設の採算

事例を挙げて、根拠となるデータのない目標が招く弊害を示そう。

TBSニュースの報道によると、下の表に示す施設は全て2020年東京オリンピック閉会後に娯楽施設として運用を予定し、相当額の利益目標を立てて建設したものである。

ところが、オリンピック閉会後に改めて見通しを算定すると、下の表のように毎年の赤字が続く見通しだという。

2020年 東京オリンピック施設の採算
施設名 黒字額(億円/年)
有明アリーナ +3.6
海の森水上競技場 -1.6
アクアティスクセンター -6.4
カヌー・スラロームセンター -1.9
太井ホッケー競技場 -0.9
夢の島公園アーチェリー場 -0.1
合計 -7.3

1-3.データでモノを言え

これは、「データ的根拠」、すなわち、裏付けとなる事実に基づいて発言せよ、という品質管理の鉄則をいう。

  1. 小集団(QCサークル)活動では、目標を設定してはならない(同旨、早大名誉教授:池澤辰夫氏:著書「品質管理べからず集」)。

  2. データに基づかない判断を勘(カン、Intuition)という。

  3. カンで大きな成果を約束するなどの強気な態度をとることをハッタリ(Bluff)という。

  4. QCの世界には「データでモノを言え」という格言があり、カンとハッタリで目標や計画を立ててはならない(The principle of data-and-fact approach)。

〔注1〕早大名誉教授:池澤辰夫氏は、著書「品質管理べからず集」において、QCストーリーから目標の設を除外している。

〔注2〕方針管理は2段階で構成される。長期方針では目標が立たないからビジョンを表明し、手段を研究する。手段が得られたら年度(短期)方針の段階となり、年度計画では失敗が許されないから、成功を確信させる「データに基づく目標」の設定が不可欠である。
  参照 → 年度方針・年度計画の立案

1-4.用語の区別を明確に

本論に入る前に、用語の区別を示す。

願望(ビジョン)とは?

実現できるか分からないが、何とかして将来実現したい姿(例:不良半減、コスト30%減、売上倍増、新分野の開拓、10%人員削減)
  QCサークルが「目標」を設定した~という場合の多くは、目標ではなくビジョン(願望)である。

努力目標とは?

達成する可能性は比較的低いものの、達成を目指して努力することを主な目的として設定された目標(例:110歳まで生きようとする努力)。
  これは日常用語であって、正しい目標ではない。

改善目標とは?

改善手段が分かっている場合の改善予測値。その手段によって狙う的。(例:実験で確認済みの手段を用いて実現しようとする改善成果)

改善目標には、実現手段とデータ的根拠が必要であり、根拠もないのに大げさな目標を発表することを、俗にハッタリという。

自民党総裁選の立候補者である河野氏は、首相になった場合の子供庁について、「子供の貧困、子供のいじめ、子供の自殺をゼロにするのが目標」と宣言している。もし手段がなく、努力目標だというなら、ハッタリである。

管理目標とは?

既に実現され、or 実現可能と知っていて、実現し維持しようとする成果(例:設計値や管理規格値)

〔注〕QCサークル活動は、目標を決めるのに必要なデータを持ち合わせず、CAPDサイクルを手段が尽きるまで繰り返す活動であって、目標を設定しないのが正しい。
 データもなしに目標を立てることを「ハッタリ」という。

以下、これらの結論について考察して行こう。


2.目標の理論

目標とは何か、目標と願望は同じ意味か、以下、考察しよう。

2-1.小学館デジタル辞泉

まず、日本語としての意味を小学館デジタル辞泉で確認することから始める。

1.そこに行き着くように、またそこから外れないように目印とするもの。例:「島を目標にして東へ進む」

的のイラスト

2.射撃・攻撃などの対象。まと。例:「砲撃の目標になる」

3.行動を進めるにあたって、実現・達成をめざす水準。例:「目標を達成する」、「月産五千台を目標とする」、「目標額」

QCサークルや方針管理で使われる目標の意味は、第3の意味である。

ここで問題なのは3.行動を進めるにあたって、実現・達成をめざす水準でいう「めざす水準」の意味は次のどれか、である。

  • 実現手段を持たない、単なる「願望、ニーズ」か?
  • 「確実に実現手段を持っていて、狙えば実現できる水準」か?

以下、しばらく、この問題を考えよう。

「1.島を目標に東へ進む」
「東へ進む」ためには、そのための手段(舟)を持っていることが前提になっている。単に「東に進みたいという願望や必要性」があるだけでは進むことが出来ず、この例文は成り立たない。
「2.砲撃の目標にする」
「砲撃の目標にする」ためには、砲撃手段(大砲)を持っていることが前提になっている。砲撃手段がなければ、この例文は成り立たない。
「3.実現・達成しようと水準」
「実現・達成を目指す」ためには、単なる願望ではなく、現実に達成手段を持っていなければならない。達成手段がなければ、この例文は成り立たない。

第3の意味も、第1及び第2の意味からかけ離れてはならず、同様に類推すべきである。

すると、「船を持たない者は島を目標にできない」し、「大砲を持たない者は砲撃目標を設定できない」のと同様に、達成手段がなければ目標を設定することはできない。

米軍などは武器で狙う標的を "target" と呼ぶが、これを日本語で「目標」と翻訳するのが普通である。

以上を武器と目標に例えて図示すると、次のようになる。

標的
  • ピストルなら、10m先を目標にできる。
  • ライフルなら、100m先を目標にできる。
  • 大砲なら、1,000m先を目標にできる。
  • トマホークなら、地球の裏側に目標を設定できる。
  • 手段がなければ目標は設定できない(願望は持てるが)。

ここに、格言=手段なければ目標なしが成立する。

2-2.日常用語の目標

普段の日常生活では、あまりうるさいことを言わずに、気軽に「〇〇を目標にする」という。しかし、多くは「願望」のことを目標と表現していることが多く、目標と願望を厳密に区別していない。

老人

日常会話では、目標と願望を同じに扱う場合と明確に区別する場合がある。

普段、何かと目標の言葉を使いたがる人でも、次のようには言わない.

  • 1000歳まで生きることを目標にする
  • 今年中にノーベル賞の受賞を目標にする
  • 今年中に百億円の蓄財を目標にする

上のようなことは言わないが、そのような願望は持っている。つまり、願望と目標とは同じ意味には使われない。
 どこが違うか? 2つの場合が考えられる。

  1. 願望はあるが、手段(島をめざす船、軍隊の機関銃や大砲に相当)を持たず、全く見込みがないときは目標にしない。
  2. 今は手段を持たないが、努力すれば何とかなるかも知れないなら(目標ではなく)「努力目標」にする場合がある。

日常用語としての「目標」は、この後者の意味で使われるように見える。つまり「頑張れが何とかなりそうだから、これを目指して頑張ろう」という努力目標のことを「目標」と呼んでいるように思える。

しかし、努力目標は正式な目標ではない。「単なる願望」を目標にみせかけた偽物である。

2-3.専門用語の目標

この後者が、QCストーリーで「設定せよと」要求される目標なのだろうか? しかし、ここに問題がある。
 努力目標は日常用語であって、専門用語としての「目標」ではない。

「手段を持たないが努力すれば何とかなるかも知れない」というのは、いわば、カン、ハッタリ、予言の類である。その場合の「目標達成率」は、預言が当たったかどうかの問題になる。日常用語なら、それでも支障はないが、品質管理は「データでモノをいう世界」であり、「努力目標」と「正式の目標」を同一に扱うのはムチャな話である。

「新工場を建設して売り上げを3倍にしたい。今は売上3倍の手段を持たないが、努力すれば何とかなりそうだから、何とか10億円の融資をお願いする」と銀行に努力目標を持ちかけて、相手にされるだろうか?

つまり、この手の努力目標は、本人が心の中で個人的に設定するのは構わないが、他人に向かって公表できる性質のものではない。公表すれば「ハッタリ」になる。

日本規格協会のTQC用語辞典によれば、当初のQCストーリーには「目標の設定」はなかった。早大名誉教授:池澤辰夫著「品質管理べからず集」のQCストーリーにも目標の設定は含まれない。ところが、その後、心ない学者が目標を追加した。
 なぜ、追加したのだろうか? それには事情があった。

2-4.マグレガーのY理論

なぜ、「目標の設定」を追加したのか?

これは心理学や行動科学の「D.マグレガーのY理論」という「やる気を起こさせるモチベーション理論」から来ているらしい。いかにも主観説らしく「心理的な方法で解決しようとする傾向」が見え見えである。

D.マグレガーのY理論から引用
マグレガーの写真

人は自分が進んで身をゆだねた目標のためには自発的に働くものであり、条件次第では責任を引受けるばかりか、みずから進んで責任をとろうとし、企業内の問題を解決しようと比較的高度の想像力を駆使し、創意工夫をこらす能力をたいていの人はそなえている。

つまり強制されるのでなく、自分が進んで身をゆだねた目標には「やる気」や「責任感」が生まれ、創意工夫をこらして成し遂げようとするものだ、との考え方である。

このY理論それ自体の正誤を論じる能力を、筆者は持ち合わせていない。

しかし、QCストーリーは目標を強制しており、Y理論が前提とする非強制という条件を満たさない。強制されるから「やむを得ず設定する目標」であって、「自分が進んで身をゆだねた目標」ではないのである。

要するに、こんな単純な矛盾に気づかない学者先生方が決めたものがQCストーリーの目標である。

2-5.ピーター・ドラッカー

ドラッカー

ユダヤ系オーストリア人経営学者として有名なピーター・ファーディナンド・ドラッカーは、全世界の経営者に「結果を決めてかかれ(Define what the results are.)」と指導し、一世を風靡した。

これは、「だらだらと成り行きに任せるのではなく、明確なビジョンを設定して経営を革新せよ」という意味に取れる。この思想は、→ 方針管理 において重要である。方針管理は、失敗が許されない、やり直しがきかない、一発勝負の大改善(イノベーション)である。年度計画で目標の設定が不可欠であるが故に、長期計画でその実現手段を研究することになる。

しかし、QC活動(QCサークル、小集団)は、「もう少し良くならないか」と、ちりも積もれば山となる、七転び八起の CAPDサイクル を繰り返して、小さな改善を手段が尽きるまで積み重ねる活動である。目標を設定して達成する一発勝負のプロジェクトではない。

要するに、経営革新に関するドラッカーの目標理論を学者先生方が誤ってQCストーリーに持ち込んだのである。


3.小集団活動の目標

QC活動の進め方として、目標の設定をしないのが正しい。
 以下、この問題を詳しく説明する。

3-1.古典的な小集団

古典的な小集団(QCサークル)活動では、QCストーリーに「目標の設定」というステップがある。しかし、これは次の理由により全くの間違いである。

  1. 前述のように、マグレガーのY理論の適用がない。
  2. 小集団活動のような小改善ではアイデアが尽きるまで CAPDサイクル を繰り返す。目標を達成するまで繰り返すのではない。
  3. QC活動では事前の研究がないから、手段を特定できず、目標の設定は不可能である(カンで設定すればハッタリになる)。

3-2.CAPDサイクル

小集団活動のような小改善は、失敗が許されるから、CAPDサイクル を繰り返して行う。すなわち、「失敗してもいいから、試しにやってみよう」を繰り返す活動である。

〔注〕
 1. 新企画の場合はPから始めるPDCAサイクルであるが、QC活動は現状の改善だから、Cから始まるCAPDサイクルになる。

2. 方針管理の研究段階で行う試行錯誤は、新企画としてPDCAサイクルの場合が多い。→ 開発段階のPDCAサイクル

QC改善における小改善は、目標を定めて達成する活動ではない。手段が尽きるまでCAPDサイクルを繰り返す活動だから、終わってみなければ成果は分からない。従って、小集団(QCサークル)活動では目標を設定しないのが正しい。

QC活動の正しいやり方は、次のようなCAPDサイクルを繰り返す活動である。

  • C:この現状は、もう少し何とかならんか?
  • A:この要因が怪しい。この対策を講じてみたら?
  • P:よし、それをやってみよう。
  • D:やってみた。それで、結果は?

  • C:もう少し何とかならんか?
  • ~以上を、手段が尽きるまで繰り返す。

〔注〕QCサークル活動で目標を設定できる唯一の例外は、普段の業務の中で試験的に対策を講じる等によって実現可能な手段を知っている場合である。
 しかし、その場合でも目標は設定すべきではない。目標を達成してなお改善の余地があれば活動は続くからである。

〔参照〕小改善と大改善の区別、「中改善」の有無について → 小改善と大改善の区別を参照。

3-3.誤った指導

小集団活動の目標の意味や設定の仕方について、50年前には20個ほどの学説があった。

なぜ、これほど多かったか? どの学者も主観説の立場であり、主観説である限りは正解が見つからないから、いろいろな意見に分かれたのである。

主観説とは、データによらず、心理的な操作によって管理・改善を進めようとする立場であり、次のような特徴がある。

  1. 自分で立てた目標には、やる気と責任感を持ちやすいから、目標を設定させる(Y理論の誤解)。

  2. 努力すればできそうなレベルの少し上に目標を設定する(挑戦的目標)。

  3. 褒めてやれば、やる気を起こすと考える(豚もおだてりゃ木に登る)。その結果、ウソ話を褒めることになる。

  4. 優秀なサークルに賞金を与える(馬の鼻先に人参)。その結果、ウソ話が上手なサークルが賞金を受け取る。

  5. 予言力がなければできないような活動を要求する(目標の設定、活動計画)。

以下、主観説の立場をとる著作から引用して吟味しよう。

細谷氏の写真

日科技連:細谷克也氏から引用

グループの成長のためにも、努力してつぶせる、少し高い目標を設定します。

目標設定には、次の3要素を必ず入れて目標を明確に表現することが重要です。

  • 何を(特性):管理特性
  • いつまでに(納期):テーマ完了時期
  • どうする(目標値):いくらを → いくらに

担当者はできそうな範囲で、目標を設定する傾向にあります。

個人又はグループの成長のために、やや高めの「挑戦的な目標」になるように誘導します。

「努力してつぶせる、少し高い目標」は、将来を見通せる預言者でなければ知り得ない。QC活動はぶっつけ本番であって事前に深く研究する訳ではないから、「どのような成果をいつまで出せるか、事前に発表せよ」との要求は、途方もなくムリな要求である。

この「途方もなくムリな要求」をどうクリヤすればよいか? そう、ウソ話を作る以外にない。

品質管理は「データでモノをいう世界」である。「できそうな範囲」とか「やや高め」のようなカンに頼った予言・ハッタリ競争は廃止しなければならない。

3-4.学界の状況

指導的立場にあるべき研究者の見解はどうか?

加藤雄一郎氏(名古屋工大教授)の見解を拝見しよう。彼は、理想追求型QCストーリーの確立に向けてと題して、2012.8 JSQCニューズで目標について触れている。

それによると、目標の上には目的があるとのことである。以下、引用する。

加藤雄一郎氏から引用
加藤教授の写真

目標の上には目的がある。

『三人のレンガ積み』というお話に出会いました。ヒントは目標と目的の関係にありました。目標の上には目的がある、目的さえあれば、次の目標は自ずと生まれる。

この大原則が、『目的に基づく新規目標の継続的創造』に主眼を置いた理想追求型QCストーリーの根幹となっています。

この解説に接して、「サッパリ分からん」と思う人が多いと思うが、筆者にもチンプカンプンである。まず、彼の「目標」とは、理想、つまり願望・ビジョン・ニーズである。この第一歩に間違いがある。

そこで、どのような願望を持てばよいか分からないときは、目的を思い出せというのである。目的が分かれば、何が欲しいかすぐに分かる。ただ、これだけのこととしか理解できない。これが大学の学者の説だとは、何とも情けない話である。

「目的が分かれば目標も分かる」などの議論は、単なる言葉の遊びであって実質的な中身は空洞だ。それは、次の思考実験で明白である。

いま、工程に慢性不良が発生している。理想は何か? 不良ゼロが理想かどうかは、にわかに分からない。なぜなら、無出費で実現可能なら不良ゼロでよいが、何億円もかかる場合もある。
 例えば、今の製造工程をそっくり作り替えないと「不良ゼロ」にはならい。工場の建物も機械も全部新設するには5億円かかる。しかし、現在のままだと年額100万円の不良損失で済む。

さて、理想、ありたい姿は何だろうか? 「不良ゼロ」がそうだとは言えない。

では、目的を考えよう。目的は「低コスト、短納期で、不良を少なくすること」である(QDC一体管理)。それで? 彼が言うように、目標は自ずと生まれたか?

「目標」を説明するのに、理想追究とか、目的が分かれば目標は自ずと生まれるなどの主張は、無益な言葉遊びである。QC活動に、このような言葉遊びを持ち込んではならない。

(終わり)