3.正しい講評
さて、冒頭の「Y工程の不良率削減」に戻ろう。
審査員の方々にはご帰宅頂き、本音の講評を考えよう。結論をいうと、この発表はウソ話に違いない。以下、ウソを暴くのが本章の趣旨である。
発表に接した人々の反応は、「特に疑わない人」、「ウソだらけ」と嘆く人など様々です。
見る目のある人には「ウソ話はバレバレ」ですが、多くの人達は「QCストーリーに沿った活動」であることを根拠に、催眠術にかかったように懐疑心を失う。そしてこの人達が審査員、品質保証部長、TQMの推進担当重役、あるいは社長である限り、事態は絶望的だ。
早い話が、こんな発表でよいならTQMなど推進する必要はないし、推進しない方がマシである。このウソ話を止めさせることが建て直しの第一歩である。
親企業や顧客企業が子会社や協力工場に対して、このような偽物のTQMの推進を強要することがあるが、このホームページを読んで頂き、直ちに中止する交渉を始めるのも1つの方法である。
日常管理の改善を進めるのに、次のような発表はウソ話であって、こういうことは実務では絶対にない。
- 重点管理に従って活動テーマを選んだ
- 根拠もなしに目標を立てて達成した
- 数ヶ月にわたる活動計画を立て、ほぼ計画通りにコトが運んだ
- ろくにデータもなしに特性要因図を作成して重要な要因に丸をした
- 丸をした要因に対策を講じたら、大きな効果が出た
3-1.不可能なテーマ選定
QCストーリーに従って活動するなら、改善テーマの選定という最初の第一歩が実に大変だ。以下のことが事前に分からないと、コトが進まないはずだからである。
3-1-1.活動テーマに求めること
活動テーマを1個だけ選定し、かつ、それを発表するなら、次のようなテーマでなければならない。
- 恥をかかぬよう、必ず成功する「容易なテーマ」であること
- 高い目標を設定できる「容易なテーマ」であること
- 誇れるほどに、相当に「難かしいテーマ」であること
- 出費が少なくて済むテーマであること
- 効果金額が誇れるどほに大きいこと
- QC手法が使えるテーマであること
- 活動計画を立てる都合上、問題解決型か課題達成型か施策実行型か、活動以前に分かること
- ほぼ6ヶ月で終わること(短くても長くてもダメ)
- 「反省点はない」との発表は許されず、必ず反省点が発生すること
- メンバーの全員が分担して活動できるテーマであること
こんなテーマを探せるだろうか?何しろ、10 サークルが発表すれば10サークルとも、全部がこれにピッタシ当てはまるテーマを発表するのだ。これが真実の発表であるはずはない。世界的な天才であっても、こんなテーマは探せない。
絶対に探せないはずなのに、全サークルがこれをやって退けるのだから、「ウソ話で埋め尽くしたホラ吹き大会」に違いないことは容易に推測できる。
さらに、重点管理をせよという誤った指導により、「小さなテーマには手をつけない」という日常管理とはほど遠いものとなり、品質管理体制が崩壊する。
3-1-2.日常管理が目的
QCサークルの目的は、次の通りである。
- 自己研鑽(活動に参加して自ら学ぶ)
- 相互啓蒙(サークル相互間で学び合う)
- QC手法を活用した日常管理の推進
しかし、自己研鑽も相互啓蒙も、結局は日常管理を円滑に行えるようにするためだから、究極的には日常管理が目的である。発表が目的で、発表のためにQC活動を行う~と誤解する人が実在することに驚かされる。
実施した過去の複数の活動事例の中から「発表に値するもの」を選定して発表すべきである。
全サークルが「成功した」と発表する大会を開きたければ、ウソが許される「4月1日」に開催するのがよかろう。
正しくQCサークルを推進したいなら、「テーマの棚卸」を行なって、QCサークル向きのテーマを30個~50個ほど(決まりはないが)選定しよう。
「QCサークル向きと決めたテーマ群」の中から、やってみたい数個のテーマに同時に取り組み、そのうち「発表に値する実績」が出たら、その中から「発表テーマを選定」する。だから「活動テーマの選定」という発表項目はあり得ない。
QCサークルの発表制度を設ける目的は「相互啓蒙」である。過去の改善事例のうち、勉強になった事例、参考になりそうな事例を選んで発表せよ~と理解するのが正しい。
参考になるテーマかどうかは、活動が終わってからでなければ判断できないから、昨年とか一昨年とか、過去の活動テーマから発表に適するものを選ぶことになる。
ところが、一般にこの最小限度の条件にすら違反している。「立派な成果を出せる活動テーマ」を選べ、というのである。学者・指導機関・コンサルタント・経営者・管理職、QCC推進部署等が、5分で済む以上の検討を怠って誤りを繰り返すのが従来のQCサークルである。
3-1-3.活動はあっても発表はウソ
QCストーリーに従って活動した旨の発表であっても、改善そのものは実在する場合もある。しかし、QCストーリーに従って発表した内容には、どこかは必ずウソが存在することは避けられない。
諸君!ウソ話を発表する習慣から脱却する運動を社内で展開しようではないか。ウソ話からの脱却を図るにはウソ話になる根本的な原因を知らねばならない。その根本的な原因はQCストーリーにある。
どこかの福祉施設で、実際に「ウソ話」を無理やり作らされている女性のブログを見てみよう。
〔参照〕→ (5)テーマの選定(活動テーマの探し方について)
3-2.重点管理は厳禁
審査員は「重点管理をしたのは適切であった」と講評しているが、実は、厳禁である。理由は2つある。
- 重点管理は、技術的・経済的に困難
- 重点管理は、日常管理に不適当
3-2-1.技術的・経済的に困難
「ワースト3」が未解決のまま残っているのは、なぜか?
解決が技術的に、あるいは費用の面で解決が困難だから未解決のままで残っていることが多く、QCサークルが取り組むよりも専門家チーム(プロジェクトチーム)に任せた方がよい。
3-2-2.日常管理に不適当
日常管理は、方針管理と違って、総花的に些細なテーマに取り組む活動である。重点テーマではない些細な問題だから~との理由で、ゴミ、汚れ、不良、ムダ~等を放置することは許されない。
〔参照〕→ (5)テーマの選定
3-3.不可能な目標設定
QCストーリーが「目標の設定」を求めること、それ自体がムリな要求である。
3-3-1.データでモノを言え
品質管理の分野では、「データでモノを言え」という格言がある。いわゆる、データ・アプローチである。カンで推測し、大げさな成果を表明する行為を「ハッタリ」という。
このY工程のケースでは、目標設定の時点で「どの程度の改善が可能か」推し量るためのデータが何もない。従って、このケースの目標設定は、カンとハッタリで設定したことになる。
カンとハッタリで設定した目標がほぼ達成されてしまうのは、なぜだろうか?「取りかかっては見たが、ほとんど改善できませんでした」と正直に発表するサークルが絶無なのは、ウソ話を作ったと考えるしかない。
そのウソ話には、二通りある。
- 1. データの捏造
- データを捏造して成果を大幅に水増しする。
- 2. 作り話
- 実際には行わなかった目標設定、活動計画、特性要因図、グラフ~などを発表用に創作して、そのような行った~と、作り話をする。
3-3-2.不良ゼロの目標
審査員は「どうせなら、不良ゼロを目標にして欲しかった」といっているが、それは妥当か?
QCサークルに目標の設定を要求する人は、大方、マクレガー(MacGregor)のY理論を根拠にする。
人間は、自らの意思で目標を設定し、それを自由裁量の下に遂行する(目標の自己設定)という条件を作れば、自己実現や達成の欲求を満足するので、組織目標と事故目標が同一化され、仕事も遊びと同じ気持ちで遂行する。
何を言っているか、それほど明確ではないが、要するに強制されずに自分が納得して目標を設定するのであれば、仕事の目標も遊びと同じような気持ちで達成するものだとの見解である。単純な肉体労働では、やる気(モチベーション)の有無がモノをいうから、そのような傾向があるかもしれない。
しかし、「やる気」だけではどうにもならない改善活動では、「目標の自己設定」が役立つとは思えない。のみならず、現状はQCストーリーによって目標の設定を強制している。
「不良ゼロ」の目標を設定すべきだとの主張をよく耳にする。これは理想・願望と目標の区別がつかない人達が主張する決まり文句である。そもそも「目標の意味」すら考えたこともない人たちである。
目標(Target)とは、的(まと)のことである。拳銃なのかライフルなのか、「命中させる手段」が決まらなければ的を設定することはできない。手段は分からないが「不良ゼロ」を目標にするという設定の仕方は成り立たない。
具体的手段を考案して、不良ゼロのメドが立ったなら「不良ゼロ」の目標を立てることができる。しかし、手段なしに「不良ゼロ」の目標を設定する行為は、努力も能力もなしに誰にでも簡単にできる行為である。実務では、そのような「楽な行為」が何かの役に立つことはほとんどない。
ほとんど
「当てずっぽうでも、とにかく目標を立てて頑張れば、その通りの結果になるものだ」と信じている経営者もいる。経営がそのように楽なものと思い込んでいるなら、経営者として失格である。そんなことができるのは神様だけ。
また、「一見出来そうもないことに挑戦して成功した経験」のある人も、経験談として「目標を立てて頑張れば何とかなるもの」と主張したがる。それは、たまたまパチンコで儲けた人が「パチンコは儲かるもの」と言うのと似て、損をするケースはその何倍もある。
根拠のない目標が全く当たらないことは、実験で簡単に証明できる。まず目標30%で改善させ、次に50%の目標で同じテーマをやり直し、次は80%でやってみる。目標の設定が有効なら、次第に効果が上がってくるはずなのに、その気配は見られず、この種の目標が全く無意味なことが明確になる。
いや、そんな実験をしなくても、トリノ冬季オリンピックの結果を見れば明らかだ。日本は「トリノではメダル5個を目標に掲げて大会に臨む」と報道されたが、その結果はゼロだった。目標値をどう設定するかによって、結果が変わることはない。
〔参照〕→ (2)目標の設定
3-4.不可能な活動計画
上のY工程の改善事例は、4月に「テーマ選定」から始まって9月末に終了し、10月に発表資料を準備して11月の大会で発表されたことになっている。このように、秋の発表大会で発表する活動テーマを春に選定し、発表に間に合うように取り組め~というやり方を採用する企業が非常に多い。
そしてどのサークルも6ヶ月程度の活動計画を作成し、高い目標を設定して挑戦し、計画通りにコトが運んで、大きな成果を出してほぼ目標を達成し、必ず反省点を列挙し、なぜか失敗することがない。
実務で計画を立てて仕事をしている人には、これが不可能であることはバレバレである。
3-4-1.計画は不可能
活動計画を立てた時点で、どのようなことをするのか、まだ決まっていない。原因や対策も、すんなり見つかるものかどうかも分からない。何にどの程度の期間を要するのか全く分からないはずだ。
QC活動は、多くの場合、CAPDを繰り返す。1回で済むことは絶無であって、数回は繰り返さないと、まともな成果は出ない。1回目は層別で原因追及を先行したが原因は見つからず、2回目~5回目は対策先行でいろいろ試したが解決せず、6回目にやっと解決したという具合に、事前に計画することのできない活動である。
3-4-2.修正が必要
実務では、何をどのぐらいの期間で行うか、過去の経験から推測して計画を立てて活動する。工事の計画、生産計画、その他、各分野でいろいろな計画が立てられる。
しかし、過去に経験があっても、何の修正もなしに最初に立てた計画のままで最後まで進捗を維持できた事例は、まず聞いたことがない。計画は必ず現実とずれてくる。そのずれた時点で、そこからどのように納期に間に合わせるか、再計画をする。これの繰り返しがなければ、計画を運用したことにはならない。これが実務である。
3-5.特性要因図が飾り物
本件の発表では、「なぜなぜ分析で特性要因図に80個の要因を挙げ、「重要な要因3個」にマルをつけた」とあり、これについて審査員は「80個もの要因を挙げたことは、並々ならぬ改善意欲の現れだと思う」と、講評している。
しかし、実務では、これはあり得ない。
3-5-1.重要な要因は原因になりにくい
「重要だと分かる要因」は厳重に管理され、通常、不良の原因となることはない。多くの場合、トラブルの原因は、「特に重要とは認識されずに放置されている要因」である。
従って、重要な要因三つに対策を講じて成果を得た~という話は、ウソである。
3-5-2.なぜなぜ分析の「なぜ?」の意味
「なぜなぜ分析」でいう「なぜ?」とは、何を尋ねているか?
- 原因についての意見(誤り)
- 原因の可能性がある要因(誤り)
- 調査の結果◎(正しい) → 「なぜ?」の意味)
つまり、データの収集と分析を求めている。このことは、三現主義の思想から明らかである。
三現主義とは、(何かトラブルが生じたときに、机上の空論をせずに)直ちに「現場に行って」、「現物を見て」、「現実を把握せよ」という教訓をいう(大野耐一氏のトヨタ生産方式)。
しかし、発表された特性要因図は、可能性(要因)を思いつくままに意見に基づいて作成されており、なぜなぜ分析とは全く異質である。このような「飾り物」で役に立たない特性要因図を作る風習は、次の木村勇雄氏のような一部の指導者によって推進された。
〔参照〕→ 要因の分析
3-6.木村勇雄氏(新潟大学教授)
現場のデータや実験データによらずに、「思いつくまま」とかブレーンストーミングなどの方法で原因がみつかることは、せいぜい「千に一つ」ぐらいである。なぜなら、原因は思いもよらないところに潜むからだ。
さらに深刻な問題は、誤った特性要因図を作ることである。
木村勇雄氏の特性要因図に関する解説から引用する。
「品質変動が大きい」という問題点を特性とし、思いつくままに要因を挙げ、さらに「なぜ○○○なのか、×××だから」を繰り返す。例えば、「なぜ体調が悪いのか、睡眠不足だから。なぜ睡眠不足なのか、夜更かしするから~」と言う具合に。そして、「重要な要因」を〇で囲う。
実務に詳しい専門家は、決してこのような特性要因図を作らない。以下、その理由を説明しよう。
3-6-1.思いつくままの要因列挙はダメ
上の図を見ると、データに基づかないで「思いつくままに無数の要因」を列挙し、根拠なしに重要と判断したものにマルをした「単なる飾り物」だ。思いつくままに多数の要因を列挙するのは、ほとんど無意味である。なぜなら、思いつかないところに原因があるのが通常だかである。
原因追求が目的なら、「疑わしい要因」のみを挙げるべきで、数は非常に少なくてよい。例えば、一番疑わしい要因Aを1個挙げて、その要因Aについて「データを分析する」なり、「対策を講じてみる」なりして検証する。Aが原因ではないと分かったら、次に疑わしい要因Bを挙げて同様にする。これがCAPDサイクルである。
疑わしい要因とは、日常の仕事を通じて「これが原因ではないだろうか?」と疑った要因をいう。
〔参照〕→ 第6章 QC, 要因, 疑わしい要因, 原因
ここでいう「データ分析」とは、「ヒストグラム」や「要因層別」(下の最後の例)のデータなどから、原因であることの確率が非常に高い要因を特定することをいう。

例えば2台の機械で生産している場合に、〔e図〕のヒストグラムで「二山」が見つかれば、「2台の機械の差」が原因であることはほぼ確実。

例えば〔f図〕の「離れ小島」が見つかれば、「仕事始めの段取り調整」の際に「廃棄すべきテスト品」が混入したことがほぼ推測される。

「製品の重量」が重いほど「ジグからの落下」が増えるなら「重量を支えるばねのへたり」が原因。
3-6-2.特定の結果(JIS Z 8101)
上記の木村氏の特性要因図の対象になる特性は「品質変動が大きい」となっている。しかし、JIS規格で、そのような特性要因図は否定されている。「特性」は「特定の結果」でなければならない。
特性要因図とは、「特定の結果」と原因系との関係を系統的に表した図」をいう(JIS Z 8101)。
「品質の変動が大きい」という事象はどの製品のどの品質特性を指すのか特定しないから、特性要因図の対象とすることはできない。それは「スリキズ」と「打痕」をひっくるめて「外観不良」という1つの特性にまとめるのと同様に許されないことである。なぜなら、特性ごとに要因も原因も異なるからである。
3-6-3.5Mの要素
5Mの「測定(=情報収集と分析)」が抜けている。例えば、次のようなミスが抜けてしまう。
- 要求事項を確認しないで加工した。
- 加工後に測定・検査をしなかった。
- 測定・検査の記録を怠った。
- 測定・検査のデータの分析をしていない。
また「人」は作業者に限らず、交代要員、工程管理者など全ての関与者を含む。
3-7.目標達成率の不思議
根拠もなしに設定した目標が、なぜ、ほぼ達成されるのだろうか?それは、データをねつ造するからだ。あまりピッタンコだと怪しまれるから、82%とか93%とかの達成率となるように実績又は目標値をでっち上げるわけ。
つまり、改善意欲に燃えたぎった人達が情熱を注いで頑張れば、不可能という文字は要らない。予言という神様の専業すら横取りするまでになるという真に驚くべきストーリーである。
根拠があって当たるなら、勿論OKであり、最も望ましいケースである。
手段Aで30%、手段Bで20%の改善が可能だと事前に実験で分っており、A・Bの両方で50%の改善になるはずだというなら当っても不思議はない。
しかし、そういう根拠が全くないのに当たるなら、奇跡かウソか、どちらかである。
3-8.ムダな反省
以上のような状況で行う反省はムダである。
有益な反省をするなら、「これまでの発表は全部ウソでした」と発表することになる。
落語に、泥棒一家のおやじが跡継ぎ息子を説教する一幕がある。「泥棒稼業にコツコツ精を出して、人様に恥じない立派な人生を送りなさい」という説教だ。
ウソ話の発表会で行う「反省」は、「真の反省」ではあり得ない。おそらく、「どのような反省文を読み上げれは評価されるか?」と考えて作文するはずだからである。「次回は、もっと大げさなウソ話を作らなくっちゃ」というのが本音であって、「真の反省」をする余地はないのである。