トヨタ式の「なぜなぜ分析」とは、問題が起きたときに次のステップを踏むことによって真の原因(原因のうち、対策を打つことによって問題が解決するもの)を追究する手順をいう。
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大野耐一著「トヨタ生産方式」に示されたなぜなぜ分析の模範例である。
# | なぜ | 原因 | 処置 |
---|---|---|---|
1 | なぜ,停止? | 過負荷,ヒューズ溶断 | ヒューズ交換 |
2 | なぜ,過負荷? | 潤滑不足 | 油を差す |
3 | なぜ,潤滑不足? | ポンプ軸摩耗 | 軸の交換 |
4 | なぜ,摩耗? | 切粉混入 | 切粉の清掃 |
5 | なぜ,切粉が? | ろ過機欠品(真因) | ろ過器取付け |
大野耐一氏は、著書「トヨタ生産方式」の中で、上に示す事例を使って「なぜなぜ5回」を紹介した。そこでは「なぜ」を5回繰り返して真の原因(真因:true cause)を追究する手法として説かれた。
機械が故障で停止したとする。どうすればよいか?
大野耐一氏の考え方は、こうである。
問題が発生したら、とにかく直ちに現場に直行せよ。
原因はアレかも知れない、これかも知れない~といったような机上の空論はせずに、現場で現物を見て現実を知れ(三現主義)。
つまり、特性要因図のような原因かもしれないもの(要因)をいくつも並べるのではなく、現実を知った上で最も原因と疑われることを調査せよ。
そこで、最も疑わしいのは「ヒューズ溶断」であり、調べたら溶断していた。すると、原因は過負荷とショート(漏電を含む)しかない。そして、機械の主軸が異常に重く、過負荷であることが分かったとする。
この場合、ヒューズを交換しても問題は解決せず、過負荷の原因を突き止めねばならない。そこで、次に示すように「なぜ」を5回繰り返して「真の原因(真因)」を突き止めて対策することによって問題が解決する。
# | なぜ | 原因 | 処置 |
---|---|---|---|
1 | なぜ,停止? | 過負荷,ヒューズ溶断 | ヒューズ交換 |
2 | なぜ,過負荷? | 潤滑不足 | 油を差す |
3 | なぜ,潤滑不足? | ポンプ軸摩耗 | 軸の交換 |
4 | なぜ,摩耗? | 切粉混入 | 切粉の清掃 |
5 | なぜ,切粉が? | ろ過機欠品(真因) | ろ過器取付け |
上の調査の過程で、いくつかの原因が見つかった。最初は「ヒューズの溶断」である。これも原因であることには変わりない。なぜなら、ヒューズの溶断がなければ機械の停止もなかったから。
しかし、ヒューズを交換しても問題は解決しないので真の原因ではなく、これは「みかけの原因」である。同様に、潤滑不足による過負荷もみかけの原因であって、処置を講じても問題は解決しない。
問題を解決するには、「なぜ」を繰り返して、真の原因にたどり着いて対策を講じなければならない。
真の原因に対策を講じて問題が解決したら、さらに、同じようなことが他でも起きていないか調査して対処する(水平展開、or 横展開)。
以上が、大野耐一氏の考え方である。
なぜなぜ分析が順調に進んでいるかどうかチェックするツールとして「なぜなぜサイクル」がある。上に紹介した大野耐一氏の事例を、なぜなぜサイクルのテンプレートを使ってチェックしてみよう。
上の表を以下のテンプレートに示す「なぜなぜサイクル」で読む。
# | なぜ | 原因 | 処置 | ||
---|---|---|---|---|---|
1 | なぜ,停止? | → | 過負荷,ヒューズ溶断 | → | ヒューズ交換 |
↓ | |||||
↓ | なぜを継続 | ← | 過負荷が問題 | ← | それで解決? |
# | なぜ | 原因 | 処置 | ||
---|---|---|---|---|---|
2 | なぜ,過負荷? | → | 軸受に給油なし | → | 油を差す |
↓ | |||||
↓ | なぜを継続 | ← | 自動給油が問題 | ← | それで解決? |
「なぜ?」とは、「なぜ問題が起きたか、現地・現物で原因を調査して報告せよ」の意味であって、次のようなことは求めていない(三現主義)。
→ 「なぜ?」の意味
原因が判明したら、「処置によって問題が解決されるか」を検討して、解決するならそれが真因であり、解決されなければ次の「なぜ?」に進む。
〔注〕
「処置」を無視して、
なぜ、停止? → 過負荷,ヒューズ溶断
なぜ、過負荷? → 給油不足~
という具合に進める人がいるが、間違いである。
処置を講じることができるかどうか、検討しなければならない。処置が打てないときは、問題の内容や原因の記載に欠陥があることが表面化する(→ 下の例題を参照)。
〔注〕
トヨタでは、とりあえず目前の現象を解消する一過性の対応を「処置」と呼び、真因に対する対応を「対策」と呼び分ける。ただし、この呼び方は本来は妥当でない。国語辞典では、処置は広く物事に始末をつけることを意味するので、次のように呼び分けるのが望ましい。
なぜなぜサイクルの最終段階は次のようになる。
# | なぜ | 原因 | 処置 | ||
---|---|---|---|---|---|
5 | なぜ,切粉? | → | ろ過機欠品 | → | ろ過器取付け |
↓ | |||||
解決(↑真因) | ← | それで解決? |
このようにして真因が見つかり、これに対策を講じて問題が解決する。
「なぜなぜサイクル」のテンプレートを使うと、
(1)「なぜ?」に対する答えの適否
(2)さらに「なぜ?」を続けるべきかどうか
を検証することができる。
〔例〕うっかりミスの場合、下表の「なぜなぜサイクル」のテンプレートを使うと理解することができる。「処置」のところが「?」となっているが、ここに何が書けるか考えて見よう。
ポカヨケ以外にないことが分かる。
# | なぜ | 原因 | 処置 | ||
---|---|---|---|---|---|
1 | なぜ,起きた? | → | うっかり | → | ? |
↓ | |||||
↓ | ← | ← |
「真因(真の原因)」とは、対策を講じることによって問題が解決する原因をいう。
解決能力の高いA君は問題を解決する対策を思いついたが解決能力の低いB君は手に負えなかった場合、A君にとっては真因でありB君にとっては見かけの原因となる。なぜなぜ分析は、誰がやっても役立ち、正しい真因を探すことができると考えてはならない。
〔注〕
トヨタでは「真因」は「根本原因」とも呼び、これらは同義とされるが、後述のように全く異なる用語と理解すべきである。 → 真因と根本原因
次の分析(豊田マネージメントから引用)の欠陥をなぜなぜサイクルによって見出せ。
〔問題〕会社の出勤時間に遅刻した。
そこで、上司が遅刻した部下に尋ねる。
- なぜ、遅刻した? → 家を出るのが遅かったから。
- なぜ、遅かった? → 朝、起きれなかったから。
- なぜ、起きれなかった?→ 疲れたから。
- なぜ、疲れた? → 最近、残業が続いたから。
- 〔処置〕では今日は残業せずに帰宅して体を休めよう。
〔解説〕真因は残業制度にあり、今日だけ残業せずに帰宅しても真因に対する対策にならない。
〔解説〕
読者は、これと同じ結論になっただろうか?
筆者は、全く違うと考える。
これをなぜなぜサイクルのテンプレートに反映させると、次のように処置の段階で行き詰まる。
# | なぜ | 原因 | 処置 | ||
---|---|---|---|---|---|
1 | なぜ,遅刻? | → | 出るのが遅かった | → | ? |
↓ | |||||
← | ← |
「家を出るのが遅かった」ことに対する処置として具体的に何をすればよいのか分からないことから、このなぜなぜ分析の欠陥が表面化する。これは問題又は原因の捉え方に欠陥があることを示している。
欠陥の内容は次の通り。
JRが販売している定刻起床装置
つまり、これら全体で1つの(理由付き)原因になっており、「なぜ?」は1回で終わりである。
〔問題〕 会社に遅刻した。 | |
1なぜ | なぜ,遅刻した?
→ 原因(朝起きれず家を出るのが遅くなったから)+理由(最近、残業が続いて疲れていたので) |
〔処置〕 原因に正当な理由ありと認め、会社から定刻起床装置を貸し出す。 | |
〔問題は解決?〕解決する。従って、これが真因である。 |
人の行為・判断・感情等について「なぜ?」と問うのは、実質的には理由を問うことになる。人は、機械や自然現象と違って、原因で動いたり判断するのではなく理由によって行動・判断するからである。
「原因」とは、事象(出来事)と事象の間の因果関係において、結果事象に対する先行事象をいう。
「理由」とは、人の行為・判断・感情等が、仕方のない、当然の、やむを得ない、正当なものであることの根拠をいう。裁判官が判決を下すとき、その判決が正当なものであることの説明を「判決理由」といい「判決原因」とは言わない。法律でも原因と理由は明確に区別されている。
〔参考〕
A君の行為によりB君が死亡した場合、
なぜなぜ分析における「なぜ?」とは、何を尋ねているのだろうか?
トヨタ式は、三現主義を基調とするため、現実の調査結果を求める。
真因の調査・解明は、
~ことによって行う。
つまり、調査を繰り返すのであって、「なぜ」という号令を繰り返す必要はない(やってもいいが)。
機械を修理する技術者、航空機の墜落原因を調査する運輸安全委員、病院で患者を診察する医師~等、誰も「なぜ?」を繰り返しながら仕事をしている人は見かけない。このことを示す具体例を挙げよう。
大野耐一氏の機械の故障停止の事例も、「なぜ?」は単なる号令で、実質はデータ収集と分析の繰り返しになっている。
上のステップで、「過負荷,ヒューズ溶断」というのは、単に「そう思う」という意見ではなく、そのような可能性があるという要因でもない。三現主義に従って事実を調査した結果である。つまり、データの収集である。
それを分析すると「潤滑油が回っていないのではないか?」との疑念を生じ、事実を確認したら「潤滑不足」であった~と言っているのである。
航空機の墜落があったときのことを考えれば、上の意味は容易に理解できる。
を繰り返す。しかし、「なぜ、なぜ~」と号令を繰り返す人は誰もいない。
事務職しか経験のない事務員は、いくら「なぜ?」の号令を繰り返しても機械の故障の真因にたどり着けない。
このことは「なぜ?」が単なる掛け声であって、繰り返すべきは調査(データの収集と分析)であることを裏付ける。
真因を突き止めて対策を講じて問題を解消する目処が立ったら、他にも同様の問題がないか調べる(故障停止の事例でいえば、ろ過機の欠品が他の機械にもないか調べる)。
これにより、現存する潜在的な同種の問題を解決することができるが、あくまで現存する問題だけの解決であって、将来発生するかもしれない同様の問題を予防する効果(問題の再発防止の効果)はない。
トヨタが優れた固有技術を持ちながら、一時、世界一のリコール多発企業となったのは、以下の「問題解決と再発防止の混同」に起因すると思われる。
トヨタには、「なぜ?」を5回繰り返せ、どのような場合も5回繰り返さなければならないという、奇妙な規則がある言われている(大野耐一氏の考え方である)。
これを真似て、多くの企業で「なぜは5回でなければならない」、「何とか、5回やったように見せかけて作文しよう」という悪い習慣が横行し、せっかくのなぜなぜ分析を台無しにする弊害を招いた。
「なぜ?」を繰り返す目的は真因を探すことだから、真因を見つけたらそこで終えなければならないのは当然である。
否、むしろ、少ない「なぜ?」で真因を探するように努力しなければならない。
トヨタでは、真因と根本原因を同一と考え、これに対策を講ずることを「再発防止」と称しているが、これは誤りである。真因に対策を講ずると問題は解決するが、再発防止にはならないと考えるべきである。真因は業務の現場に存在し、根本原因は管理システムにあるからである。
このことを「故障による機械の停止」の事例に沿って説明しよう。
「ろ過器」を取り付けることによって解決するのは、当の機械の故障の問題だけである。将来、現場に搬入される機械に同様な問題があっても、そこまでは解決されない。まして、ろ過器に限らず他のユニットや部品の欠品の可能性も解決しない。つまり、問題の再発防止の効果はない。
水平展開をしても現存する問題を解決するだけであって、将来搬入される機械の再発防止にはならい。
トヨタ関係者の中には、次のように説く者もいる。
真因は根本的な原因であって、繰り返し様々な原因を生み出してネズミ算的に問題を発生し、「もぐら叩き」の状態にする~という(A図)。
しかし、それは間違いであろう。
機械の故障停止の事例における真因(ろ過器の欠品)は、そのまま放置しても伝染病のように他の機械に伝染して蔓延する訳ではない。台湾の列車脱線事故における真因(防護柵の欠如)も同様で、そのまま放置しても別の場所に伝染するのではない。その同じ機械、同じ場所における問題が解決しないままになるだけである。
「問題が解決なければ問題が継続する」と理解すべきであって、「問題が解決していないから再度起きる=再発」と考えるべきではない。
その意味で、真因(true cause)は発生した問題ごとに存在するのであって決して根本原因(root cause)ではない。根本原因は別に存在する(B図)。
根本原因は、真因の発生を許してしまった「管理システムの欠陥」である。
「再発」の意味について、二つの立場がある。
これらの妥当性を比較すると、現象の再発の本質は問題の未解決(継続)である。再発という以上は、問題の再発を考えるべきある。
問題再発説でいう再発防止は「真因をなぜ防げなかったのか?」という「新たななぜなぜ分析」によって管理システムに潜む欠陥(根本原因)を見出し、根本対策(再発防止策)を講ずることによって行うべきものである。