なぜなぜ分析 事例 製造 真因 トヨタ 作業ミス 思い込み 練習問題

「なぜなぜ分析」(RCA分析)とは、事故が起きたとき、真の原因(真因)を調査し対策を講じて問題を解決した後に、再発防止の目的で「なぜ」を繰り返すことによって根本原因を追究する活動をいう。
トヨタ式、その他の「なぜなぜ分析」は真因を求める手法として多くの企業で実施されているが、誤った指導が横行し、形骸化し、実のところ有効な活動をしている人はほとんどいない。 このページでは、真の原因(真因)、根本原因の定義・区別に始まって、再発防止の仕組みに至るまで解明し、特にヒューマンエラーによる作業ミスに有効な対策を説明する。 |
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A: 練習問題(1)
分析事例を通じて「なぜなぜ分析」の概要を具体的に説明しよう。
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A-1.事故の概要
下の写真は、2021-03-02に台湾で起きた鉄道事故である(死者50人、重軽症150人以上)。
列車の右上に傾斜した道路があり、道路に柵はなく、崖にはトラックが滑り落ちた跡が残っている。
調査によると、運転手がうっかりサイドブレーキをかけ忘れたという。

A-2.真の原因
この事故の「真の原因」は何か? 〔参照〕 → 真因の定義 |
〔解説〕「真の原因」はデータの収集と分析を通じて、データ的根拠に基づいて推定する。トヨタ式や小倉式のように「なぜを繰り返す」のが正しいと考えてはならない。
- 消防署は火災の原因調査においてなぜなぜ分析をしない。
- 運輸安全委員会は航空機事故の原因調査においてなぜなぜ分析をしない。
- 警察は犯罪捜査においてなぜなぜ分析をしない。
つまり、データ(手掛かり)を集めて、そこから原因を推定する。
なぜなぜ分析によって真因を追究するのではない。
以上は「なぜ」を繰り返して真の原因を追究するものと思い込んでいる人にとって奇異に聞こえるかも知れないが、この先をお読み頂けば納得されるはずである。
本題に戻ろう。
現場のデータから次の4つの原因が考えられるが、「真の原因」はどれだろうか?
- 崖上の坂道の存在
- 道にトラックが存在
- サイドブレーキ忘れ(ポカミス)
- 線路に柵がない
1、2、3 には確実な対策がない。
1. 崖上の坂道の廃止は、可能な場合もあるが、その先の住民の権利を考えれば一般にはできない。
2. 駐車禁止にすることも個人の生活権の制限に相当する公共性がないと困難である。
3. 「サイドブレーキ忘れ」を防ぐ対策はメーカーならできるであろうが、「酔っ払い運転」や「急病」で突っ込んでくることや、「積載物の荷崩れ」もあり得るから、これら全てに有効な対策を講じなければ問題は解決しない。
4. これら広範な原因候補に対する確実な対策としては柵(さく)の設置が適切と思われる。
〔解答〕本件の真の原因は、「道路に柵がなかったこと」である。理由は、柵を設置して問題を解決できるからである。
読者は、上の分析事例と従来教わったトヨタ式や小倉式等の方法で得た解答と比較して欲しい。
詳細 → 対策の有無
データ | 分析 | |
坂道の存在 | 対策なし | 見かけの原因 |
坂道にトラック | ||
サイドブレーキ忘れ | ||
道路に策がない | 対策あり | 真の原因 |
上の事例のように、真の原因を推定させるデータ(手掛かり)が現場に転がっている場合は、データの収集と分析を繰り返す必要はない。
真の原因を推定させるデータが潜んでいる場合は、データの収集と分析を繰り返して顕在化しなければならないが、それは「なぜなぜ分析」ではない。
→ なぜなぜ5回
〔注〕上の分析事例からも分かるように、多くの読者が教わった次のようなトヨタ式や小倉式の進め方は間違いである。
なぜ、脱線事故が起きたか?
→ トラックが道路から線路に侵入したから。
なぜ、トラックが線路に侵入したか?
→ トラック運転手がサイドブレーキを忘れたから。
なぜ忘れたか?
→ うっかりしたから。
なぜ、うっかりしたか?
→ 急用を思い出したから。
〔対策〕急用が生じないように心がける。
このようなやり方では、「真の原因」を見逃して失敗する。「急用を思い出した」ことに対する対策として「急用を作らないようにする」などと決めても役に立たず、問題は解決しない。
A-3.問題解決策
現場のデータに基づいて考えれば、自動車や「荷崩れした積載物」が線路に侵入しないように柵を設置することが最適の対策である。
〔注〕柵を設置する義務が鉄道会社に課すか道路所有者にするか、現行の or 将来に制定するかも知れない台湾の法律次第である。
A-4.根本原因
〔問題〕この事故の「根本原因」は何か?
ここからが「なぜなぜ分析」である。
再発防止のための「根本原因」(管理システムの欠陥)を探す活動である。
A-4-1.鉄道会社の根本原因
・なぜ柵がなかったか(=何がどうであれば柵を設けたはずか)?
→ 安全第一の思想に基づいて線路への障害物の侵入を防ぐ対策を講じる制度が会社の規則で規定されていないから。
・なぜ、会社の規則に規定がなかった?
→ 安全担当役員を始めとする管理者層(経営陣+管理職)の安全意識の不足。
〔再発防止策〕
管理者層の安全意識を改めるべく宣言して、方針管理を実施する。
- 長期方針:ビジョン(将来の姿)を表明し、一定の研究期間を設け、どのような個所にはどのような柵を設けるか、研究する。
- 短期方針:規則を制定し、全ての危険区域の柵を設置し、保全部署を設け、定期的に全線にわたって点検する。
- 柵を設置した後、危険予知活動(KYK)を定期的に実施する。
〔注〕
上の例から分かるように、「なぜなぜ分析」による「根本的な原因」の追求は、上層部(経営者、管理職)の仕事である。管理の欠陥を探す活動だからである。
他方、「真の原因」を追究するのは、現場の作業員や技術者である。現場知識や技術の知識を有する人達だからである。
A-4-2.社会の根本原因
この事故を社会問題として捉えて「なぜなぜ分析」をする場合は、次のように進む。
なぜ、柵の設置義務が鉄道会社の社内規定になかったか?
→ 法律で規定されていなかったから。
→ なぜ、法律で規定されなかった?
→ 行政機関、立法機関の安全意識が不足。
→ なぜ、行政や立法の安全意識が薄いか?
→ マスコミの追究が甘いから。
→ なぜ、マスコミの追究が甘いか?
→ 報道の自由はあるが、報道の義務がないから。
鉄道に隣接する道路や崖に「侵入防止柵」を設置する義務、及び官庁による監督が法律で規定されていないことが根本原因である。
なぜなら、公権力によって強制的に柵を設置しなければ障害物の侵入を確実に防止できないからである。
ところが、企業の経営者、行政府や政界、それにマスコミを教育し命令する者がいない。だから、再発防止はされず、台湾で鉄道事故を繰り返しながら今日まで放置されてきたのである。
A-5.根本対策
根本対策とは、再発防止策のことである。
より根本的な原因ほど改善が重要である反面、指示・教育する者がいないため、対策が難しくなる。唯一の頼みはマスコミであるが、これが、全く頼よりにならないことがある。
- 鉄道会社は、社内規則に柵の設置と維持管理を規定すること。
- 行政と議会は、柵の設置、維持管理について法定し、運行認可の条件とすること。
- マスコミが、原因・対策・再発防止策の具体的な内容を取材し報道するよう法律で義務付ける。
マスコミについては、次のような法律を制定する。
報道機関は、公共の安全・福祉若しくは人の生命・財産の損失を招き、又は招く恐れがあった事件については、原因と対策、再発防止策の具体的な内容について取材し報道しなければならない。 |
以上の例題で「なぜなぜ分析」の概要を理解されたと思うが、現実には「知識の有無」や「考え方の相違」に基づく誤った説(トヨタ式、小倉仁志式)が存在し、実務に支障をきたしている。
1.三つのやり方

「なぜなぜ分析」には三つの考え方があり、実務が混乱している。以下、これらの考え方について簡単に説明する。
1-1.管理欠陥説(鵜沼崇郎) 1-2.真因追究説(トヨタ・大野耐一) 1-3.要因展開説(小倉仁志) ・まとめ |
1-1.管理欠陥説

客観説TQM研究所が提唱した手法である。
業務は、ミスが起きないように管理されていなければならない。そのため、業務管理規定や業務工程の設計に「ミスが起きないための予防策」が仕組まれて(規定され、設計されて)いる必要がある。さらに、それを実行する人材・時間・設備等の経営資源が必要になる。
これら 規則・設計と実行手段(人材や設備等の経営資源)を合わせて、管理システムという。
もし、管理システムに欠陥があると、そこから次々と事故が発生することになる。従って、最初に事故が発生したときに真因を解明して対策を講じた上で、その真因対策を事前に打てなかった管理上の欠陥を追究して是正しておけば、その後の再発を防げるはずである。
この欠陥を根本原因(Root cause)と呼んで、トラブルが発生したら早めにこれを突き止めて是正する必要がある。この根本原因を突き止める活動・手法がなぜなぜ分析である。従って、なぜなぜ分析は、真の原因(True cause)ではなく根本原因(Root cause)を追究する活動である。
このページでは、以上の定義による「なぜなぜ分析」を解説するが、以下、他の説にも簡単に触れる。
実務を混乱させる主な考え方は、以下の二つである。
1-2.真因追究説(トヨタ式)
トヨタの大野耐一氏が提唱したやり方である。
詳細は後述する(→ トヨタ式)とし、ここでは要点のみを紹介する。

大野耐一氏は、著書「トヨタ生産方式」の中で「なぜなぜ5回」を紹介した。そこでは「なぜ」を5回繰り返して真の原因(真因:true cause)を追究する手法として説かれた。
しかし、大野氏は、次の点を誤解されたと思われる。
(1) 真因の解明は、
- その分野の知識と経験に基づいて、
- データの収集と分析を繰り返す。
ことによって行われ、「なぜ」を繰り返しても真因は解明できない。
(2) 真因を突き止めて対策を講じて問題を解消し、水平展開しても、それだけでは再発防止にはならい。なぜなら、~
- 水平展開は、同じような問題が他にもあるのではないかと調査して、問題が見つかったら対策を講じて解決する~という問題解決の活動であって再発棒ではない。
- 「予防できなかった」という管理システムの欠陥(根本原因)が是正されずに放置されるからである。真の原因(真因)と根本原因は同一ではない。
トヨタが優れた固有技術を持ちながら、世界一のリコール多発企業となっているのは、「なぜなぜ5回」の誤りに起因すると思われる。
大野氏のやり方と欠陥についての詳細は後述する。
→ トヨタ式
1-3.要因展開説

もう一つ実務を混乱させている説は、要因展開説である。小倉仁志氏が代表的な提唱者である。
再発を防ごうとするなら、事故に繋がりそうな全ての要因を展開して対策を打たねばならない。「なぜ」を繰り返して展開された多数の要因に対して、さらに「なぜ」を繰り返して多数の要因を展開する。そして、これらのうちの対策が不十分なものに再発防止策を講じると説く。
〔参考〕小倉仁志氏の著作を読んだ方の感想文・要因展開説の欠陥
小倉氏が 「原因」 と称して展開するのは、実は要因(原因になり得る事象、原因かも知れない事象)であって、調査して判明した現実の原因ではない。従って、「真の原因」 は特定できず、対策を講じても問題が解消したという確信は得られず、まして管理システムの追求は手つかずとなって再発を防げない。
小倉氏は、原因と要因の区別を理解する必要がある。

1.「なぜ」を何回繰り返すのか~という問に対し、小倉仁志氏は「再発防止策が見出せるまで繰り返す」というが、それは不可能なことである。技術的に完全に解決しても、根本原因(管理の欠陥)を追究して是正しなければ再発は防げないからである。
2.要因を展開しても、現実のトラブルの原因は見つからないから問題は解決しない。要因と原因は、意味が異なる。
〔参照〕→ 要因と原因
3.「起きるかも知れない無数の要因」に展開すると、全てに対策しきれず、必ず頓挫する。
4.展開して要因数が多くなればなるほど、各1個の要因の重みが薄れ、一部の要因に対策を講じても問題解決や再発防止の効き目は薄くなるから、浅掘り になる。
〔参照〕→ 深掘り
・この章のまとめ
真因追究説(トヨタ)と要因展開説(小倉式)に共通する問題点は、次の通りである。
- 「深掘り」の意味を誤解している点
多数から少数に収束することが正しい「深掘り」である。 - 真の原因と根本原因を混同する点
- 真の原因も根本原因も解明されない点
- 目的が不明な点(問題解決か、再発防止か)
正しい「なぜなぜ分析」は、これらを明確に説明できる必要がある。
以下、管理欠陥説について説明する。
2.正しい手順
「なぜなぜ分析」の手順を下の表にまとめ、その後、事例をまじえて説明する。
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2-1.手順のまとめ
手順を簡単に示せば、下のようになる。「真因の解明」が先で、「なぜなぜ分析」はその後であることに留意して欲しい。
行為 | 行為の目的 | |
1 | 事故の認識 | 事故の顛末の明確化 |
2 | データの収集・分析 | 真の原因を特定 |
3 | 真因への対策 | 問題の解決 |
4 | なぜなぜ分析 | 根本原因の特定 |
5 | 管理システムの是正 | 再発の防止 |
以下、事例をまじえて説明する。
2-2.真因の特定
上の表に示すように、「なぜなぜ分析」を開始する前に、真因を特定する必要がある。
従って、真因を解明した者(担当者、技術者等)は、真因の根拠となるデータ(情報)をなぜなぜ分析会議に説明する必要がある。
なぜなぜ分析を「事故の真因を明らかにする手順」だと思っている人にとって、上の説明を奇異に映る。しかし、その疑問はこの先を読むことによって解消する。
〔参照〕→ 真の原因
説明用の事例
説明の便宜上、次の事例を扱う。
製造工程で作業者がうっかりミス(別称:ポカによる作業ミス、ヒューマンエラー)で取付ける部品を間違えて不良品を作ってしまい、それが出荷されてクレームになった。 |
この場合、作業者からの聞き取り調査、クレームの内容等のデータからヒューマンエラーとの裏付けが取れれば、「ポカが真因である」と一応、認定できる。
ただし、問題を解決できる対策がないときは真因とすることはできない。
→ 真因とは
2-3.会議の招集
事故の内容や規模にもよるが、企業の課内で済む問題の場合は課長が議長になって関係者を招集して開始を開く。他の部門にも関係するような事故の場合は、品質管理委員会で討議する。
この事例では、製造課長が工程設計に「ポカ対策が可能なのにされていない」ことが「真の原因」であると判断し、製造部長にその旨を報告して討議を依頼した。
製造部長は品質保証部長と協議の上、品質管理委員会での討議を要請した。
→ 対策の有無
2-4.根本原因の特定
ここから「なぜなぜ分析」の開始となる。
2-4-1. 会議の開催

議長は、「この事故を予防できなかったのは、なぜか、皆さんの意見を聞きたい」と切り出す。必要なら、提出された意見に対して「なぜ」を繰り返す。
また、反対意見を募り、議論を戦わせる。
〔注〕「なぜ」を繰り返すだけでは真の原因を究明できないが、同じことが根本原因にも言えるか?
根本原因を追究する際の議長は、必ずしも自身が管理システムに精通している必要はなく、「なぜ」を繰り返すことによって精通している人たちの議論を促進することが役目である。
例えば、ある部で、部長がなぜなぜ分析会議の議長になって関係課長と係長を集めて協議する場合に、各課長と係長は自らが関係する管理システムの詳細を知っていなければならないが、部長が詳細に至るまでを知っている必要はない。部長は関係課長や係長に対して、「なぜ、どのような管理の欠陥によって、事故の発生を許してしまったか」を質問する立場にある。
根本原因は一個に限らず複数の、又はより根本的な原因があり得るので、「なぜ」を繰り返すことによって「深掘り」をする。

〔注〕
誤った指導を受けた人の多くは、右図で→方向に発散に向かうことを「深掘り」と理解する。しかし、正しくは、←方向に根本を求めて収束に向かって追跡することを「深掘り」という。 → 深掘り
2-4-2. なぜなぜ討議
この事例では、次のように討議された。
- なぜ、ポカ対策がされなかったか?
→ 工程FMEAが実施されなかったから。 - なぜ、工程FMEAが実施されなかったか?
→ 設計審査で指摘されなかったから。 - なぜ、設計審査で指摘しないか?
→ 工程設計管理規定に、ポカ対策を義務付ける規定がないから。 - では、根本対策として、工程設計管理規定を改訂しよう。
2-4-3. 反対意見
以上に対し、技術陣から反対意見が出た。
現在の受注過剰の状況下では、技術陣が多忙に過ぎて、規定を改訂しても対応できない。
- なぜ、技術陣が多忙に過ぎるか?
→ 営業が、技術陣の能力を超えた受注をするから。 - なぜ、技術陣の能力を超えた受注をするか?
→ 受注量を調整する制度がないから。
2-4-4. 根本対策の採択
根本対策として、次の2つを採用することにした。
- 品質管理委員会に受注量の調整部会を設ける。
- 工程設計管理規定を改訂する。
3.真の原因
なぜなぜ分析の前に、事故の真因が明らかにする必要があること前述の通りであり、下に全体の手順を示す。
以下、真因とは何か、どうやって究明するか、このような問題を考えよう。
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3-1.真因とは
真因(真の原因:true cause)とは、原因のうち、対策を講じることにより問題が解決するものをいう。
従って、問題を解決する適切な対策が見つからないものは真の原因ではない。
1.見かけの原因
これに対して、原因であっても、次の場合は、「見かけの原因」(apparent cause)という。
- 問題を解決する対策がない。
- 対策を講じても、問題が解決しない。
1つの事故に数個の原因(a、b、c)があって、そのうち、a と b には適切な対策が打てず、c に適切な対策が可能な場合、真の原因は c である。
例えば、ヒューズが溶断して機械が停止した場合、「ヒューズが溶断」は機械停止の原因である。しかし、ヒューズを交換しても問題が解決しないから「見かけの原因」であって、真因は別のところにある。
2.対策の有無
原因ではあっても、対策を講じることができないものは、真因ではない。
〔理由〕対策がないものを真因と認めると、結局、問題を解決せずに放置することになるからである。
〔注〕次の二つの表現は、結局は同じ意味である。
- ポカが真因である(対策が可能なポカ)。
- ポカ対策が可能なのに、されていないことが真因である。
3.真因解明の条件
真因は、「なぜ」を繰り返しても究明できない。
もちろん、何事も疑問を抱くことは大切なことであり、それを否定する意図は全くない。しかし、「なぜ」を繰り返すという単純な行為によって「真の原因」を解明できる訳ではない。
真因を究明するのに必要な事項は、次の通りである。
- 固有技術
その分野の十分な知識・経験 - データの収集
原因を推測させる事象・痕跡 - データの解析
データの意味を読み取る作業
真因は、これらの繰り返しによって得られるが、具体的な方法は分野によって非常に異なる。 → 詳細
以下、上記の3点について説明しよう。
3-2.その分野の知識
事故の原因を解明するには、固有技術(その分野の知識)が必要である。「なぜ」と自問したところで、知識・経験がなければ真因の調べようもない。
そのことは、経理課の女子事務員が機械の故障について、いくら「なぜ」を繰り返しても一歩も進まないことから明白である。
以下、思考実験を試みよう。

1) 航空機の墜落事故
航空機の墜落事故が発生した場合に、この方面に詳しい運輸安全委員会が原因調査を担当する。
素人が担当しても、手に負えない。
2) 医師による診察

患者が腹痛を訴える場合、病院ではその方面の医師が診察を担当する。
素人が担当しても、手に負えない。
3-3.データの収集と分析
事故の原因を解明するには、データを収集し、その意味を解釈するための分析が必要である。
そのことを示す事例を拾ってみよう。
ここに、「データ」とは、研究や調査の手掛かりとなりそうな資料をいう。
1)航空機の墜落事故の場合
運輸安全委員会は、「なぜなぜ分析」によって真因解明を試みることはしない。
機体の残骸・フライトレーダ・ボイスレコーダ等のデータを収集する。
それで真が解明されないときは、クルーの病歴、航空機の整備・修理履歴、また、目撃者の証言等のデータを収集して分析する。
つまり、繰り返すのは「なぜ」ではなく、データの収集と分析である。
2)医師による診察
医師は、「なぜなぜ分析」によって腹痛の真因を解明しようとはしない。
患者の自覚症状、小規模な検査、必要に応じて血液検査・尿検査・レントゲン・CT・MRI・内視鏡などの検査を通じてデータを収集する。
医師は、これらのデータを分析し、データが意味するところを汲み取って病名や治療計画を検討する。
つまり、繰り返すのは「なぜ」ではなく、データの収集と分析である。
3-4 思い込み対策
真の原因が「思い込みによるポカ」である場合の対策が特に重要である。
以下、事例を挙げて説明する。
ある工場の出荷作業で、通常梱包と冷凍梱包を行っており、冷凍梱包には温度記録計を同梱する決まりがある。温度記録計の同梱漏れを防ぐために、梱包の中身を作業者が確認して写真を撮影することに決められていた。 ある日、作業者がうっかりして冷凍梱包に温度記録計を入れ忘れ、写真撮影もせずに10台の製品が出荷されてクレームになった。 作業者に対する指示は伝票で正しく行われ、梱包の中身も写真撮影されていたが異常に気付かなかった。 そこで対策として、今後は写真撮影を廃止して、梱包後に作業者が重量を測定して、温度記録計が同梱されているかどうかをチェックすることに改めた。 |
〔解説〕
真の原因を正しく把握しなかったことにより、対策を誤った事例である。
現場のデータ(手掛かり)として、作業者に対する指示は伝票で正しく行われ、冷凍梱包である旨が指示されていた。
作業者は冷凍梱包であることは認識したが、温度記録計を失念したことを物語る。
温度記録計を失念した作業者は、温度記録計がないのが正常だと判断するから、「確認+写真撮影」は対策にならない。
そのことは、重量測定に変えても同じことである。
誤った思い込みに対する対策は、「誤りに気づかせる対策」でなければならない。例えば、疑似冗長を利用する方法がある。→ 8-1. 冷凍梱包の事例
参照 → 疑似冗長設計
3-5 故意の場合
「わざと手抜きをした」ことが真因である場合にも2通りある。
- トラブルを起こそうと思って手抜きをした場合
- トラブルにならないと思って手抜きをした場合
前者は「故意」であって犯罪(業務妨害罪)になる。この場合の対策は容易でない(新幹線がヘンスを巡らして人の立ち入りを防いでも、事故を起こしてやろうと企てる者の立ち入りを防ぐ程には完全ではない)。
後者は過失であって、いわゆる「うっかり」の類であり、疑似冗長が有効な対策となる。
参照 → 疑似冗長設計
4.再発とは
「再発」とは、どういう意味か?
同一の管理システムの下で、続いて事故が発生すことをいう。
同一の原因、同一の事故である必要はない。なぜなら、一見して同じ原因、同じ事故に見えても、多少は異なる点があり、全く同一の原因・事故というものは存在しないからである。
4-1. 事例
あるレストランで食中毒事件が発生した。原因は、一人のコックの手の洗浄不良にあった。店長は、コック全員に手の洗浄方法を指導し、これをもって再発防止が完了した旨を宣言した。
その翌月、また食中毒が発生したが、今度の原因は野菜の洗浄法にあった。店長は、同様に関係者全員に野菜の洗浄方法を指導し、これをもって再発防止が完了した旨を宣言した。そして、店長は「今回は前回と原因が違うから、再発ではない」と主張した。
しかし、世間は「再発だ。あの店の管理はなっていない」と批判した。原因は違っても、同じ管理システムの下で起きているから、いわゆるモグラ叩きであって再発である。これを防止するには、食中毒に関する管理システムを全面的に見直さねばならない。
4-2. 練習問題
あるレストランで食中毒事件が発生した。原因は、一人のコックの手の洗浄不良にあった。その翌月、今度は厨房から火災が発生した。原因は、中華料理のコックが天ぷらのフライパンの火を消し忘れたまま外出したことにあった。
これら食中毒と火災は、事故の再発だろうか?
〔解答例〕
このレストラン全体の管理システムという観点から見れば、再発である(広義の再発)。しかし、「衛生管理システム」と「防火管理システム」に分けて考えれば別事件であって再発ではない。
つまり、狭義には別事件であるが広義には再発であり、「あの店は管理がずさんだ」との批判を免れない。
5.根本原因
根本原因(root cause)は、どこに存在するか? この基本的な問題を明らかにする。
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5-1. 根本原因の位置

手始めに、問題を出そう。
右の展開図でトップ事象が左端にあって、これを右に向かって多数の端末事象に展開したとしよう。
さて、根本(root)とは、左のトップ事象を指すか、それとも右の多数の端末事象を指すか?
正解は、左のトップ事象が根本(root)である。
右の多数の事象は枝先(branches)である。そもそも、根本的な事象は一個(又は少数)であって、「多数の根本原因」などはあり得ない。

根本原因(root cause)の "root" は、日本語でも「ルーツ」というが、源(みなもと)の意味である。
よく聞く話は、世界には多数の人種があるが、これらのルーツはDNA解析で一人の「ミトコンリア・イヴ」という女性達に行き着くといわれている。つまり、多数に分岐した枝先がルーツなのではなく、多数の枝先からさかのぼった「根もと」「出発点」がルーツなのである。
このことを念頭に入れて、次に進もう。
5-2.根本原因とは
「根本原因」とは、事故を防げなかった管理システムの欠陥をいう(同旨:門間清秀氏)。
→ 門間清秀氏の解説をダウンロード
いま、品質マニュアルや工程設計管理規定に「ポカ対策を義務付けていない」という欠陥があるとする。すると、いろいろな作業でヒューマンエラーによる作業ミスが発生する。この状態を下の図に示す。

ポカ対策を義務付けていないから、特に教育の必要もなく、FMEAの教育もシーケンス回路の教育もしていないし、設計審査もしていない。従って、ヒューマンエラーによる作業ミスが多発することになる。
5-3.根本原因の追究
根本的な原因があると、そこから繰り返しトラブルが発生する。
故に、最初にポカによる作業ミスが発生したときに「なぜ」を繰り返して根本原因を特定して是正しておけば、後続のヒューマンエラーは防げたはずである。これが「なぜなぜ分析」による根本原因の追究と再発防止の仕組みである。
この原理を下の図に示す。

上の図を見ると、根本原因には階層があることが分かる。この階層のどこまで「なぜ」を繰り返せばよいかは、その企業の状況によって異なる。より根本的な原因に近づくことを「深掘り」という。
上の図を左から見ていこう。
- 規則でヒューマンエラー対策を義務付けていない。
- → すると、ポカヨケの教育をしない。
- 教育しないから~、
- → 設計審査でポカを問題にしない。
- ポカを問題にしないなら~
- → 設計者もFMEAをしない。
- FMEAをしないからポカ対策が抜けて~
- → ヒューマンエラーが次々に発生する。
- 従って、最初にヒューマンエラーが発生したときに~
- → 「なぜなぜ分析」で根本原因を是正しておけば、その後のポカミスは防げたはずだ。
これが再発防止のメカニズムである。
5-4. 深掘り
根本原因に階層があるため、どこまで「なぜ」を続けるかという問題が存在する。
・多数から少数に収束する方向にアプローチすることを「ボトムアップ」といい、ボトムアップ方向に進むことを「深掘り」という。
・その深掘りの程度は、課のレベルで済む場合もあれば全社的な対応を必要とする場合もあり、扱う問題と企業の事情によりいろいろである。

上図で、トラブル①、②が起きた根本原因Aが存在する。トラブル③が起きたら根本原因Bが存在し、さらにトラブル④が起きたら根本原因Cが存在する。
最も根本的な原因は、経営陣の考え方にある。
5-5.ブロック塀の倒壊
2018年6月18日、大阪北部を地震が襲った。高槻市立寿栄小学校のブロック塀が倒れて登校中の女児が亡くなった。
5-5-1.真の原因
真の原因 (true cause) がブロック塀の違法建築であることは、専門家が倒壊したブロック塀の現場を見れば容易に分かるのであって、「なぜ、倒壊した?」などと訊く必要もない。

問題は、根本原因 (root cause) である。
5-5-2.根本原因
1.なぜ、ブロック塀は違法状態で放置されたか?
〔答え〕市役所が専門家に調査を担当させなかったから。
地震時のブロック塀の倒壊事故は国内で過去にも起きており、安全の確保が不可欠であることは広く知られていた。にもかかわらず、「なぜ、学校、市役所、教育委員会等が、その処置をしなかったか?」、すなわち、管理システムの欠陥を問題にしている。
これを解明しない限り、同様の安易な事故の再発を予防できない。
ところで、報道によれば、実に奇妙な根本原因が存在した。
事故の3年前に、問題のブロック塀について防災アドバイザーから「危険な状態」との指摘を受けて、同小学校は市に調査を依頼した。市は素人の職員による検査を実施して「安全」と判断し、学校側の指摘を生かさなかった。
そうだとすると、調査を依頼する側が専門家で、調査・判断する責任者が素人という矛盾した管理システムになっていたことに気づかされる。
まず、これが一つの根本原因である。
2.なぜ、市役所は専門家を使わなかったか?
〔答え〕法律や条例に規定がないから。
なぜ、そのような矛盾する管理システムになったのか?~と深掘りをすれば、さらに深い根本原因に迫ることになる。
建築基準法も、単に違法・合法を規定するだけではなく、合法性を実現する仕組み(管理システム)を規定すべきであろう。
3.なぜ、法令の欠陥が放置されたか?
〔答え〕報道機関がこの欠陥を積極的に追究しないから。
地震によるブロック塀の崩壊で人命が失われた事件は過去にもあった。それにもかかわらず、法令の改訂をしない国や県の行政府や議員に質問し追究すべき報道機関が役目を果たしていない。
また、報道機関に対し、役目を果たすように命令する権限は誰にもない。
4.深い根本原因ほど、対策が難しい。
以上、のように、「なぜ」を重ねて深掘りするほど、対策は存在するが推進は難しくなり、故に、放置される傾向になる。
5-6.新幹線:台車枠亀裂

2017年12月11日、新幹線「のぞみ」の台車枠に亀裂が生じた。当然、国土交通省から「重大インシデント」に指定された。
原因は、7mm以上必要な肉厚が溶接部の削りにより最小で4.7㎜しかなかったことにあると推測された。
メーカーの川崎重工が台車枠の底部を不正に削った2007年当時、現場の兵庫工場では台車枠の削り込みを禁止する工程設計になっていた。しかし現場では、溶接部の最小限の削りを許容した別の規定を誤って適用。ずさんな製造工程や品質管理体制で、欠陥製品が出荷されていた。
川崎重工が発表した再発防止策は、概略次の通りである。
事故等が起きたとき、一般に、お偉方が「今後、再発防止に努めます」と発表するが、再発防止策の中身は言わないのが普通である。再発防止策の意味を理解していないからである。
その点、川崎重工は、再発防止策の中身を発表した点で「あんたは偉い!」と賞賛すべきである。
しかし、その中身を吟味すると、これで再発防止になるとは思えない。根本原因を明確に特定していないからだ。
参照 → 根本原因(root cause)の意味
そもそも「削ってはならない」と告知したことを守れないという単純な現象に大げさな対策は不要だ。とりあえず改善すべき点は、次の2つである。
1) 工程FMEAを実施していない。
そのために生じた「不順守」という故障モードに対策を講じていない点
参照 → 工程FMEA
2) 品質保証部が、工程の順守を監視して報告するのを怠った点
参照 → 機能別監査
根本原因が分からず、焦点がぼけたままの状態である。
そういう状態で「あれも改善しこれも強化し」というのは、やたら人件費が増えるだけで、再発防止の効果がない。
焦点がぼけているため、上に発表された品質管理委員会、品質保証部、新設の品質管理部も「形式を整えただけ」で役目を果たさない恐れがある。
特に問題なのは、製造部門に品質管理部門を新設するという点だ。
戻って確認 → 再発防止-3
その新設する品質管理部門は何をする人達か?
- もし品質管理をする人達だというなら、これは全社的品質管理を破壊することであって最悪の事態だ。
つまり、それ以外の社員は品質管理をしないという昔の習慣への逆戻りである。 - もし発表の通りに、工程内のプロセス確認、作業指導票などの書類監査をする人達だというなら、それは品質管理ではなく品質保証である。
その場合、従来の品質保証部は何をしておったのか?という問題になる。
製造部門は、それ自体が品質管理部門である。なぜなら、品質・納期・コスト・安全・環境保護を管理する部門だから。
技術部門も資材部門も、同様に品質管理部門である。この品質管理部門であるところの製造部門に「品質管理部門を新設する」とは、どういう意味だろうか?
魚屋の店舗内に魚屋を新設することの意味が分からない。
製造品質を管理する人は、製造品質を作り込む人(作業者と作業者の上司)だけである。もし、この他に品質管理部門を設けるなら、作業者やその上司は品質の作り込み(=品質管理)をしないことになる。
参照 → 課内の品質管理係
川重車両カンパニーの品質保証本部長は、他人事のようにコメントした。
現場が自分たちで何とか(解決)しようとして、設計部門に伝わっていなかった。
しかし、現場の品質管理状況を監視し問題点を把握して関連部署や上層部に報告するのは、他ならぬ「品質保証本部長ご自身」の役目のはずである。
再発防止の目的で「なぜなぜ分析」を正しく行うなら、「品質保証本部長は、なぜ、役目を果たせなかったか」という会社の管理システムの欠陥に辿り着かねばならない。
本件で確認しなければならない最小限度は、次の事項である。
- 工程設計(=機能設計と信頼性設計)を行ったか。
- FMEA(=違反が起きない対策の評価)を実施したか。
- 工程設計について、設計審査をしたか。
- 品質保証部は、工程設計の順守を監視したか。
- 品質保証部は、不順守があったとき、経営上層部に報告しているか。
つまり、「当然のこと」をするだけでよく、「基本に戻れ」である。川重はこれらに全く触れず、「なぜなぜ分析」をしていないように見える。
もう一つ、実はこれが一番重要である。
品質保証部は、問題を上層部に伝えていなかった。なぜなら、その伝える場が「社長を委員長とする品質管理委員会」だからである。
何と驚く勿れ、従来、その品質管理委員会がなかったというのだ。これでは「品質第一主義」を維持することができない。これもTQMの基本である。
参照 → 品質管理委員会
5-7.京大エタノール事件
2000年3月2日、京都大医学部付属病院で人工呼吸器の加湿器に誤ってエタノールが注入され、女性(17)が死亡する医療事故が起きた。
5-5-1. 事件の経緯

看護師Aが加湿器に蒸留水を補充しようとして、倉庫の消毒用エタノール入りポリタンクのラベル確認をせずに蒸留水と思い込んで病室に運び込んだ。
蒸留水の容器はエタノール5Lの容器とほぼ同じ形状で、倉庫に並んで置かれていた。容器のラベルも注意しなければ区別がつかなかった。
数日後、看護師Bがエタノールのラベルに気付いた。それまで複数の看護師が10数回にわたりベッドの下のポリタンクからエタノールを加湿器に注入していたが、エタノールのラベルはベッド側の見えない片面に貼られており、誰も気づかなかった。
女性患者は、急性アルコール中毒で死亡した。
5-5-2. 真の原因
看護師Aがラベルを確認しなかった思い込み(ヒューマンエラー)が真因であること、本人の供述や客観的な状況から明らかであり、また、対策も可能である。
ただし、事故の責任が看護師Aにある、あるいは看護師Aのみにある、という意味ではない。
5-5-3. 根本原因
根本原因は、京大病院の管理システムの欠陥である。
ラベル確認の義務があるとはいえ、人は誰しも、うっかりや思い込みをするものである。管理体制(手段と実行力)を整えて、このヒューマンエラーを予防しておく必要があった。
最も簡便で有効な方法は、受け渡し確認である。人は、通常、1年に1回ぐらいの頻度で比較的大きなポカをやらかす。それを「受け渡し確認」で「360年に1回」に減らすことができる。
簡便な方法として、容器に一見して分かる特徴を持たせること(色分け、形状、サイズ等)も有効である。
さらに、ヒヤリハット活動によって沈黙インシデントを探し出すことが大切である。
6.トヨタ式
大野耐一氏が主導したトヨタ式なぜなぜ分析(なぜなぜ5回)を吟味しよう。
6-1.なぜなぜ5回 6-2.正しい理解 6-3.大野耐一氏について |
6-1.なぜなぜ5回
「カンバン方式」の生みの親といわれる大野耐一氏は、著書「トヨタ生産方式」の中で「なぜ」を5回繰り返すことの重要性を機械が故障停した場合を例に説明しています。次の表は、その「トヨタ式」(真因追究説)の考え方をまとめたものです。
Why | Because | How | |
---|---|---|---|
1 | なぜ、機械が停止? | 過負荷でヒューズ切れ | ヒューズ交換 |
2 | なぜ、過負荷が? | 軸受部の潤滑が不十分 | 潤滑油をさす |
3 | なぜ、潤滑不十分? | 潤滑ポンプ軸の摩耗 | ポンプ軸を交換 |
4 | なぜ、摩耗した? | 潤滑油に切粉が入っていた | 切粉を掃除 |
5 | なぜ、切粉が混入? | 濾過器が欠品(真の原因) | 濾過器をつける |
大野氏は、上のように、真の原因にたどり着くために繰り返したことは「なぜ」という問いかけであると考えたようである。そして、濾過器をつけて、他に同様の欠陥を持つ設備がないか横展開して再発を防止できると考えた。しかし、ここに2つの誤解があった。
1. 真の原因は「技術的知識」、及び、「データ収集と解析」の繰り返しによって得られたのであって、「なぜ」の繰り返しによって得られたのではない。
女子事務員が「なぜ?」を10回繰り返しても、故障の原因は分からない。
2. 真の原因に対策を講じることにより問題は解決するが、水平展開をしても再発防止にはならない。
根本原因を解消しない限り、再び潤滑油フィルターのない設備が搬入されるかも知れないし、あるいは「モーターが欠品した機械」や「起動スイッチが欠品した機械」が設置されるかも知れない。
6-2.正しい理解
大野氏が示した機械の故障停止の事例で、なぜ、真因が得られたのであろうか?
それは「なぜ」を繰り返したからではなく、技術的知識に基づいて「データの収集と分析」を繰り返したからに他ならない。
ここに、真の原因とは、原因のうち問題を解決する対策を利用できるものをいう。
その繰り返しの際に「なぜ」という掛け声をしようがしまいが、無関係である。「なぜ」という掛け声をすれば真因に辿り着けるし、「なぜ」という掛け声をしなければたどり着けない~という関係にはない。
強いて言えば、「なぜ」は、「調査せよ」との指示である。これは、データの収集と分析を実行せよ~という意味である。
また、真の原因がトンネルの先にある場合は 「データの収集と分析」を繰り返す必要があるが、真の原因が現場に露出しているときは、繰り返す必要もない。
データの収集 | 解析の結果 | 対策の結果 | |
---|---|---|---|
1 | ヒューズの点検 | ヒューズ溶断 | 解決せず |
2 | 過負荷の点検 | 回転が重い | |
3 | 潤滑状況の点検 | 軸受に油なし | |
4 | ポンプの点検 | 軸の摩耗 | |
5 | 油の点検 | 切り粉が混入 | |
6 | 濾過器の点検 | 濾過器なし | 解決 |
上の表の最初の行から、次のように進行している。
- ヒューズの点検は、データ収集活動である。
- ヒューズの溶断というデータを得た。
- これを分析する。
- 過負荷と短絡(漏電を含む)に的を絞る。
上の表の2行目。
- まず、過負荷を調べる。
- 回転が重い~というデータを得る。
- これを分析する。
- 潤滑系統に的を絞る。
このように、データの収集と分析を繰り返して真の原因という的に到達している。
6-3.大野耐一氏について
1.「なぜなぜ分析」はトヨタの大野耐一氏が元祖であるとして、その元祖の「なぜなぜ分析」を売り物にする指導者が多数いる。彼らは、自分では何も考えない「単なる模倣者」である。
2. 大野耐一氏は自動車業界に限らず、生産業全般に革命をもたらした大恩人であることに異論はない。
しかし、大野耐一氏は大きな功績を残した反面、大きな弊害も生んだ。方針管理の目標は「例えば、毎年、不良30%減」という具合に設定する、と唱えた人物である。彼によれば、その根拠は「15%減とか20%減とか、あれこれ言っても仕方ないから30%減くらいにする」との呆れた説明であった。彼の記述は一企業内の経験談であり、管理技術の理論を構成したものではない。
品質クレームについて客先が「なぜなぜ5回」を納入業者に要求し、業者側は形だけの「5なぜ」をでっち上げる悪習慣を蔓延させたのは彼に他ならない。
また、トヨタが、その優れた技術を持ちながら世界一のリコール件数を誇ったのも、「トヨタ式なぜなぜ分析」に欠陥があることを示している。
7.読者からの質問
読者から、次のような質問が寄せられた。
〔質問〕「なぜなぜ分析」が、問題解決の手法ではなく、再発防止のために根本原因を追究する手法であることは理解しました。ところで、問題を解決するにはどうすればよいのですか? |
この質問が多い原因は、なぜなぜ分析を「真の原因」を追究して問題を解決する手法であると教わり、あるいはそのように思い込んでいたことにあると推測される。
〔回答〕問題を解決するには、真因を追究して、真因に対して対策を講じなければならない。
こう説明すると、「では、真因を追究するにはどうすればよいか」と問われることが多いが、前述したように、各分野の固有技術に基づいてデータを収集して分析する。
その場合、①データの収集・分析を繰り返す場合(PDCAによる試行錯誤)と、②一発勝負しか許されない場合とがあることに要注意である。
どのようなデータをいかにして収集し、どのような方法で分析するか、それらは分野ごと、問題ごとに異なる。
具体的には、
1.病気の場合は、医師が必要な検査をして、そのデータから病気を推測する。
2.航空機や鉄道の事故は、運輸安全委員会のやり方で必要なデータを集めて解析する。
3.火災の場合は、消防署のやり方で必要なデータを集めて解析する。
4.機械の故障の場合は、その機械に精通した修理技術者がデータを集めて解析する。
5.工程で発生する不良の場合は、その工程に精通した技術者や管理者がデータを集めて解析する。
〔解析手法〕
要因の層別
結果の層別
直交配列表
要因分析・原因解析
PDCAサイクル
このように、各分野に特有のやり方で行われる。
特性要因図に要因を列挙する~という方法をとる場合に、「要因を漏れなく列挙する」と考えてはならない。「最も疑わしい要因を少数列挙せよ」が正しい。
→ 詳細
8.事例集
8-1.岐阜市民健康センター事件 ・事件の概要 ・真の原因 ・問題解決策 ・根本原因と根本対策 8-2.大牟田病院ワクチン放置事件 |
8-1.岐阜市民健康センター事件

8-1-1. 事件の概要
岐阜市主催の胃がん検診を受診した50代の女性が、市内の病院で胃がんで死亡した。
原因は、岐阜市民健康センターがこの女性に対して「要精密検査」と通知すべきなのに、誤って「異常認めず」と通知したことにある。
職員が2名で読み合せる決まりになっていたのに、1名で済ませて間違ったという。
問題解決策、及び再発防止策は?
8-1-2. 真の原因
事実関係のデータから、次のことが原因として挙げられる。
- 担当した1名のうっかりミス
〔理由〕対策が可能で、問題が解決するから。しかし、従来は「職員が2名で読み合せる決まり」というもので不完全な対策であった。
8-1-3. 問題可決策
次の3つの対策を全て実行すれば十分と思われる。
(1)疑似冗長
2名の職員A、Bが読み合せれば、かなり安心できる(下図参照)。それには手順書(工程設計)を作成し、工程FMEA によって「うっかりミス」が起きそうな作業を特定し、FTA でいう「疑似冗長」の対策をとることになる。

人は誰しもうっかりミスをするが、大ポカの頻度は「年に1回」程度と実務経験則から仮定できる。
上図のように、Bが手抜きをすればAが異常に気づき、Aが手抜きをすればBが異常に気づくように疑似冗長による監視の仕組みを構成すれば、2名の職員が同時にミスをする頻度は260年に1回程になり、かなり安心できる。
(2)受け取る側も点検
「2名の押印がない通知書は無効である」と、通知書に印刷し、受け取る側にも点検の機会を与える。
(3)教育
1名の職員が他の1名の印章を使用して2名作業を偽装したら、公文書偽造罪や印章偽造罪などの刑法犯として処罰されることを教育する。
8-1-4. 根本原因と根本対策
条例等で明確に規定されていないことが根本原因であり、規定を確実に実行する人材と組織を維持しなければならない。
マスコミが活躍しないことも根本原因であることは言うまでもないが、これを解決する手段はあっても実施が困難である(マスコミに対して指導し、命令できる者がいない)。
8-2.大牟田病院ワクチン放置事件
8-2-1. 事件の概要 8-2-2. 真の原因と対策 8-2-3. 根本原因と対策 |
8-2-1. 事件の概要

2021-05-29、福岡県の国立大牟田病院で、医療従事者に接種する予定だった新型コロナウイルスのワクチン1044回分が常温で長時間放置されて使用不可となり、廃棄して240万円の損害を出した。
この場合も2名で行うべく決められた作業を一人で行ったという。
川崎雅之病院長は記者会見で陳謝し、再発防止に努めるとしているが、恐らく再発防止策は講じないであろう。再発防止策の意味を知らないと思われるからである。
8-2-2. 真の原因と対策
上記の岐阜市民健康センター事件とよく似た事件であることに留意したい。「2名で行うように決め、指示したから大丈夫だ」~という管理の甘さが共通する。
「その規則を破ることが出来ない仕組みを作る」ことが管理責任者の務めである。
前記、有効な対策(1) を参照して、次の対策を採用する。
- 責任者Aと助手Bを任命し、Aが冷蔵庫のキーを常時携帯し、Bが冷蔵庫への出し入れを担当する。
- 冷蔵庫からワクチンを出し入れするときだけ、AがBにキーを手渡す~という疑似冗長を構成する。
- Aがキーを渡さないとBが異常に気づき、Bがキーを受け取り(戻し)に来ないとAが異常に気づく。
- これによって、260年に1回程度の頻度に減少する。
8-2-3. 根本原因と対策
上の対策を規則に規定し、毎年、規則の説明会を開催する。
院長を始めとする管理者層の問題意識が不十分であり、このことを認識して、以下の管理手法の教育と実施に努める。
- 手順書(工程設計)の作成
- FMEAの実施
- 疑似冗長の励行
- 以上を管理規則に規定する。
〔注〕
1. FMEAは正式なものでなくても、「うっかりミスが起きたら大変な作業」を見つけること、という簡単なものでよい。
2. マスコミが活躍しないことも根本原因であることは言うまでもない。
B: 練習問題(2)
読者の皆様がどの程度理解されたか、練習問題をやってみよう。
B-1. 事件の概要 B-2. 真の原因 B-3. 対策 B-4. 根本原因のヒント B-5. 根本対策のヒント |
B-1. 事件の概要
ある工場で丸棒の材料Aを切削加工するラインがあって、班長が作業員に「材料が5本足りないから、この製造課の材料置き場から持ってこい」と指示した。ところが、このときに持ってきた材料は外観がよく似た別材Bであることが、製品が加工され納品された後に判明した。 真の原因、疑似冗長、根本原因、再発防止策を提案せよ。 |
B-2. 真の原因
データ(手掛かり)を探して分析する~と言っても、問題解決の初心者や、形式的に「なぜ」を繰り返してきた人々にとって、最初は決して容易でない。以下、例を示そう。
1. X君のデータの収集と分析
X君は次のように分析した
作業員は材料を識別できなかったのだから、材料の識別に関する知識が足りない。従って、対策として、材料の識別の仕方を職場の全員に対して実施する必要がある。
一方、班長は、その作業員が知識を持っていると思い込んで材料を確認しなかった。従って、必ず材料を確認するよう規則で義務付ける必要がある。
2. Y君のデータの収集と分析
Y君は次のように分析した
班長がその作業員に材料を取りに行かせたのは、日常の業務を通じて、その作業員が材料識別の知識を十分に持っていることを知っているからである。従って、識別を間違った原因は、材料の表示を見誤った、正しい材料をBだと思い込んだ~などのヒューマンエラーである。
また、問題文からは明確でないが、班長が誤った指示を出した可能性も否定できない。
従って、班長や作業者を含むいろいろなヒューマンエラーに対応できる対策が必要になる。
また、班長は、その作業員が材料の識別知識を十分に持ち、間違うことはないとの思い込みをし、不安がないために確認しなかった。また、確認しようにも材料にラベルがついているわけでもないから、確認できなかった。
従って、班長が不安を感じて確認せざるを得なくなるような対策が必要になる。
3. 整理して比較
表に整理して、X君とY君を比較してみよう。
項目 | X君 | Y君 |
真の原因 | ・作業員は材料識別の知識が不足 ・班長は作業員に知識ありと思い込んだ。 |
・表示の読み違えや材料の思い込み等のヒューマンエラー ・班長が作業員を過信 ・確認の方法がない。 |
必要な対策 | ・材料の置き場の分離・明確化 ・全作業員に対する材料識別の教育 ・指示者が必ず確認するよう義務付ける。 |
・広範なヒューマンエラーに対応する対策が必要 ・班長が確認の必要性を感じるような対策が必要 |
考え方 | 間違ったから知識がない、確認を怠ったから規則で義務付ける~という具合に、形式的で分析力が乏しい。 | 指示したのは知識ありと知っていたから。確認しなかったのは不安がなかったから~という具合に、実質的で分析力が高い。 |
B-3. 対策
上の分析から、どのような対策を導いたか?
1. X君の対策
- 材料置き場の分離、写真による明示
- 材料識別教育を毎年実施する。
- 班長に確認を義務づける。
2. Y君の対策
- 従来の表示:SKS-3 φ16✕1000 のような表示を廃止する。
- SKS-3 F083-j769-h640 のように、材質(=置場)+IDで表示する。
これにより、暗記することできないからメモ用紙に書いて指示することになって聞き違いなどのリスクが減り、さらに、IDの一致が不安だから確認の必要を感じるようになる。
〔注〕確認の必要を感じないのに確認を義務付けられると、手抜きの衝動に駆られる。
3. 考え方の比較
表に整理して、X君とY君を比較してみよう。これにより、非常に有益なヒントを得ることができる。
X君 | Y君 | |
対策 | 作業員を教育し、班長に確認の義務を負わせる。 | 口頭指示ではなく、記憶が困難なID表示に切り替える。 |
考え方 | 工夫ではなく、力で無理に物事を進めようとする。 | 工夫によって、自然にメモ書きと不安による確認に進むようにする。 |
努力 | 他人の努力を期待する。 | 自分が工夫に努力する。 |
なお、疑似冗長や枠づけ確認 (→ 薬局の事例)などが有益な対策になるが、正解は一つということはない。
4. 一回きりの突発的な行動
本件は、単に不足した材料を補充するという、一回きりの突発的な行動である。従って、多少の費用はかけてもよいが、日常的に仕事量が増えてコストアップするような対策は望ましくない。
また、作業計画・手順書・工程設計・FMEAなども対策として適切ではない。
5. 材料識別の教育は対策にならない
「材料の識別を間違ったのは、識別に関する知識が不足するからだ。故に、教育が必要」と早合点してはならない。
班長がその作業員に指示したのは、日常の業務を通じてその作業員が知識を持つことを知っているからである。
医師や看護師は十分な識別スキルを持ちながら、うっかりミス、思い込みをする(次の練習問題3を参照)。
B-4. 根本原因のヒント
根本原因として、「材料の表示が明確でない、材料管理規定がない、社員教育がない」~等々、あれもダメこれもダメと解答するのは、何も検討しなくて済むから楽な話で、勿論、不正解である。
製造業を営んでいるのだから、一応の管理規定や習慣が備わっていると見るべきである。そのどこかに穴があって本件の事故が生じたのであって、その穴をピンポイントで指摘することを検討しなければならない。
B-5. 根本対策のヒント
根本対策の考え方には、二通りある。
B-5-1. 汎用性の高い根本対策
定常的業務や突発的行動のいずれにも適用できる、汎用性の高い根本対策を考える場合である。例えば、
- 口頭指示・連絡の禁止
- メモ&復唱の義務
- IDの使用
- 一人作業の場合の
・示唆喚呼
・枠づけ確認 - 二人作業の場合の疑似冗長
B-5-2. 個別的な対応策
定常的でない突発的な行動ごとに対策を検討する場合は、その突発的行動を事前に予測しなければならない。
従って、危険予知活動(KYK)や改善提案制度によって事前に起こり得るあらゆるリスクを顕在化し、個々に対策を計画することになる。
突発的行動で事故が起きた後に、その都度対策を考えて規則等に規定するやり方は、いわゆる「モグラ叩き」であって、厳しく禁止しなければならない。
C:練習問題(3)
C-1. 事件の概要 C-2. 真の原因と対策 C-3. 根本原因と対策 |
C-1. 事件の概要
宇都宮市によると、2021年11月16日、市内の医療機関にインフルエンザの予防接種に訪れた12歳未満の子どもに、新型コロナのワクチンを誤って接種したと発表した。 この医療機関では、2つのワクチンをそれぞれ別のトレーに分け管理していたが、看護師がインフルエンザ用注射器とコロナ用の注射器を間違え、そのまま医師に渡し、接種してしまったという。 インフルエンザワクチンの場合、注射器の色は白であるが、看護師から新型コロナワクチン用のオレンジ色のものを渡された医師がそのまま接種したということである。 |
C-2. 真の原因と対策
医師と看護師であるから、インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンンの識別に関する知識は十分であり、この看護師は普段から間違いの少ない仕事をしていたから、医師は安心して確認の必要を感じなかった。
看護師がこの患者を新型コロナのワクチン接種の対象だと思い込んだことが原因である。
思い込み対策は、思い込みに気づく対策が必要であり、まずは基本を考える。
C-2-1. 確認表の作成
看護師Aが、医師の処方箋と薬局から支給された薬剤を揃え、次の用紙に記入する。
患者 氏名 |
生年 月日 |
処方 | 薬剤 現品 |
1回 |
佐藤 明美 |
1932 6-9 |
インフレンザ ワクチン |
インフレンザ ワクチン |
1回 |
C-2-2. 枠づけ確認と疑似冗長
看護師Aと看護師Bの間で、疑似冗長を行いつつ枠づけ確認をして、薬剤と共に医師に渡す。

医師は、一目で枠づけ確認の実施を確認して注射をすればよい。
C-3. 根本原因と対策
実際の医療の現場は、インフルエンザ専門の集団接種、新型コロナ専門の集団接種、日常の外来での接種、入院中の患者に対する接種等、いろいろなケースがある。
これら全てのケースごとに、実態に即した予防策を規定する必要がある。