なぜなぜ分析:トヨタ式,鵜沼式,小倉式
「なぜなぜ分析」とは?
「なぜなぜ分析」(RCA分析)とは、事故が起きたとき、真の原因(真因)を調査し対策を講じて問題を解決した後に、再発防止の会議で議長が「なぜ」を繰り返すことによって根本原因を追究する活動をいう(管理システム欠陥説)。
真因と根本原因は全く別である。
ただし、この意味を理解するには 第2章:管理システム欠陥説(鵜沼式)を読む必要がある。
なぜなぜ分析は、正しく行えば、製造、医療、金融、証券、商業、運輸~等の全ての分野の現場や事務で役立つ。役立つためには、なぜなぜサイクルのテンプレートを使う必要がある。
このページの様々な事例や例題を参照して頂きたい。
トップページの問題の解答
〔問題3〕の答え=4
〔問題3.1〕の答え=1
〔問題3.2〕の答え=4
→ 総合目次
1.なぜなぜ分析のやり方に大別して3つの立場があり、これらの概要を紹介する。
2.元祖:大野耐一氏が指導したトヨタ式ナゼナゼ5回の正しい内容を理解しよう。 3.上のトヨタ式の問題点(欠陥)や誤解について説明する。特に、 4.あるべきなぜなぜ分析(管理システム欠陥説)のやり方を示す。 5.小倉式(要因展開説)では、問題の解決も再発防止もできないことを事例で説明する。 |
当研究所の 「なぜなぜ分析」のYouTube を視聴できます。
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→ 総合目次
事例A 台湾の鉄道事故
分析事例を通じて「なぜなぜ分析」の概要を具体的に説明しよう。
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A1 事故の概要
下の写真は、2021-03-02に台湾で起きた鉄道事故(死者50人、重軽症150人以上)。右上に傾斜した道路があり、崖にはトラックが滑り落ちた跡が残っている。
調査によると、運転手がうっかりサイドブレーキをかけ忘れたという。
A2 よく見る分析例
1.なぜ、脱線事故が起きたか? |
〔解説〕
全国に運転手は無数にいるから、この事故の運転手が「急用が生じた時は、特別に注意を払う」と決心したところで解決にならない。また、その決心も時とともに薄れて行く。
1.なぜ、脱線事故が起きたか?
→ トラックが道路から線路に侵入したから。 |
〔解説〕
この対策は、技術的には可能であり、メーカーなら実現できると思われる。しかし、他にも、酔っ払い運転、運転時の急病、牛馬の転落、荷崩れ~等による事故も考えられ、サイドブレーキの改良だけでは問題は解決しない。
A3 真因を逃す原因
本件の場合、真の原因が「うっかり、ポカ、ヒューマンエラー」であるとした点はやや正しい。なぜななら、「うっかり対策」あるいは「ポカヨケ」をすれば一応問題が解決するからである。うっかりが原因の場合はポカヨケしか問題解決にならない。人は、誰しも、うっかりするように出来ており、「なぜ、うっかりしたか?」と問うてはならない。
しかし、この対策では、酔っ払い運転、運転所の急病、牛馬の侵入、荷崩れ~等の対策にならず、問題が解決しない。対策は、サイドブレーキのかけ忘れに限らず、すべてのポカを排除することを考えねばならない。
本件の場合のポカヨケは、道路に柵を設けることである。つまり、真の原因は道路に柵がないことである。
このように真因を見逃してしまう原因は、3つある
- 真因の意味を理解していないため、目の前に転がっていても気が付かない。
- なぜの回数が多ければ多いほど優れた分析だと誤解して、真因を飛び越えて進んでしまう。
- 小倉式のように脱線事故の「要因」を考えて現場を見ないために真因を見逃す。
- 「トラックが道路から転落して侵入するのはなぜか?」と、転落・侵入するシーンにこだわること。逆に、侵入できないシーンを想定すれば、現場観察で防護柵がないことに気が付きやすい。
A4 正しいトヨタ式
上のなぜなぜ分析をトヨタ式で行えば、こうなる。
1.崖上の道路でサイドブレーキをかけ忘れて駐車したトラックが崖を転がって線路に侵入して列車が脱線したのは、なぜか? 〔対策〕防護柵を設置する。 |
〔解説〕
なぜ、こうなるか、説明しよう。
(1) トヨタ生産方式における問題解決は、全て、三現主義(現場で、現物をみて、現実を知る)が基本になっている。机上の空論はやらない。
現場を調査すると、サイドブレーキをかけ忘れて停車したトラックが上の道路から崖を転がって線路に侵入して列車が脱線した~という事実まで知ることができるので、ここまでは「なぜ?」と問う必要がなく、ここから先を問えばよい。
(2) 「真因(真の原因)」とは、対策を講じて問題を解決することのできる原因をいう。
従って、このケースの「なぜ?」は1回が正しい。
# | なぜ | 原因 | 処置 | ||
---|---|---|---|---|---|
5 | なぜ,トラック侵入? | → | 防護柵なし | → | 防護柵の設置 |
↓ | |||||
解決(↑真因) | ← | それで解決? |
A5 根本原因
上のトヨタ式では、真因=根本原因であって、真因に対策を講じて横展開して現存する問題が全て解決すれば、それすなわち再発防止であるとされる。
しかし、これには疑問がある。
将来、開設する鉄道路線で、再び防護柵のない道路が現れないという保証がない。防護柵のない道路が現に存在した以上、管理システムに何らかの欠陥があるはずであり、この欠陥を見つけて是正しない限り問題の再発を防げない。この欠陥が根本原因である(管理システム欠陥説)。
A6 再発防止策
上のトヨタ式では、真因=根本原因であって、真因に対策を講じて横展開して現存する問題が全て解決すれば、それすなわち再発防止であるとされる。
しかし、管理システム欠陥説では、管理者層(経営者と管理職)の会議で、議長が「真因の発生を予防できなかったのは、なぜか?」と問う、新たな「なぜなぜ分析」を始める。
議長は各部門のすべての規則や実情を把握している訳ではないから、事情に詳しい関連部門の管理職に対して「なぜ、柵のない道路の存在を許したか? 皆さんの意見を聞かせてほしい」と切り出す。
それに対する回答に議長は「なぜ?」を繰り返し、関連部門の間の議論を促し、管理システムの欠陥(根本原因)をあぶりだす。
最後に、再発防止策として、規則を始めとする経営資源の是正を行う。
筆者は台湾鉄道の実態に通じている訳はないが、およその想像で描けば、根本原因と再発防止策は次のようなものとなるであろう。
根本原因は次のようなもの推定され、これらを是正すことが再発防止策となる。
- 線路わきの条件を定める規則がない。
- 線路わきの状況を点検・監視する制度や部署がない。
- 安全関連の工事の予算が不足し、稟議書を提出しても許可が出ない。
(例題A-終わり)
1 トヨタ式(真因追及説)
トヨタの大野耐一氏が提唱したやり方である。
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11 真因の追究手順
大野耐一氏は、著書「トヨタ生産方式」の中で、下に示す事例と共に「なぜなぜ5回」を紹介した。そこでは「なぜ」を5回繰り返して真の原因(真因:true cause)を追究する手法として説かれた。
111 三現主義が基本
機械が故障で停止したとする。どうすればよいか?
大野耐一氏の考え方は、こうである。
問題が発生したら、とにかく直ちに現場に直行せよ。
原因はアレかも知れない、これかも知れない~といったような机上の空論はせずに、現場で現物を見て現実を知れ(三現主義)。
つまり、特性要因図のような原因かもしれないもの(要因)をいくつも並べるのではなく、現実を知った上で最も原因と疑われることを調査せよ。
そこで、最も疑わしいのは「ヒューズ溶断」であり、調べたら溶断していた。すると、原因は過負荷とショート(漏電を含む)しかない。そして、機械の主軸が異常に重く、過負荷であることが分かったとする。
この場合、ヒューズを交換しても問題は解決せず、過負荷の原因を突き止めねばならない。そこで、次に示すように「なぜ」を5回繰り返して「真の原因(真因)」を突き止めて対策することによって問題が解決する。
# | なぜ | 原因 | 処置 |
---|---|---|---|
1 | なぜ,停止? | 過負荷,ヒューズ溶断 | ヒューズ交換 |
2 | なぜ,過負荷? | 潤滑不足 | 油を差す |
3 | なぜ,潤滑不足? | ポンプ軸摩耗 | 軸の交換 |
4 | なぜ,摩耗? | 切粉混入 | 切粉の清掃 |
5 | なぜ,切粉が? | ろ過機欠品(真因) | ろ過器取付け |
112 真の原因と見かけの原因
上の調査の過程で、いくつかの原因が見つかった。最初は「ヒューズの溶断」である。これも原因であることには変わりない。なぜなら、ヒューズの溶断がなければ機械の停止もなかったから。
しかし、ヒューズを交換しても問題は解決しないので真の原因ではなく、これは「みかけの原因」である。同様に、潤滑不足による過負荷もみかけの原因であって、処置を講じても問題は解決しない。
問題を解決するには、「なぜ」を繰り返して、真の原因にたどり着いて対策を講じなければならない。
真の原因に対策を講じて問題が解決したら、さらに、同じようなことが他でも起きていないか調査して対処する(水平展開、or 横展開)。
以上が、大野耐一氏の考え方である。
12 なぜなぜサイクル
なぜなぜ分析が順調に進んでいるかどうかチェックするツールとして「なぜなぜサイクル」がある。上に紹介した大野耐一氏の事例を、なぜなぜサイクルのテンプレートを使ってチェックしてみよう。
121 テンプレートを使う
上の表を以下のテンプレートに示す「なぜなぜサイクル」で読む。
# | なぜ | 原因 | 処置 | ||
---|---|---|---|---|---|
1 | なぜ,停止? | → | 過負荷,ヒューズ溶断 | → | ヒューズ交換 |
↓ | |||||
↓ | なぜを継続 | ← | 過負荷が問題 | ← | それで解決? |
# | なぜ | 原因 | 処置 | ||
---|---|---|---|---|---|
2 | なぜ,過負荷? | → | 軸受に給油なし | → | 油を差す |
↓ | |||||
↓ | なぜを継続 | ← | 自動給油が問題 | ← | それで解決? |
「なぜ?」とは、「なぜ問題が起きたか、現地・現物で原因を調査して報告せよ」の意味であって、次のようなことは求めていない(三現主義)。
- 意見(何が原因だと思うか)
- 要因(どのような事象が原因になりうるか)
→ なぜの意味
原因が判明したら、「処置によって問題が解決されるか」を検討して、解決するならそれが真因であり、解決されなければ次の「なぜ?」に進む。
〔注〕
「処置」を無視して、
なぜ、停止? → 過負荷,ヒューズ溶断
なぜ、過負荷? → 給油不足~
という具合に進める人がいるが、間違いである。
処置を講じることができるかどうか、検討しなければならない。処置が打てないときは、問題の内容や原因の記載に欠陥があることが表面化する(→ 下の例題1を参照)。
〔注〕
トヨタでは、とりあえず目前の現象を解消する一過性の対応を「処置」と呼び、真因に対する対応を「対策」と呼び分ける。ただし、この呼び方は本来は妥当でない。国語辞典では、処置は広く物事に始末をつけることを意味するので、次のように呼び分けるのが望ましい。
- 処置は、広く物事に始末をつけることを意味し、次を含む。
- 応急対策:とりあえず、目先の現象を緩和する一過性の処置
- 恒久対策:問題を解決する処置
なぜなぜサイクルの最終段階は次のようになる。
# | なぜ | 原因 | 処置 | ||
---|---|---|---|---|---|
5 | なぜ,切粉? | → | ろ過機欠品 | → | ろ過器取付け |
↓ | |||||
解決(↑真因) | ← | それで解決? |
このようにして真因が見つかり、これに対策を講じて問題が解決する。
122 「なぜなぜサイクル」の効用
「なぜなぜサイクル」のテンプレートを使うと、
(1)「なぜ?」に対する答えの適否
(2)さらに「なぜ?」を続けるべきかどうか
を検証することができる。
〔例〕うっかりミスの場合、下表の「なぜなぜサイクル」のテンプレートを使うと理解することができる。「処置」のところが「?」となっているが、ここに何が書けるか考えて見よう。
ポカヨケ以外にないことが分かる。
# | なぜ | 原因 | 処置 | ||
---|---|---|---|---|---|
1 | なぜ,起きた? | → | うっかり | → | ? |
↓ | |||||
↓ | ← | ← |
13 真因(true cause)とは
上の事例から分かるように、その処置によって問題が~
- 解決すればその原因が真因(true cause)であり、その処置が「対策」になる。
- 解決しなければ、原因は「見かけの原因」(apparent cause)である。
〔真因の定義〕
「真因(真の原因)」とは、対策を講じることによって問題が解決する原因をいう。
解決能力の高いA君は問題を解決する対策を思いついたが解決能力の低いB君は手に負えなかった場合、A君にとっては真因でありB君にとっては見かけの原因となる。なぜなぜ分析は、誰がやっても役立ち、正しい真因を探すことができると考えてはならない。
〔注〕
トヨタでは「真因」は「根本原因」とも呼び、これらは同義とされるが、後述のように全く異なる用語と理解すべきである。 → 真因と根本原因
〔例題1〕
次の分析(豊田マネージメント)の欠陥をなぜなぜサイクルによって見出せ。
〔問題〕会社の出勤時間に遅刻した。
そこで、上司が遅刻した部下に尋ねる。
- なぜ、遅刻した? → 家を出るのが遅かったから。
- なぜ、遅かった? → 朝、起きれなかったから。
- なぜ、起きれなかった?→ 疲れたから。
- なぜ、疲れた? → 最近、残業が続いたから。
- 〔処置〕では今日は残業せずに帰宅して体を休めよう。
〔解説〕真因は残業制度にあり、今日だけ残業せずに帰宅しても真因に対する対策にならない。
〔解説〕
読者は、これと同じ結論になっただろうか?
筆者は、全く違うと考える。
これをなぜなぜサイクルのテンプレートに反映させると、次のように処置の段階で行き詰まる。
# | なぜ | 原因 | 処置 | ||
---|---|---|---|---|---|
1 | なぜ,遅刻? | → | 出るのが遅かった | → | ? |
↓ | |||||
← | ← |
「家を出るのが遅かった」ことに対する処置として具体的に何をすればよいのか分からないことから、このなぜなぜ分析の欠陥が表面化する。これは問題又は原因の捉え方に欠陥があることを示している。
欠陥の内容は次の通り。
- 「家を出るのが遅かった」だけでは、その遅くなった事情が分からず、処置が取れない。
- 「朝、起きれなかったから」「家を出るのが遅かった」と言われても、
- さらに「疲れたから」「朝、起きれなかったから」「家を出るのが遅かった」と言われても、夜遊びやマージャンで疲れたのか、家族の病気の看護で疲れたのか、残業が多くて疲れたのか~によって処置の仕方も変わるから、これでもまだ処置がとれない。
- 「最近、残業が続いたから」という事情が判明すれば、そこで初めて「やむを得ない遅刻だから会社の負担で定刻起床装置(右図)を貸し出す」~という処置が可能となる。
- 反対に、毎晩、徹夜で賭けマージャンをしたことが判明すれば、減給処分などの処置をとることになる。
つまり、これら全体で1つの(理由付き)原因になっており、「なぜ?」は1回で終わりである。
〔問題〕 会社に遅刻した。 | |
1なぜ | なぜ,遅刻した?
→ 原因(朝起きれず家を出るのが遅くなったから)+理由(最近、残業が続いて疲れていたので) |
〔処置〕 原因に正当な理由ありと認め、会社から定刻起床装置を貸し出す。 |
人の行為・判断・感情等について「なぜ?」と問うのは、実質的には理由を問うことになる。人は、機械や自然現象と違って、原因で動いたり判断するのではなく理由によって行動・判断するからである。
人は何らかの原因によって望ましからざる結果を招いた場合にも、原因に理由が付きまとう。
「なぜ、遅刻した?」という問いは「遅刻せざるを得なかった、どんな正当な事情があったのか?」という理由に重きを置いて尋ねることになり、回答も「こういう原因と、これこれしかじかのやむを得ない事情がありました」という言い訳(理由)が付きまとう。
14 原因と理由
「原因」とは、事象(出来事)と事象の間の因果関係において、結果事象に対する先行事象をいう。
「理由」とは、人の行為・判断・感情等が、仕方ないものであり、当然であり、やむを得ないものであり、正当なものであることの根拠をいう。
裁判官が判決を下すとき、その判決が正当なものであることの説明を「判決理由」といい「判決原因」とは言わない。法律でも原因と理由ははっきりと区別されている。
〔参考〕
A君の行為によりB君が死亡した場合、
- B君が死亡した原因は、A君が包丁でB君の心臓に届くキズを負わせたからである。
- A君がB君を殺した理由は、長年いじめを受けたからである。
15 「なぜ?」の意味
「なぜ?」とは、(理由を尋ねているのではないこと前述の通りであるが)何を尋ねているのだろうか?
- 「何が原因だと思うか」と、意見を尋ねている(トヨタ式を誤解した人)
- 「原因の可能性がある(複数の)要因」を尋ねている(小倉式)
- 「何が原因か」と、現実を調査した結果を尋ねている(トヨタ式、鵜沼式)
トヨタ式は、三現主義を基調とするため、現実の調査結果を求める。
真因の調査・解明は、
- その問題の分野の知識と経験に基づいて、
- 従って、その分野の知識と経験を有する者が、
- データの収集と
- 分析を繰り返す
~ことによって行う。
つまり、調査を繰り返すのであって、「なぜ」という号令を繰り返す必要はない(やってもいいが)。
機械を修理する技術者、航空機の墜落原因を調査する運輸安全委員、病院で患者を診察する医師~等、誰も「なぜ?」を繰り返しながら仕事をしている人は見かけない。このことを示す具体例を挙げよう。
151 機械の故障停止の事例
大野耐一氏の機械の故障停止の事例も、「なぜ?」は単なる号令で、実質はデータ収集と分析の繰り返しになっている。
- なぜ,停止? → 過負荷,ヒューズ溶断
- なぜ、過負荷? → 潤滑不足
上のステップで、「過負荷,ヒューズ溶断」というのは、単に「そうで思う」という意見ではなく、そのような可能性があるという推測でもない。三現主義に従って事実を調査した結果である。つまり、データの収集である。
それを分析すると「潤滑油が回っていないのではないか?」との疑念を生じ、事実を確認したら「潤滑不足」であった~と言っているのである。
152 航空機の墜落
航空機の墜落があったときのことを考えれば、上の意味は容易に理解できる。
- 航空機事故の分野の知識と経験を有する者(運輸安全委員会)が、
- データの収集(フライトレコーダー、ボイスレコーダー、機体の残骸等の回収)
- データの分析(データが示す意味をくみ取る)
を繰り返す。しかし、「なぜ、なぜ~」と号令を繰り返す人は誰もいない。
153 事務員による機械の修理
事務職しか経験のない事務員は、いくら「なぜ?」の号令を繰り返しても機械の故障の真因にたどり着けない。
このことは「なぜ?」が単なる掛け声であって、繰り返すべきは調査(データの収集と分析)であることを裏付ける。
16 横展開(水平展開)
真因を突き止めて対策を講じて問題を解消する目処が立ったら、他にも同様の問題がないか調べる(故障停止の事例でいえば、ろ過機の欠品が他の機械にもないか調べる)。
これにより、現存する潜在的な同種の問題を解決することができるが、あくまで現存する問題だけの解決であって、将来発生するかもしれない同様の問題を予防する効果(問題の再発防止の効果)はない。
17 トヨタ式の問題点
トヨタが優れた固有技術を持ちながら、一時、世界一のリコール多発企業となったのは、以下の「問題解決と再発防止の混同」に起因すると思われる。
171 なぜの回数で深刻な弊害
トヨタには、「なぜ?」を5回繰り返せ、どのような場合も5回繰り返さなければならないという、奇妙な規則がある言われている(大野耐一氏の考え方である)。
これを真似て、多くの企業で「なぜは5回でなければならない」、「何とか、5回やったように見せかけて作文しよう」という悪い習慣が横行し、せっかくのなぜなぜ分析を台無しにする弊害を招いた。
「なぜ?」を繰り返す目的は真因を探すことだから、真因を見つけたらそこで終えなければならないのは当然である。
否、むしろ、少ない「なぜ?」で真因を探するように努力しなければならない。
172 問題解決と再発防止は別
トヨタでは、真因と根本原因を同一と考え、これに対策を講ずることを「再発防止」と称しているが、これは誤りである。真因に対策を講ずると問題は解決するが、再発防止にはならないと考えるべきである。真因は業務の現場に存在し、根本原因は管理システムにあるからである。
このことを「故障による機械の停止」の事例に沿って説明しよう。
「ろ過器」を取り付けることによって解決するのは、当の機械の故障の問題だけである。将来、現場に搬入される機械に同様な問題があっても、そこまでは解決されない。まして、ろ過器に限らず他のユニットや部品の欠品の可能性も解決しない。つまり、問題の再発防止の効果はない。
173 横展開は再発防止にならない
水平展開をしても現存する問題を解決するだけであって、将来搬入される機械の再発防止にはならい。
174 真因と根本原因
トヨタ関係者の中には、次のように説く者もいる。
真因は根本的な原因であって、繰り返し様々な原因を生み出してネズミ算的に問題を発生し、「もぐら叩き」の状態にする~という(A図)。
しかし、それは間違いであろう。
機械の故障停止の事例における真因(ろ過器の欠品)は、そのまま放置しても伝染病のように他の機械に伝染して蔓延する訳ではない。台湾の列車脱線事故における真因(防護柵の欠如)も同様で、そのまま放置しても別の場所に伝染するのではない。その同じ機械、同じ場所における問題が解決しないままになるだけである。
「問題が解決なければ問題が継続する」と理解すべきであって、「問題が解決していないから再度起きる=再発」と考えるべきではない。
その意味で、真因(true cause)は発生した問題ごとに存在するのであって決して根本原因(root cause)ではない。根本原因は別に存在する(B図)。
根本原因は、真因の発生を許してしまった「管理システムの欠陥」である。
175 再発防止
「再発」の意味について、二つの立場がある。
- 現象再発説:現象が繰り返し出現すること。(例)大野耐一氏の機械故障の事例で、「停止」という現象が再び起きること。
- 問題再発説:問題が繰り返し出現すること。(例)同上の事例で、「ろ過器の欠品」等、何らかの欠品を伴った機械が将来、繰り返し現場に持ち込まれること。
これらの妥当性を比較すると、現象の再発の本質は問題の未解決(継続)である。再発という以上は、問題の再発を考えるべきある。
問題再発説でいう再発防止は「真因をなぜ防げなかったのか?」という「新たななぜなぜ分析」によって管理システムに潜む欠陥(根本原因)を見出し、根本対策(再発防止策)を講ずることによって行う。
→ 再発防止策
2 管理システム欠陥説(鵜沼式)
客観説TQM研究所が提唱した手法である。
業務は、ミスが起きないように管理されていなければならない。そのため、業務管理規定や業務工程の設計に「ミスが起きないための予防策」が仕組まれて(規定され、設計されて)いる必要がある。さらに、それを実行する人材・時間・設備等の経営資源が必要になる。
これら 規則・設計と実行手段(人材や設備等の経営資源)を合わせて、管理システムという。
もし、管理システムに欠陥があると、そこから次々と問題が発生することになる。従って、最初に問題が発生したときに真因を解明して対策を講じた上で、その対策を事前に打てなかった管理上の欠陥を追究して是正しておけば、その後の問題の再発を防げるはずである。
この欠陥を根本原因(Root cause)と呼び、問題が発生したら早めにこれを突き止めて是正する必要がある。この根本原因を突き止める活動・手法がなぜなぜ分析である。従って、なぜなぜ分析は、真の原因(True cause)ではなく、根本原因(Root cause)を追究する活動である。
このやり方は、トヨタ式を基礎にして、その欠陥を改良したものということができる。
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21 手順のまとめ
「なぜなぜ分析」の手順を下の表にまとめ、その後、事例をまじえて説明する。「真因の解明」をした後に、「なぜなぜ分析」によって根本原因を追究する点に留意して欲しい。
手順 | 目的 | |
1 | 問題の把握 | 問題の顛末の明確化 |
2 | データの収集・分析 | トヨタ式で真因を特定 「なぜ?」は不要 |
3 | 真因への対策 | 問題の解決 |
4 | なぜなぜ分析会議 | 根本原因の特定 |
議長が「なぜ?」を繰り返す | ||
5 | 管理システムの是正 | 問題の再発防止 |
以下、事例をまじえて説明する。
22 真因の特定
上の表に示すように、「なぜなぜ分析」を開始する前に、トヨタ式と同様の手順で真因を特定する必要がある。ただし、ここでは「なぜ?」という掛け声は使用しない(使用してもいいが)。
→ 真因とは
221 対策の有無
原因ではあっても、対策を講じることができないものは、真因ではない。
〔理由〕対策がないものを真因と認めると、結局、問題を解決せずに放置することになるからである。
〔注〕次の二つの表現は、結局は同じ意味である。
- (対策可能な)ポカが真因である。
- ポカ対策が可能なのに、されていないことが真因である。
23 なぜなぜ会議
前述のように、真因を追究する際には、データの収集と分析を繰り返すのであって、「なぜ?」の繰り返しは不要である。
しかし、根本原因の追究に当たっては、「なぜ?」の繰り返しが必須である。
231 会議の申請
真因を解明した者(担当者、技術者、調査委員会等)は、なぜなぜ分析会議の開催を申請し、真因の根拠となるデータ(情報)をなぜなぜ分析会議において説明する必要がある。
なぜなぜ分析を「問題の真因を明らかにする手順」だと思っている人にとって、上の説明は奇異に映る。しかし、その疑問はこの先を読むことによって解消する。
説明の便宜上、次の事例を扱う。
製造工程で作業者が取付ける部品を間違えて不良品を作ってしまい、それが出荷されてクレームになった。 |
この場合、作業者からの聞き取り調査、クレームの内容等のデータからうっかりミス(別称:ポカミス)との裏付けが取れたら「ポカが真因である」と認定できる。
うっかりミスにはポカヨケ以外に対策がないので、何とかしてポカヨケを工夫することになる。
→ なぜなぜサイクルの効用
しかし、ポカヨケを実施して「現存する問題」を解決しただけでは、将来、新たに発生する業務のうっかりを予防しない限り、うっかりの「再発」を許すことになる。
232 会議の議長
事故の内容や規模にもよるが、企業の課内で済む問題の場合は課長が議長になり、部内で済む問題の場合は部長が議長になって、関係者を招集して会議を開く。他の部にも関係するような事故の場合は、品質管理委員会やその部会で討議する。
この事例では、製造課長が「ポカ対策がされていない」ことが「真の原因」であり、従って工程設計部署との協議が必要であることを製造部長に報告して協議を依頼した。
製造部長は品質保証部長と協議の上、品質管理委員会での討議を要請した。この場合は瀕死管理委員会の委員等が議長となる。
233 議長による「なぜ?」
議長は、「この事故を予防できなかったのは、なぜか、皆さんの意見を聞きたい」~と切り出す。意見が出たら、必要に応じて「なぜ」を繰り返す。
また、反対意見を募り、議論を戦わせる。
〔注〕「なぜ」を繰り返すだけでは真の原因を究明できないが、同じことが根本原因にも言えるか?
根本原因を追究する際の議長は、必ずしも自身が管理システムに精通している必要はなく、「なぜ」を繰り返すことによって精通している人たちの議論を促進することが役目である。
例えば、ある部長が議長になって関係課長や係長を集めて協議する場合に、各課長や係長は自らが関係する管理システムの詳細を知っていなければならないが、部長が詳細に至るまでを知っている必要はない。部長は関係課長や係長に対して、「なぜ、どのような管理の欠陥によって、事故の発生を許してしまったか」を質問する立場にある。
根本原因は一個に限らず複数の、又はより根本的な原因があり得るので、「なぜ」を繰り返すことによって「深掘り」をする。
〔注〕誤った指導を受けた人の多くは、右図で右方向の発散に向かうことを「深掘り」と理解する。しかし、正しくは、左方向に根本(root)を求めて収束に向かって追跡することを「深掘り」という
234 なぜなぜ討議
この事例では、次のように討議された。
- なぜ、ポカ対策がされなかったか? → 工程FMEAが実施されなかったから。
- なぜ、工程FMEAが実施されなかったか? → 設計審査で指摘されなかったから。
- なぜ、設計審査で指摘しないか? → 工程設計管理規定に、ポカ対策を義務付ける規定がないから。
- では、工程設計管理規定にポカ対策を義務付けていないことを根本原因と認定して、再発防止策として工程設計管理規定を改訂しよう。
235 反対意見
以上に対し、技術陣から反対意見が出た。
現在の受注過剰の状況下では、技術陣が多忙に過ぎて規定を改定しても対応できない~という。
- なぜ、技術陣が多忙に過ぎるか? → 営業が、技術陣の能力を超えた受注をするから。
- なぜ、技術陣の能力を超えた受注をするか? → 受注量を調整する制度がないから。
236 根本対策の採択
根本対策として、次の2つを採用することにした。
- 品質管理委員会に受注量の調整部会を設け、営業部門は品質管理委員会の許可を受けて受注するものとする。
- 工程設計管理規定を「重要な作業」についてポカヨケを設定するよう改定する。
24 ブロック塀の倒壊
根本原因が管理システムの欠陥に他ならないこと、社会的な事故の根本原因が容易に是正されないメカに図について説明する。
2018年6月18日、大阪北部を地震が襲って、高槻市立寿栄小学校のブロック塀が倒れて登校中の女児が亡くなった。真因はブロック塀の違法建築だが、驚くべき根本原因があった。
241 真の原因
真の原因 (true cause) がブロック塀の違法建築であることは、専門家が倒壊したブロック塀の現場を見れば容易に分かるのであって、「なぜ、倒壊した?」などと訊く必要もない。
242 根本原因
問題は、根本原因 (root cause) である。
(1)なぜ、ブロック塀は違法状態で放置されたか?
〔答え〕市役所が専門家に調査を担当させなかったから。
地震時のブロック塀の倒壊事故は国内で過去にも起きており、安全の確保が不可欠であることは広く知られていた。にもかかわらず、「なぜ、学校、市役所、教育委員会等が、その処置をしなかったか?」、すなわち、管理システムの欠陥を問題にしている。
これを解明しない限り、同様の安易な事故の再発を予防できない。
ところで、報道によれば、実に奇妙な根本原因が存在した。
事故の3年前に、問題のブロック塀について防災アドバイザーから「危険な状態」との指摘を受けて、同小学校は市に調査を依頼した。市は素人の職員による検査を実施して「安全」と判断し、学校側の指摘を生かさなかった。
そうだとすると、調査を依頼する側が専門家で、調査・判断する責任者が素人という矛盾した管理システムになっていたことに気づかされる。
まず、これが一つの根本原因である。
(2) なぜ、市役所は専門家を使わなかったか?
〔答え〕法律や条例に規定がないから。
(3) なぜ、そのような矛盾する管理システムになったのか?~と深掘りをすれば、さらに深い根本原因に迫ることになる。
建築基準法は、単に違法・合法を規定するだけではなく、合法性を実現する仕組み(管理システム)を規定すべきであろう。
(4) なぜ、法令の欠陥が放置されたか?
〔答え〕報道機関がこの欠陥を積極的に追究しないから。
地震によるブロック塀の崩壊で人命が失われた事件は過去にもあった。それにもかかわらず、法令の改訂をしない国や県の行政府や議員に質問し追究すべき報道機関が役目を果たしていない。
また、報道機関に対し、役目を果たすように命令する権限は誰にもない。
(5) なぜ、報道機関が報道しないか?
〔答え〕憲法が報道の自由を規定するのみで、報道の義務を規定しないから。
以上のように、「なぜ」を重ねて深掘りするほど、対策はあっても推進は難しくなり、放置される傾向になる。
3 要因展開説(小倉式)
要因展開説は、小倉仁志氏が代表的な提唱者である。
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31 考え方
真因に対策を講じるトヨタ式では再発防止にならない。全要因に対策を講じて、初めて再発防止になる。
事故は、いろいろな原因によって発生する。今回の事故は原因Aによって生じたとしても、次回は原因Bによって生じるかも知れに。従って、再発を防ぐには、事故に繋がる全ての要因を漏れなく展開して対策を打たねばならない。
「なぜ」と問い、展開された要因に対して、さらに「なぜ」問うことを再発防止策が打てるところまで繰り返し、対策が不十分な要因に再発防止策を講じなければならない。
真因にこだわると他の要因を逃しやすくなるから、むしろ真因は究明しない方がよい~と説く。
〔参考〕小倉仁志氏の著作を読んだ方の感想文
32 定義
小倉仁志氏の著書から引用する。
「なぜ?」を繰り返しながら、事象の要因を、思いつきではなく論理的に挙げて、再発防止策を導き出す方法。
〔注〕
「思いつきではなく論理的に挙げて」という文言は、理屈で追いかければ要因の漏れは起きない~という趣旨であるが、後述の事例で示すように、むしろ漏れ放題となるのを避けられない。
33 手順
小倉仁志氏の著書から引用した下の図を見れば、言わんとすることは理解できる。
- 事象(事故、問題)を把握する。
- 事情が「なぜ?」起きるか、要因を問う。 → 本件では要因が2個あった。
- それぞれの要因が「なぜ?」起きるかを問う。
- 再発防止策を打つことのできるまで、「なぜ?」を繰り返す。
- 対策が十分に打たれていればOKとし、不十分なら十分な対策を打つ。
〔注〕
- この図の「なぜ」は、「なぜ?+要因」の意味である。
- 原因は「なぜ、起きたか?」と問うが、要因は「なぜ、起きるか?」と問うことになる。
- 「再発防止策」とあるのは、トヨタ式と同様、問題解決策の意味である(全要因に対策を講じて、初めて再発防止になる~という前提がある)。
- 要因に対して対策を講じることが(技術的、経済的、又は法律的に)できない場合にどうするのか、不明である。
- この図では「第1なぜ」の答え(要因)が2個しかないが、最初から10個も挙がる場合もあり、それぞれに「なぜ?」を行って最終段階で100個を超えることもある。
34 小倉式の欠陥
この説の趣旨は、全ての要因を列挙して対策を打つことにある。
341 決定的な欠陥
従って、次のいずれかを証明されると、一挙に崩壊する理論である。
342 その他の欠陥
次の重大な欠陥がある。
- 真因を特定できないから、問題が解決したかどうか確認できない。
- 多数の無駄な対策を講じる結果となり、必ず頓挫する。
35 釣り竿が折れた事例
小倉仁志氏のホームページから引用した模範例である。
事象 | なぜ1 | なぜ2 | なぜ3 | なぜ4 | 再発防止 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
釣竿が折れた | → | 強度を超える力が掛った | → | いっきに曲がったから | → | 魚に合わせず無理に竿を引き上げた | → | 竿の引き上げ方を知らなかった | 師匠に教えを請う |
→ | 購入時より釣竿の強度が低下した | → | 表面の塗装が剥げた | → | 竿をいつも屋外に放置 | 竿を屋内に保管する |
上の小倉氏の模範例に、少なくも次の3つの要因が漏れており、第一の決定的な欠陥に該当する。
- 一行目のなぜ3、「水中の木の枝に釣針が引っ掛かった」もあり得る。
- 一行目のなぜ3、「魚が大きすぎた」もあり得る。
- 二行目のなぜ3、「竿を振り回したときに石に当たって竿を破損した」もあり得る。
36 台湾の鉄道事故
前述の例題A-鉄道事故の真因は「防護柵がない」ことである。そして、真因に対策講じない限り、決して問題は解決しない。
しかし、この事例に小倉式を適用すると行き詰まる。
小倉式を適用した場合、現場を調査せずに理屈だけで追いかけるから、「なぜ1」で次のような多数の要因を挙げることになる。
- 線路わきの崖上に道路が存在
- その道路に駐車した
- 線路わきの崖の存在
- 運転手のサイドブレーキの掛け忘れ
- 酔っ払い運転
- 居眠り運転
- 運転手の急病
- トラックの荷崩れ
- 牛馬の侵入
これだと「柵がない」という真因が漏れているのみならず、どれも鉄道会社が(技術的、経済的、or 法的な理由で)対策を打つことができない要因だけである。これらに「なぜ?」と問いかけても、有効な対策を打てる要因には辿り着けない。
「なぜ、車が線路に侵入したか?」と、侵入可能なシーン(場面)のみを浮かべるから、「侵入できないよう柵のあるシーン」が浮かばない。
この事例により、小倉式には第二の決定的な欠陥があることが証明される。
4.事例B(西本文雄氏)
西本文雄氏(製造部というサイトの管理人)から引用する(模範例)。
〔問題〕あるレストランで新人の料理人が味付け時に醤油を小さじ1杯のところ大さじ1杯入れてしまい、料理が美味しくなかった。そこで、次のように「なぜなぜ分析」を行った。
〔注〕このサイトのホームページには「レストラン」と断っていないが、「新人教育制度」という手段を唱えているので、客相手の料理業と思われる。
事象 | なぜ1 | なぜ2 | なぜ3 | なぜ4 | 再発防止策 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
味付け時に醤油を小さじ1のところ、大さじ1入れてしまった | → | なぜ大さじ1入れたか? | → | なぜ近くに置いてあったものを使ったか | → | なぜ大さじと小さじを知らなかったか | → | なぜ教わったことがなかったか | ①新人教育制度を設ける |
近くに置いてあったさじを使った | 小さじと大さじがあることを知らなかった | これまで教わったことがなかった | 教育制度がなかった | ||||||
なぜ近くに大さじがおいてあったか | → | なぜ置きっぱなしになっていたか | → | なぜ場所を知らなかったか | ②整頓場所お決め手表示する | ||||
前に使った人が置きっぱなしにした | 片付ける場所を知らなかった | 表示されていないので分からなかった |
〔解説〕
(1)なぜごとに記載すべき「処置」が抜けている。
(2)原因の記述が妥当でない。
これを、なぜなぜサイクルのテンプレートを使って検討しよう。
# | なぜ | 原因 | 処置 | ||
---|---|---|---|---|---|
1 | なぜ,大さじ1を? | → | 近くに置いてあったから | → | ? |
↓ | |||||
← | ← |
これといって処置の取りようがないから、「なぜなぜ分析」 になっていない。なぜ、こうなるか?
(1)客商売のレストランのコックである。もし実務なら、「近くにあったから使った」という程の新人は教育すれば何とかなるレベルではなく、顧客に迷惑がかかる前に解雇すべきだ。
あるいは、ろくに修行もせずに料理をさせる店長を教育する必要がある(あまり見込みはないが)。
(2)実務ではなく、単に分かりやすく説明するために作った事例だとしても、重大な誤りがある。「近くに置いてあったから」は原因ではなく理由である(近くに置いてあったから、それを使うのも無理はなく、許される~という主張である)。
つまり、これは真因を追究する活動と全く関係のない活動である。
そのような理由を主張する新人は(なぜなぜ分析をせずに)見込みなしとして解雇するか配置転換すべきである。
5.事例C(Infinity-Agent)
(株)Infinity-Agentの指導例
1.なぜなぜ分析とは?
なぜを繰り返して問題を解決に導く、なぜなぜ分析。オリジネーターはあのトヨタ社だと言われています。カイゼンを世界中に広めたトヨタ生産方式の一環として、問題を発見したらなぜを5回繰り返すというものがあります。これは問題の再発を防止するために、発生した事象の根本原因を徹底的に洗い出すための考え方です。
なぜ、機械は止まったか
→オーバーロードがかかってヒューズが切れたからだなぜ、オーバーロードがかかったか
→軸受部の潤滑が十分でないからだなぜ、十分に潤滑しないか
→潤滑ポンプが十分汲み上げていないからだなぜ、十分に汲み上げないか
→ポンプ軸が摩耗してガタガタになっているからだなぜ、磨耗したか
→ろ過器がついていないので切粉が潤滑油に入ったからだ
〔解説〕
トヨタ式を誤解した典型例である。処置が抜けているため、なぜを止めるか続けるか、判断に困る。
なお、「なぜなぜ分析は危険だ」と題した「タイム・コンサルタントの日誌から」も、同様の指導例である。
6.事例D(Sprocket)
(株)Sprocketの指導例
Webサイト改善におけるなぜなぜ分析の実践例
なぜなぜ分析は、マーケティング活動やWebサイトの問題解決にも役立ちます。例えば、自社サイトのコンバージョン数が前月に比べて減ってしまったケースで考えてみましょう。
課題(事象):自社サイトのコンバージョン数が前月比で低下してしまった。
なぜ1:サイトのセッション数が前月比で低下したから。
なぜ2:ユーザー流入につながるメルマガの配信本数が減っていたから。
なぜ3:メルマガの配信が計画的ではなく、月によって配信数にばらつきがあるから。
なぜ4:メルマガの掲載コンテンツに困ってネタ切れしてしまっていたから。
なぜ5:前もって掲載コンテンツについて検討できずにいたから。
〔解決策〕:定期的なメルマガ配信ができるように配信予定を計画し、掲載コンテンツの準備を整えられるように時間とリソースを確保する。
この例では要因を1つに絞り「なぜ」と深掘りしていきましたが、実際には要因が挙げられる場合もあるでしょう。その際は、要因ごとに事象から分岐させ、「なぜ」を突き詰めていきます。出てきた解決策から優先順位を決めて、具体的なアクションに結び付けられると良いでしょう。
〔解説〕
二つの重大な誤りがある。
- 各なぜの「処置」が抜けているため、答えが妥当かどうか分からない。
- 三現主義で「調査して判明した原因」で答えるべきとこと、「可能性」の要因で答えている。これは小倉式である。
7.事例E(KEYENCE)
(株)KEYENCEの指導例
「なぜなぜ分析」は、発生した問題事象の根本原因を探る分析手法として知られています。問題に対してなぜそれが起きたのか原因を見極め、さらにその原因に対して「なぜ?」を問うことを繰り返し、直接原因だけではなく背後にある根本原因を抽出します。
〔解説〕
三つの重大な誤りがある。
- 根本原因ではなく、真因(真の原因)である。
- 各なぜの「処置」が抜けているため、答えが妥当かどうか分からない。
- 「原因を見極め」とは、三現主義で調査して判明した原因で答えることか、意見のことか、意味不明である。