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福祉QC 事例

このページで述べること。

↓ 目次

 

(1)QCストーリーを使う古典QC活動を廃止し、CDPAサイクルを繰り返しをしよう。
  (2)目標や活動計画は設定しないこと。

QCストーリーは、QCサークルのために用意された手順ではない。
 → QCサークル用の手順ではない
 → QCストーリーは使うな

以上を理解するため、誤った指導を受けた福祉QCサークルの事例を検討しよう。

とがくら園

QC活動、および、発表について学ぶには、事例を吟味して、どこがまずいか具体的に検討するのが近道である。

〔このページで検討する事例〕

施設:宮城県舟形コロニー
  職場:とがくら園
  サークル名:「千両・万両」
  テーマ:「身だしなみを整えよう」


目次
はじめに
1.テーマ
1.名称の意味
2.テーマの事情
3.特性は何か?
2.テーマ選定理由
1.活動テーマは選ぶな
2.発表テーマを選べ
3.活動計画と実績
4.現状の把握
1.把握すべき事項
2.特性値の悪さ
3.バラツキ
4.グラフの目的
5.推奨事項
5.目標の設定
1.手段が尽きるまで
2.データでモノを云え
6.要因の解析
1.偽りの特性要因図
2.正直な特性要因図
3.練習問題
7.対策の立案,実施
1.対策の内容
2.三つの疑問
8.効果の確認
1.効果の有無
2.目標の弊害
9.正しい発表例

はじめに

宮城県社会福祉協会の「福祉QCサークル活動推進本部」から入手した「2010年度:福祉QC活動事例集」から適宜選んで解説します。

事例集を拝見すると非常に分りやすく記述・編集されているため、皮肉なことに、QCサークル活動の基本的な点で誤った指導を受けている状況が浮き彫りになっています。

このページは、福祉QC活動の進め方を改めようと検討中の方にとって有益な情報を提供できるはずです。

福祉QCを実際にやらされている方の →現場の声(ブログ)を拝見して、誤った指導により「いかに酷い状況になっているか」把握してから、以下をお読み下さい。

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→ 目次

1.テーマ

テーマ:「身だしなみを整えよう」
~いつも身ぎれいな人でいよう~

説明されていない点が3つある。

1-1.名称の意味

テーマの名称は「身だしなみを整えよう」であるが、「誰の身だしなみ」か?
  施設で世話を受ける利用者か、それとも世話をする職員か?

前者であることが後で分かるが、わざわざ「テーマ」という説明項目を設けたのだから、ここで分かるようにしなければならない。
  例えば、「利用者様のみだしなみの改善」のようにすれば、およその意味が分かるというもの。

1-2.テーマの事情

誤った指導を受けたサークルに多く見られる特徴の一つは、「テーマ」という項目は「テーマの名称」を示すことだと考えることである。

しかし、発表を視聴する側は「名称など、どうでもいい」と思っており、知りたいのは、~

  1. どのような事情により、
  2. どのような問題が起きており、
  3. それをどのように改善したいか?

~ということであって、発表側はこの求めに応じなければならない。

では、なぜ、間違ってしまうのか?

  1. 「どのような事情により」 → 現状把握で説明する。
  2. 「どのような問題が起きているか」 → 現状把握で説明する。
  3. 「どのように改善したいか?」 → 目標の設定で扱う。

~と考えてしまう。つまり、「名称」だけを残して「テーマ」の説明の中身をそっくり現状把握と目標に移してしまうのだ。

ところが、「現状把握」や「目標設定」はそのような内容を発表する項目ではないので、ここで再び過ちを犯すこと(玉突き現象)になるのである。

1-3.特性は何か?

「テーマ」のところで説明しても「現状把握」で説明してもいいが、「改善する特性」を示す必要がある。

品質管理でいう改善とは、QC手法で表現できる 特性値 の改善である。
  「身だしなみがよくなった」というのでは数値的な扱いができず、グラフを描くこともできず、QC手法の対象にならない。

本件テーマの趣旨は「身ぎれいな人でいよう」ということだが、何を特性とするか、少々考えねばならない。

  1. 合格者の人数
  2. 不合格者の人数
  3. 欠陥項目ごとの件数

~などが考えられるが、「3」が適切と思われる。

例えば、利用者Aは合格で、利用者Bは「食べこぼし」、「靴下の汚れ」、「頭髪の乱れ」で3項目で不合格である場合、改善後に利用者Bの欠陥が1項目に減っても、「1」と「2」の数値は変わらず、この成果を表せるのは「3」のみだからである。

2.テーマ選定の理由

テーマ選定マトリックス
(◎5点 ○3点 △1点)
評価項目


取り上げた問題点
施
設
方
針
重
要
度
緊
急
性
可
能
性
効
果
期
待
活
動
計
画
相
乗
積
順
位
食事時間が忙しい 81 5
水分補給 1125 3
排泄・便秘対策 3375 2
利用者の身だしなみ 9375 1
余暇の過ごし方 675 4

職場に問題点が5つあり、「どれを改善テーマに選んで取り掛かるか」を検討した表であるが、問題点が2つある。

2-1.活動テーマは選ぶな

「テーマ選定理由」とは、どういう意味か?

  1. このテーマに取り組んだ理由(活動テーマの選定理由)
  2. このテーマを発表する理由(発表テーマの選定理由)

~のいずれだろうか?

誤った指導を受けたサークルは、「活動テーマ」の選定理由だと考えてしまう。上の「テーマ選定マトリックス」を見ると、まさにその典型例であることが分かる。

しかし、選定すべきは「発表テーマ」である。
  活動テーマを1個だけ選ぶという意味の「活動テーマの選定」をしてはならない。
  〔参考〕→ 活動テーマの選定

例えば、新しい製造ラインが流れ始め、不良項目が5個出ることが分かって改善しようとするとき、何だかんだと理由をつけて「1個だけ選定して、他は放置する」というのでは日常管理にならない。当然、同時に全部に着手して、並行して進めることになる。

もっとも、不良項目が多すぎると同時に着手できないが、それは単に順番待ちにするだけで、理由をつけて排除することではない。

職場には、普通「問題が1個しかない」ということはない。
  「これはもう少し良くならないか?」、「あれはもう少し良くならないか?」と考えれば、問題はいくらでもある。また、「このテーマにはこの手があるのでは?」、「あのテーマにはあの手がありそうだ」という具合に、手を付けられるテーマが複数あるのが普通である。

2-2.「発表テーマ」を選べ

「テーマ」のところで「今から発表するテーマ」を紹介したあと、次は「なぜ、このテーマを発表するか」の説明になるのはごく自然な流れである。

つまり、「発表テーマの選定」が正しい。しかし、本件では「なぜ、このテーマに取り掛かったか」を説明している。

どっちが妥当な考え方だろうか。

QCサークルの目的は、~

  1. 自己研鑽(自分の勉強)
  2. 相互啓蒙(交流を通じてお互いに学び合うこと)
  3. QC手法を使った日常管理の推進

~であるが、QC活動の発表は、上の(2)相互啓蒙(相互に学び合う)を目的とすることは明らかである。

従って、発表会向けに、相互啓蒙に適する発表テーマを、過去のいくつかの実績の中から選定しなければならず、その理由を教えて欲しいのである。→ 発表テーマ選定理由

例えば、

1.こういう点が勉強になりました。
  2.こういう点が皆様の参考になれば、と思いました。
  3.こういう点で困っているので、助言をお願いします。

~など、詳細な説明に入る前の予告編として簡単に述べる。

3.活動計画と実績

活動計画

上の「活動計画・実績表」なるものは、発表の直前に体裁のためにデッチ上げたものと疑われる。

この活動計画は、立つはずがない。
  まだ現状把握もしていないし、原因の手がかりもなく、対策の検討もしていない段階で、「活動の最初から最後までの作業を見通す」などということは、「予言者」の仕事であって、普通の人間にできる技ではない。

何かやったとしても、成功するか失敗するかも分からず、いつまでに終わるかも皆目見当がつかないはずである。
  対策Aを打ってもダメかも知れない、対策Bを追加しても不十分かも知れない。どういうコースを辿って何日かかるか、想像もつかないはずである。

本件のように、最初から最後まで活動計画が立ち、ほぼ計画通りに進み、対策Aも対策Bも成功して目標を達成することができた~と主張するなら、それは次のいずれかである。

小集団活動は、小改善であって、次のようなCAPDサイクルを手段が尽きるまで繰り返す活動であり、「先々のこと」はどう転ぶか、やってみなければ分からない活動である。

  1. 現状の把握(C: check)→ ちょっと不満だ。もう少し良くならないか。
  2. 原因の推測、対策の立案(A: action)→ こうしたらどうだろうか。
  3. 対策の決定(P: plan)→ よし、その手で行こう。
  4. 対策の実施(D: do)→ やってみたが、どうなった?
  5. 現状の把握(C に戻る)→ 効果はあったが完全ではない。もう少し良くならないか?
「現状の把握」から始まるCAPDサイクル
管理サイクル

このCAPDサイクル手段が尽きるまで繰り返すのあって、計画通りに行うのでもなければ目標達成まで続けるのでもない。根拠もなしに予め目標や計画を立ててもムダである。

4.現状の把握

7日間調べたところ、次の通りであった。

現状把握で分ったこと:

  1. 職員の多くは、利用者の「身だしなみ」について常に何らかの問題意識を持っている。
  2. そのうち大きなウエイトを持つのは「衣類の汚れ」と「服装のセンス」であった。
  3. 「衣類の汚れ」の原因は、「飲み物のシミ」と「食べこぼし」がほとんどである。
  4. 衣服の在庫を調べると、古くなった、破れている、季節ごとの衣服がない、等の問題があった。
問題はあるか 何を問題と感じているか 汚れ改善前

「現状の把握」は、CAPDサイクルの最初の「C」に該当し、改善する特性値の現状がどうなっているか? 「悪さ加減」すなわち、平均値(ベンチマーク)とバラツキを明らかにすることである。
  ところが本件では、次のような「特性らしきもの」は挙げているが、ベンチマークやバラツキは明らかにしていない。

  1. 頭髪・ひげ
  2. 飲み物のシミ
  3. 食べこぼし
  4. 服装のセンス
  5. 靴の汚れ
  6. 靴下の汚れ

これらは「特性ではないか?」と筆者が考えて拾い上げたものであるが、本件の発表では「これが特性だ」と明示されておらず、果たして何が改善特性になるのか、いまだ明確ではない。

4-1.把握すべき事項

v-sign

誤った指導を受けたサークルの次の特徴は、「現状」の意味を取り違えることである。
  本件の「現状把握」は、~

  1. 特性
  2. 平均値(ベンチマーク)
  3. バラツキ

~などの本来の「現状把握」の代わりに「テーマ」の説明で占められている(テーマの説明がここに移転している)。

「平均値」や「バラツキ」をデータを用いて計算してもいいが、「時系列折れ線グラフ」に表せは可視化されて視聴者が理解しやすいので、QCサークル発表にはこのグラフを使うのが一般的である。

4-2.特性値の悪さ

第一は、特性値の「悪さ」、すなわち「どの程度悪いかを示す代表値=平均値」である。
  「現状の把握」では、特性ごとの毎日の件数の平均値を把握して、これを「ビフォア・アフター」のベンチマーク(基準)とする。

問題はあるか

上の図は身だしなみに「多少問題がある人」と「問題が多い人」という2つの特性を設定して比較しているが、これは「特性」として扱うことはできず、全く無意味なグラフである。
  なぜなら、「多少問題がある人」も「問題が多い人」も「異なる種類の問題」を抱える人たちで特性が混ざっており、層別する必要があるからだ。

特性が、「衣服の汚れ」、「髪の乱れ」、「靴下の汚れ」~という具合に複数あるときは、それぞれ原因の異なる別特性であるから、データを混ぜてはならない。
  また、「衣服の汚れ」と表現しているが、実は「食べこぼし」と「原因不明の汚れ」に分かれるなら、これも別特性であって、一括してはならない。

汚れ改善前

逆の場合もある。上の図で「食べこぼし」は「粒は残っていて」、「食物のシミ」は「つゆだけ」だという場合、これらが同じ原因によるのであれば、同じ特性「食べこぼし」に一括しなければならない。

なお、この図は重点管理のための「パレート図」になっているが、項目が少ない故に「Vital Few & Trivial Many」(重要な少数、些細な多数)が成り立たず、無駄である。
  本件パレート図の「その他」の中に重要な(深刻な)汚れがあれば解決せねばならず、「その他」だからといって手を付けない訳にも行かないからである。

何を問題と感じているか

上の図(何を問題と感じているか?)に何か役に立つ情報はあるか?

  1. 靴・靴下に汚れ 51%
  2. 服装のセンス   31%
  3. 衣服の汚れ   8%
  4. 衣服の汚れ   8%

「これが一番多く、次はこれで、これが一番少ないことが分かった」と発表する人がよくいるが、「それが分かって、何の役に立つのか?」と尋ねると、黙ってしまうのが常である。

本件の現状把握は、全てが無益で不要な内容である。

4-3.特性値のバラツキ

〔問題〕下の時系列折れ線グラフは、蓋然前(ベンチマーク)と改善後のデータであるが、効果があったかどうか、どうやって判断すべきだろうか?

厳密に判断するには「二つの平均値の差の検定」という計算が必要になるが、QCサークルでは図的表現が望まれるので「時系列折れ線グラフ」が便利である。

さて、この改善に効果は認められるか、その根拠は?
   念のためだが、「平均値に差があるから効果が認められる」との答えは落第である。

ばらつき小の場合

〔正解」
  (1)両者のバラツキをみると、バラツキ範囲の重複がなく「異なる母集団」であると分かるから「効果あり」といえる。すると、それらの平均値の差が「改善効果」である。
  「異なる母集団」か「同一母集団」か見定めるには、相当のデータ数が必要になる。しかし、多数のデータを取って「わずかな効果」を確認したところで実用上無視できるなら「効果なし」と切り捨てるべきで、通常は10個ぐらいのデーターで判別する。

4-4.グラフを作る目的

1. グラフから何が分かったか?
  どのグラフも「調べてみたらこうだった」とデータの結果を示すだけである。

2. グラフがこうだったから、従って何をするのか?
  どのグラフからも、今後どうするのか、方針が示されていない。

中央の円グラフをみると、「靴と靴下」が51%で最も問題が多いのに、なぜ、8%でしかない衣服の汚れを改善するのか?

何を問題と感じているか

両方やればよいと思われるが、極めて不思議な活動である。おそらく、活動テーマは1個選べと、誤った指導を受けたと思われる。

4-5.推奨事項

現状の結果を7日間調べたのだから、この7個のデータを平均値とバラツキが分かるように時系列折れ線グラフに表すのが最も好ましい。

バラツキを知る主な目的は、2つある。
  (1)バラツキの状態により、原因を推定できる場合がある。
  (2)改善効果を判定する際に、バラツキを超えた大きい変化であることを確認する必要がある(バラツキの範囲内の変化は改善効果ではない)。

改善前のバラツキが小さい場合は、わずかな効果でも「効果あり」と判定できる(下図)。

ばらつき小の場合

反対に、改善前のバラツキが大きい場合は、「効果あり」と判定するには大きな変化が必要となる(下図)。

ばらつき大の場合

特に良くないのは、パレート図である。

pareto-figure

なぜなら、汚れは全て排除するべきであり、日常管理に重点管理は適当でないからである。「重点管理をせよ」という誤った指導が行われたため、そのように装ったのかも知れない。

重点管理がよくないことを示す事例 → 重点管理は禁止

5.目標の設定

目標の設定

目標の設定を行ってはてはならない。主な理由は2つある。

5-1.手段が尽きるまで

QCサークル(小集団)活動は、CAPDサイクルを繰り返して「手段が尽きるまで」小改善を積み重ねる活動であって、目標を達成するまで続ける活動ではない。
  目標を設定するのは、予め入念に研究して成功の手段を明らかにして一発で成功という「一発勝負」の改善活動の場合である。

5-2.データでモノを云え

「目標」とは、的(まと)のことである。
  拳銃で命中させるなら、10m位のところに目標を設定する。狙撃銃なら(射手の腕前にもよるが)100m以上の所でも狙える。どこに目標を設定するかは、銃と射手という手段が決まらなければ設定できない。

なぜ、そう言えるかというと、過去の豊富な経験データの裏付けがあるからである。

目標を立てるなら、事前に実験などのデータが必要である。データもないのにカンで「こういう結果にする」と発表することを「ハッタリ」と呼び、品質管理では厳禁である。
 → データでモノを言え

「目標を立てることは不可能だ」と言うと、本件の発表のように「現に立てたではないか」と反論されるかも知れない。しかし、それは目標ではなく願望(ビジョン)である。
 → 目標と願望の違い

本件のテーマでは、「こうすればこうなる」というデータ的根拠がないままにカンで立てているから、目標を設定したことにはならない。

QCサークルの活動は失敗が許される小改善であって、失敗が許されない大改善と区別しなければならない。小改善では、通常、目標を設定しない。
 → 大改善と小改善の区別

6.要因の解析

〔筆者注〕文字が小さくて読めないことは気にしなくてよい。

 次のうち、重要な4つの要因について対策を講ずることになった。

特性要因図

上の図は、本件の発表で使用された特性要因図である。文字は読めないが、ここでは「要因が多数列挙された特性要因図」であることが分かれば十分である。

6-1.偽りの特性要因図

これは、発表の体裁を作るために作成した見せかけの特性要因図(ウソ話)である。

特性要因図を描いても、どれが重要な要因か、分かる訳ではない。従って、特性要因図を作成する前に、それらが重要だと判断されていることになる。

であれば、特性要因図を作る必要がなかった訳で、作った目的は体裁だったことが分かる。すなわち、最初からこれら「4つの要因」しか頭になく、他の要因は発表の体裁のためにつけ足したものである。

6-2.正直な特性要因図

正直な特性要因図を作るなら、次のようになる。

特性要因図

しかし、正直ではあるが、これで正しい特性要因図(この後に示す)になった訳ではない。

特性要因図の大枝の項目は、次の5Mであることが望ましい。

  1. Man(処理に関わる人)
  2. Material(処理を受ける材料)
  3. Machine(機械・工具・設備・補助材料・施設)
  4. Method(処理作業の方法)
  5. Measurement(要求事項、結果の測定、記録、分析)
本件の5M
5M 意味 本件の場合
材料 処理を受けるもの 汚れた衣服の利用者
処理に関わる者の性別・資格・地位・熟練度など 職員
機械 使用する設備・道具・建物など なし
方法 作業や管理の手順 衣服の「購入」や「洗濯」の時期や手順など
測定 要求事項、処理中-処理後の点検、記録、分析 利用者の服装の基準、点検基準、記録様式など

6-3.練習問題

濱田金男氏(高崎ものづくり技術研究所)は、次のように説明している。
  誤りを指摘せよ。

5Mの「人」は次のようなのをいう。
  1. 作業のバラつき
  2. ポカミス
  3. 指示違反
  4. 手作業による異物付着
  5. 個人差

練習問題の解説

1.「作業のバラつき」は、作業方法の問題であり「方法」の問題である。

2.「ポカミス」は原因であって、5M事項ではない。ポカミスで作業を間違えれば「方法」の問題となる。

3.「指示違反」も原因であって、指示に違反した材料を使用すれば「材料」の問題となる。

4.「手作業による異物付着」も原因であって、その手作業が指示に違反した物であれば「方法」の問題である。

5.「個人差」も原因であって、作業に個人差があるなら作業の「方法」の問題である。

7.対策の立案と実施

下の表のように実施した。期限は全て10/23。

要因 目標 方法 担当 場所
職員 清潔意識が低い 汚れた衣服を交換 毎日定時にチェック 日直者 居室
利用者 汚れても平気 汚れを伝える 交換後,汚れ部分を教える 勤務職員 居室
環境 清潔な衣服が不足 買いに行く センスある衣服を買う 私物係,担当職員 ショッピングセンター等
方法 マニュアルなし マニュアルを作成 F職員で検討 F職員 スタッフルーム


7-1.対策の内容

表を見ても分かりにくいので、文章に変換して検討する。

(1)日直者が、毎日定時に、居室でチェックして、汚れた衣服を交換する。
  (2)勤務職員が、衣服の交換後に、居室で、汚れ部分を本人に伝える。
  (3)私物係や担当職員が、清潔な衣服が不足したとき、ショッピングセンターに等に買いに行く。
  (4)F職員が、スタッフルームで、マニュアルを検討して作成する。

簡単にまとめると、~

・毎日、職員が居所で利用者の衣服をチェックして、汚れていたら交換して汚れ部分を本人に伝える。
  ・清潔な衣服が足りなくなったら、ショッピングセンターに行って買う。
  ・以上をマニュアルに規定する。

7-2.三つの疑問

上の対策内容につて、疑問点を説明しよう。

7-2-1.改善特性

上の対策は、内容から見て、明らかに「汚れた衣服の件数」を特性としたものである。しかし、改善すべき特性は下に示すように、他にもあるのに、対策しないのはなぜだろうか。

  1. 頭髪・ひげ
  2. 飲み物のシミ
  3. 食べこぼし
  4. 服装のセンス
  5. 靴の汚れ
  6. 靴下の汚れ

7-2-2.改善といえるか?

上の対策は、結局のところ、母親が毎日子供の衣服を点検し、汚れていたら交換して洗濯をし、在庫がなくなったら買ってくるのと同じであって、これは普通の家庭、普通の病院、普通の福祉施設が行っている普通の業務であって改善活動ではない。

「改善でなければ何だ?」と訊かれれば、「従来、やるべき当然の業務を手抜きしていた」が、これを「普通の状態にした」~というだけのことである。「普通の業務」を改善のように見せかけることにQCストーリーを利用した典型的な事例である。

この活動を「改善活動」とするためには、今回の対策を第一弾として、続いて第二弾,第三弾~と手を打って行けばよい(=CAPDサイクル)。第一弾で終わりだから普通の業務でしかなく、改善とは言えないのである。

7-2-3.マニュアル化は対策に非ず

従来、マニュアルがなかったら、新たにマニュアルを作成することも、広い意味では「対策」である。しかし、QC活動では、対策の内容を規則に作成することを「標準化」と呼んで、「対策」とは区別している。

8.効果の確認

  • 目標50%減に対し、効果は65%。→ 目標を達成
  • 改善前後のパレート図の比較
  • 改善前後の円グラフの比較

〔注〕筆者が図を省略。


8-1.効果の有無

効果の大小を評価する前に、効果の有無を判断しなければならない。

「効果があった」というためには、対策前と対策後のバラツキ範囲を比べて「母集団」が異なることを確認しなければならない。

母集団を比較するには「無限数のデータ」が必要になるが、10個程度のデータで比較するなら「バラツキ範囲が重ならない」ことが必要になる(下図を参照)。

改善後の時系列グラフ

ところが本件では、対策の前も後も、何日分のデータかも分からず、データのバラツキが全く分からないから、効果の有無を判断できない。

8-2.目標の弊害

QCサークル活動は目標を達成する活動ではなく、手段が尽きるまでCDPAを繰り返す活動である。

本件は、「目標を達成した」ことをもって活動が終了している。つまり、「目標」がCDPAの繰り返しを封じてしまったことになる。

もう少し良くならないか、次の手(第2弾)を考えねばならない。すなわち、2回目のCAPDがないことが、実は、この活動の致命的な欠点なのである。

9.正しい発表例

以上の解説を踏まえて、この活動事例をどのように発表したらよいか考えてみよう。


9-1.発表テーマ


「利用者の方々の身だしなみの改善」

私達は、衣服が汚れている施設利用者の方々が多いように感じています。従来、利用者の身だしなみについて、次のような問題を見て見ぬふりをしてきたように思います。

  • 衣類の汚れ
    「飲み物のシミ」や「食べこぼし」がほとんど
  • 服装のセンス
    古くなった、破れている、季節ごとの衣服がない等

そこで、これらの問題を解決しようと思いました。


9-2.テーマ選定の理由

過去の活動テーマはこの一件しかないので、発表テーマの選定は出来ませんでした。しかし、活動を通じて次のような点を学びました。

学んだ点

1.利用者の方々の身だしなみが良くなると、私達、職員の気持ちもすっきりしてストレスが減りました。

2.一度の改善で満足してしまい、成果不足でした。「もう少し良くならないか」という問題意思を持って、第2弾、第3弾とサイクル回すことが大切だと気付きました。

9-3. 現状の把握

ベンチマーク

次のグラフは、衣服汚れの件数を7日間調べた結果です。次のように読み取ることができます。

  • 1日当たり平均値:38件
  • バラツキ:±10件 程度
改善前の時系列グラフ

管理の現状

普段の仕事の中で衣服の問題点は分かっていましたが、各自が個人的に分かっているというだけで、正式な点検ではありませんでした。また、問題があれば取り換える決まりもなく、在庫管理の規則もありませんでした。


9-4.要因の解析

上の現状の把握から、改善すべき要因は次の3つです。

  • 利用者全員の衣服の点検と交換
  • 在庫管理
  • 担当の決定

検証が必要な 疑わしい要因 は特性要因図に示す通りです。

特性要因図


9-5.対策の立案と実施

  • 日直者が毎日定時に、自身が担当する利用者の身なりを居室で点検し、問題ある衣服を交換する。
  • 汚れた衣服は洗濯に回し、破れ等は修繕に回す。
  • 交換時に衣服の在庫を確認し、常に2回分以上の在庫があるように手配する。
  • 私物係に依頼してショッピングセンターから利用者ごとに2回分のセンスの良い交換衣服を購入する。
  • 10月1日から実施しました。

9-6.効果の確認

改善後の7日間の結果は、次のようでした。

  1. グラフから、バラツキを大幅に超える効果が認められました。
  2. 平均して、38件-23件=15件の削減と認められます。
  3. 改善後も平均23件程の問題点が見つかり、まだ不完全です。
改善後の時系列グラフ


9-7.標準化

以上の対策を「利用者衣服管理規定」にまとめ、施設の長に届け出て承認を得ました。


9-8.今後の方針

大きな効果が出たので、私達は以上をもって一見落着だと思っていました。しかし、コンサルタントの先生から指摘がありました。

  1. 単に毎日点検して問題のある衣服を交換するのは当然の業務であって、改善とは言えない。
  2. 毎日点検して問題のある衣服を交換すれば、汚れた衣服はほぼゼロになって当然なのに、約60%しか減っていない。「もう少し良くならないか」という問題意識が足りない。

そこで私達は、現在、次3点の改善を検討中です。

  1. 朝食後と夕食後の2回の点検を行う。
  2. どこが汚れたか、記録に記載する。
  3. 利用者ごとに汚れやすいところを特定してエプロンを使うことによって、衣服交換の頻度を減らす。

時系列グラフ

これまでは1つの問題にしか取り組まなかったため、発表テーマの在庫がなく、選ぶことが出来ませんでした。

今後はアイデアを思いついた、いくつかの問題に同時に取り組んで、発表テーマの在庫を作って、発表テーマの選定ができるようにしたいと考えています。

(以上)


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© 客観説TQM研究所 鵜沼 崇郎