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医療QC サークル発表事例

このページで述べること

発表

QCストーリーは、QCサークルのために用意された手順ではありません。
  QCサークル活動は小改善である故、QCストーリーではなく、PDCAサイクルに従わねばなりません。

にも拘わらず、誤った指導によってQCストーリーに従って「一発勝負の活動」として発表するケースが多くみられます。
  正しい理解を深めるには、誤った事例を詳細に分析し、その上で正しい活動・発表の手順を学ぶことが大切です。

ここに取り上げた典型的な誤った医療QC事例に対して最優秀賞を与えたのは 医療のTQM推進協議会 ですが、以下、その弊害を見ていこう。

〔参考記事〕
 → QCストーリーはQC活動の手順に非ず
 → QCストーリーは使うな
 → 小改善と大改善の区別
 → PDCAサイクル
 → 練習問題2
 → 正しい活動手順と発表手順:第4章

→ オンライン講習/出張講習

→ 4H オンラインセミナー

医療QC事例

国立病院機構・仙台医療センター (平成23年度 最優秀賞)

職場:中央材料室
 サークル名:「ちゅーざい」
  テーマ:「洗浄方法の見直し」

仙台医療センター
目次
■はじめに
1.テーマ
1.もぬけの殻
2.不審な言動
2.テーマ選定理由
1.選定理由の意味
2.QCサークルの目的
3.発表テーマの在庫
4.発表テーマの説明
5.テーマ名称の誤り
6.多数の活動テーマ
3.現状の把握
1.困り事はテーマで
2.改善特性は何か?
3.基準と悪さ加減
4.特性は混ぜるな
・月曜日は別特性
・WDとUSも別特性
   4.目標の設定
1.説明不足
2.データでモノを云え
5.要因の分析
1.特性要因図の定義
2.特性要因図の用途
3.追加の用途
4.恥ずかしい点
6.対策の立案
1.従来の条件は?
2.多数の実験が必要
7.効果の確認
1.効果判定の方法
2.合否判定の基準
3.時間短縮の効果
8.正しい活動
9.正しい発表

はじめに

大変だ

このページで紹介する事例は、医療のTQM推進協議会 で最優秀賞を授かった仙台医療センターのものである。
  例によって日科技連や Insource などが指導するQCストーリーに沿った発表であるが、最初から最後まで「ウソがバレないための細工」に努力が注がれている。

その「バレないための細工」が目立つ故に、かえってウソがバレているという皮肉な結果である。折角の優れた改善活動を正直に発表すればよいのに、「ウソ話」に作って台無しにした。
  一体、審査員は何が優れているとして最優秀賞を授けたのか、いま一つ明らかでない。しかし、これが現今の病める病院QCサークルの典型的な姿である。

誤った指導を受けて偽りの発表をし、審査員も本来の役目を果たさず騙される。いかにして「ウソ話」が出来上がって行くか、どのようにして「ウソ話」を見抜けばよいか~という観点から解説しよう。

最後に、この発表を正しい発表に修正してみよう。
  なお、併せて、福祉QCのページを参照して頂きたい。

   

1.テーマ

普通、「テーマは?」と尋ねたとき、それはテーマの名称を尋ねているのではない。
  「名称などはどうでもいいが、一体どんな問題があってどのようにしたいのか?」と改善の内容を説明して欲しいはずである。
  ところが何を考えたのか、発表は「テーマの名称」だけである。さらに、その名称を見ても、他人には何のことやら意味が分からない。

   

テーマ 洗浄方法の見直し

   

テーマの説明は、たったこれだけである。

  

1-1.もぬけの殻

何とも不思議な発表である。
  何を洗浄するのか、特性は何か、何が不満で見直すのか、さっぱり分からない。

テーの名称も、例えば次のようにするべきである。

  

しかも、テーマ名称を挙げるだけで、他に一切の説明がない。

1-2.不審な言動

ここに最初の第一歩から「不審な言動」が見られる。なぜ、不審な言動になったのか?
  人は「ウソ話」を作るとき、自分では気づかずに、どこか不審な挙動をする。本件の場合、何を隠そうとして不審なテーマ名になったか?

実は、「何のために何の洗浄を見直すのか」を説明してしまうと、その後に予定する「テーマ選定理由」に書くことが何もなくなってしまうのだ。
  そこで、テーマの説明から「肝心な点」を抜き去って「テーマ選定理由」に移した結果、テーマの説明が「もぬけの殻」になったことが、このすぐ後に判明する。

  

2.テーマ選定理由

原文を少し修正して分かりやすくしてある。

wd

テーマ選定理由
  私達は、病院内の各部署から回収した使用済み器材を次の2段階に分けて洗浄している。

   
  1. ウォッシャー・ディスインフェクター(WD)で洗浄した後、
  2. 更に、超音波洗浄装置(US)で洗浄する。

以前は前者を各部署で行い後者のみを私共で行ったが、最近になって両者を一括して私共で行うことになった。

普段の業務の中で「こんなに洗浄が必要だろうか?」と疑問を感じていた。そこで洗浄方法を見直し、効率的かつ質の高い洗浄方法を確定したいと思いこのテーマを選定した。

普段の業務の中で「こんなに洗浄が必要だろうか?」と疑問を感じ、「効率的かつ質の高い洗浄方法を確定したいと思った」からこのテーマに取り組んだ~と述べている。これが、このテーマに取り組んだ理由(着手理由)である。言い換えれば「器材の洗浄作業の効率が悪い」ことが選定理由だといっている。

しかし、「器材の洗浄作業の効率が悪い」というというのは、テーマの内容でもある。
  すると、「テーマ」のところに書くべき内容が、そっくりこちらに移されることが分かる。

では、移す必要があったのか?
  その必要はなかった。なぜなら、テーマは選定されておらず、従って選定理由もなかったからである。

つまり、選定していないのに選定したような「ウソ話」を作るために「テーマの説明文を選定理由の説明に移した」ということである。これでテーマの説明が「もぬけの殻」になった原因が分かる。

2-1.テーマ選定理由の意味

このサークルは「テーマ選定理由」とは、「このような困りごとがある」という説明を意味するものと考えている。だが、それだと、次の2つの問題が生じてしまう。

  1. 「テーマの説明」と内容が重複する。
  2. 「現状の把握」と内容が重複する。

つまり、「テーマ選定理由」は「現状の困りごと」のことではないのである。
  では、テーマ選定理由」として何を発表すべきだったのか? それは、QCサークルの目的を考えれば分かる。

2-2.QCサークルの目的

「テーマ選定理由」として何を発表すべきだったかは、QCサークルの目的を考えれば分かる。すなわち、~

  1. 自己研鑽(自分の学習)
  2. 相互啓蒙(他人、他サークルと相互に学び合う)
  3. 日常管理の推進(QC手法を用いて、職場の日常管理を推進する)

上の「2.相互啓蒙」が発表会を開催する理由である。
  つまり、QC活動を通じて自分たちが学んだこと、他のサークルにも参考になりそうなことを相互に発表し合うことである。
  その目的に沿うためには、「過去にやった複数の事例」から「参考になりそうな事例」を選ばなければならない。その選んだ理由が「テーマ選定理由」である。

いうなれば「テーマ選定理由」とは、「着手した理由」ではなく、「過去の複数の事例から。このテーマを発表テーマとして選んだ理由」である。その選んだ理由というのは、結局、「参考になりそうなる点」であり、それを発表の冒頭に簡単に説明するのである。
  それなら「テーマの説明」と重複発表にならないから「もぬけの殻」にする必要もなかったのである。

2-3.発表テーマの在庫

他方、このサークルは、毎回1個のテーマしか扱わず、その結果、発表テーマの在庫がないから「発表テーマの選定」ができない~という事情がある。
  つまり、今回も「発表テーマの選定」はできないから「テーマ選定理由」も存在しない。「発表テーマの在庫」を作るためには「常に複数のテーマに取り組む」ことが必要になる。

2-4.発表テーマの説明

以下、このサークルの「発表テーマの説明」に含ませるべき事項を解説する。

(1)効率的かつ質の高い洗浄方法を確定したいとあるから、改善特性は次の通りである。

しかし両方とも向上したいのか、一方は現状維持で他方のみを向上したいのか、今一つ明らかでない。この点を説明する必要がある(実は、「洗浄時間」のみを短縮し、「清浄度」は現状維持で行こうとしていることが後で分かる)。

2-5.テーマ名称の誤り

「テーマの名称」に改めるべき点がある。

  1. 改善特性が「洗浄時間」だとすれば、テーマの名称を「器材の洗浄時間の短縮」とするべきである。
  2. 「テーマ選定理由」ではなく、「発表テーマの選定理由」とすべきである。

以下、上の「2」について簡単に説明する。

  

2-6.多数の活動テーマ

着手する「活動テーマ」は1個にしてはならず、どのようなテーマにも手が出せるように複数個を用意しなければならない。

例えば、新規に製造工程が流れ始めた場合、最初の頃はどうしても3~5個の不良項目が発生する。
  5個の不良項目があるとき、そのうちの1個だけを選んで他は何だかんだと理由をつけて排除されては日常管理にならない。5個全部に手を付けなければならない。

1つだけ取り組んで、他を長期にわたって放置するのは日常管理としてあり得ない話である。多数の活動テーマに手を付けて、その実績の中から発表に適するものを一つ選んで発表するのが正しい。

複数のテーマに着手するメリットは、次の通り。

  1. 途中で手が空いた場合に、他の問題にかかれる。
  2. 他の問題に良いアイデアが浮かんだ場合に手を出せる。
  3. テーマAで失敗しても、BやCで成功するかも。
  4. 人によって得意な問題が違う場合、適材適所。
  5. 多数のテーマを手掛ければ、発表テーマを選べる。
  6. 1個だと失敗したときにウソ話を発表することになる。

「テーマを1個探すのも大変だというのに、多数のテーマに着手するのは不可能だ~」と考える方は、→ テーマは無限にある

発表テーマの選定表の例
終了テーマの在庫学んだ点順位
1.設備配置の更新 情報収集を怠るな4
2.器材の集配の効率化 情報交換が決め手3
3.洗浄液在庫の削減 5Sの重要性5
4.器材損傷の点検 小欠陥を見逃すな2
5.器材洗浄の短縮 日常業務に疑問を

本件のように1個の活動テーマしかないと、それを発表する以外になく 発表テーマの在庫 がない。
  すると、成果がないときは「成果が出ませんでした」と発表することになるが、それは恥だからウソ話を作る以外になくなる。

発表会の目的は「相互啓蒙」であるから、「発表テーマ」は過去の複数のテーマから次のようなものを一つ選定すべきだ。

「選定の理由」では、「どこが勉強になったか」、「どこが参考になるか」、「何に困っているか」などを簡単に示すべきである(その個所を説明するときに詳細を説明すればよい)。

  

3.現状の把握

次の説明は、原文を分かりやすくするために多少編集してある。

〔現状の把握〕

1.以前は各部署で器材を一次洗浄し、その後に私達の職場で一括して二次洗浄を行っていた。

  • 一次洗浄:器材に付着した汚れを初期段階で処理する(WD洗浄)。
  • 二次洗浄:一次洗浄で残留した微細な汚れを減らす(US洗浄)。

2.その後、一次洗浄を含めて私達の職場で一括処理することになった。しかし、従来通りに一次と二次を行うため、私達が扱う洗浄器材・回数・時間が一挙に増加することになった。

清浄度 は、二次洗浄まで行って清浄度80~90%と良好であった。

洗浄時間 は、月曜日から金曜日の平均で2時間36分かかり、午前中は洗浄業務に追われて多忙に過ぎる現状であった。

  
現状把握
   

いくつかの「まずい点」を指摘する。

3-1.困り事はテーマで

・「こういう事情で、私たちが扱う洗浄器材・回数・時間が一挙に増加することになった」
  ・「午前中は洗浄業務に追われて多忙に過ぎる現状であった」
  ~というのは、このサークルが考える「テーマ選定理由」や「テーマ」の説明に該当し、ここで説明する事項ではない。

「困りごと」や「事情」は「テーマ」で説明にするべきである。

   

3-2.改善特性は何か?

「テーマ」の説明では、「この事例で改善する特性は何か」を明確にしなければならない。また、「現状の把握」で説明するのも「特性の平均値とバラツキ」である。「効果の確認」は、「特性値の改善効果」を明らかにすることである。そして、異なる特性のデータを混ぜてはならない。
  このように、「取り扱う特性は何か?」を常に明確に意識しなければならない、

実質的な改善特性

「1日平均で2時間36分かかり、午前中は洗浄業務に追われて多忙に過ぎる」という困りごとは説得力がない。「残りの午後の時間は遊んで過ごす積りか?」との疑問が湧くからである。

「多忙に過ぎる」ではなく、残業時間の増加による「洗浄コストの増加」と考えるべきであり、その場合は「器材の洗浄コスト」が実質的な改善特性である。


形式的な改善特性

実質的には「洗浄コスト」が管理特性であるが、残業は「定時の勤務時間からはみ出た部分」だけになってしまうので、QCサークルが取り組む当面の「形式的な改善特性」は「洗浄時間」ということになる。

3-3.ベンチマーク(基準)と悪さ加減

「現状の把握」とは、次の内容を含む。

  1. 特性のベンチマークと「悪さ加減」を示すグラフ
  2. 関連する作業の説明

「ベンチマーク」とは、改善前の成績を代表する数値いい、「改善効果を評価する基準」である。いわゆる、「ビフォア・アフター」のビフォアのことである。
  「悪さ」は平均値、「加減」はバラツキを意味する。

「ベンチマーク」と「悪さ加減」を示すグラフとして、「時系列折れ線グラフ」が最適であり、本件のような棒グラフで表すことは不可能である。
  →時系列折れ線グラフ

「改善効果」は、「改善前のバラツキ範囲」と「改善後のバラツキ範囲」が異なる(母集団が異なる)かどうかで判定するので、以下に述べるように、異なる特性の合体は許されない。

〔注〕素人は平均値に興味を示し、プロはバラツキに注目する~といわれる。
  データが持つ情報はバラツキに表され、その情報を全て削除したものが平均値だからである。

3-4.特性の層別

不良品の数を表すのに「打痕不良品」の数と「擦りきず不良品」の数を合計して「きず不良品」としてはならない。これらは原因の異なる別特性だからである。このように、特性のデータを分けることを「特性の層別」という。

・月曜日は別特性

本件の棒グラフをみると、月曜日の洗浄時間だけが他の曜日(火~金)よりも飛びぬけて高い数値になっている。おそらく、月曜日に土・日の2日分をこなすことが原因と思われるが、いずれにせよ火~金のデータとは「異なる条件」で生じた値であるから、「別特性」である。

従って、月曜日を除いた火~金のデータだけを使ったグラフを作る必要がある。さもないと、月曜日の数値値がバラツキと混同してしまい、改善効果の検証が難しくなる。

〔注〕月曜日のデータの母集団と火~金のデータの母集団は別であるから、平均値とバラツキも別々になる。


・WDとUSも別特性

本件の発表では、一次のWD洗浄時間(x)と二次のUS洗浄時間(y)の合計値を「洗浄時間」にしているが、これも許されない。なぜなら、~

  1. x(WD洗浄時間)とy(US洗浄時間)は別の特性であり、母集団や原因も異なる。
  2. 本件は、「xを改善して、yを廃止する」という内容の改善活動であるから、xの変化とyの変化を「それぞれのデータ」で検証しなければ効果の検証ができない。
  3. 「xはいくら増加」し、「yはいくら減少」し、「全体としていくら減少」したかを示すように持っていく必要がある。
   

4.目標の設定

QCサークル(小集団)活動は、目標を立てずに「手段が尽きるまで」CAPDを繰り返して小改善を積み重ねる活動である。
  言い換えれば、「事前に十分な研究で得たデータに基づく目標」を立てて「一発勝負」で目標を達成するような活動ではない。

こういう観点から本件の発表を吟味しよう。

目標の設定:
 効率的かつ質の高い洗浄方法を確立するため「ウォッシャー・ディスインフェクター(WD)のみの洗浄で器械の汚れ落ちを清浄度80%にする」

・平成22年度(昨年度)の清浄度テスト平均
  WD+US(超音波洗浄)で洗浄して平均で80%であった。

滅菌による熱変性で固着した通常洗浄で落ちきれない汚れがあるため、昨年度の WD+US の清浄度テスト平均値を踏まえ、この目標を設定し活動した。

  

4-1.説明不足

一読して感じるのは、次の重要事項についての「説明不足」である。

(1)なぜ、WD洗浄の廃止を検討せずにUS洗浄の廃止だけを考えたのか、理由は?

(2)「滅菌による熱変性で固着した通常洗浄で落ちきれない汚れがある」というのは、どの洗浄の場合を云っているのか?

(3)「滅菌による熱変性で固着した通常洗浄で落ちきれない汚れがあるため」と述べているが、それが、なぜ、清浄度80%を目標とする理由になるのか?

(4)清浄度は、バラツキの最低限度が問題のはずなのに、なぜ、「平均値80%」で満足するのか?

(5)「その清浄度でよい」とする根拠(例えば、法律、規則、組織の方針など)は何か?

4-2.データでモノを云え

本件発表では「目標」を「ウォッシャー・ディスインフェクター(WD)のみで清浄度80%にする」としている。

ところで、「目標」とは、どういう意味か? 願望と同じか? 理想の意味か?
  このような疑問についての結論は、~

  1. 「理想」は完全に無制限で、「実現不能な願望」(永遠に生きていたい)
  2. 「願望」はやや現実的で、「実現の可否は不明なもの」(100歳までの健康でいたい)
  3. 「目標」は完全に現実的で、「実現すると分かっている願望」(手段なくば目標立たず)

目標について説明を追加すると~、
  目標とは、的(まと)の意味であるから、持っている手段がピストルなら10mほど先に設定し、狙撃ライフルなら最大で1000mぐらい先に設定できるかもしれない。ただし、命中するかどうかは「銃と腕前」によって異なるから、データに基づかなければ確実な目標設定はできない。

このような結論になる理由は、~
  本件の場合、洗浄時間の「理想」は時間ゼロ(洗浄不要)であることは分かりきっており、特に設定したり発表したりする必要がない。「願望」として「1時間で終わりにしたい」と設定したところで、それが何の役に立つのかと考えれば無駄な作業である。立てれば達成し、立てなければ達成しない~という関係にはないからである。

「目標」は、まず「立つのか、立たないのか」の問題である。
  立つと分かったなら「こういう根拠によって、いくらの目標が立つ」と考えるべきものである。品質管理の重要な格言に「データでモノを云え」(Fact approach)がある。「カンとハッタリと度胸」で大げさなことを言うのを戒める格言である。

日常管理の小改善は、CAPDサイクルを手段が尽きるまで繰り返す活動であって、「一発勝負で目標を達成する活動」ではない。従って、目標は不要であり、(事前に実験データでも入手していない限り)設定することも不可能である。

〔注〕日科技連も、InSourceという指導サイトも、具体的な手段がない状態での「カンによる目標設定」をするように誤った指導をしている。

〔参照〕→ 反論(6)

〔参照〕→ 第2章 目標の設定

 

5.要因の分析

下の図は、発表に使われた特性要因図である。文字が小さくて読めないが、ここでは「要因が多数列挙された特性要因図」だと分かれば十分である。

特性要因図

結論を云えば、このような特性要因図は決して作成してはならい。
  以下、その理由と取るべき道について解説する。

〔参照〕→ 特性要因図

5-1.特性要因図の定義

特性要因図に関するJISの定義を参照しよう。

特性要因図とは、特定の結果と原因系との関係を系統的に表した図(JIS Z 8101 G53)をいう。

「特定の結果」は、特性(仕事の成果についての特定の評価項目)であって、本件の特性要因図でいえば、正しいか否かは別として、右端の「洗浄工程のステップ数が多い」がこれに該当する。

「特定の結果」であるから、複数の結果が混ざったものは特性としてはならない。

「関係を系統的に表した図」であるから、「魚の骨」でも「表形式」でも支障がない。

5-2.特性要因図の用途

用途について、TQC用語辞典(1985年:日本規格協会)を見よう。

特性要因図は「話合いの道具」ともいわれ、ブレーンストーミング等により作成し、職場での問題点の改善、実験計画における要因の整理等によく用いられる。

用途の全てを列挙している訳ではないが、典型的なものを挙げている。すなわち、~

  1. ブレーンストーミング
  2. 実験計画における要因の整理

(1)ブレーンストーミング
  思いつく限りのあらゆる原因と手段日手手を尽くしたが解決せず、諦めるかどうかというときに、「砂浜からダイヤモンドの粒を探し出す」やり方である。
  つまり、関係者全員が会議室に集まり、反対意見を禁じた上で「ありとあらゆる奇想天外な特性」を70個~100個も列挙し、「これは行けそう」と思われる要因を選んで検証する。

本件の発表事例の場合、まだ何もしていないのだから、この種の特性要因図を作成するケースではない。

(2)実験計画における要因の整理
  本件のような実験を行う場合に検証する要因を列挙するのに使うことができる。ところが、本件では、特性要因図をそのように使っておらず、ブレーンストーミングのような使い方方になっている。
  → 実験計画用の特性要因図の例

「特性要因図には70個~100個ほどの要因を列挙しなければならない」とする誤った指導を受けた結果、そのように捏造したと推測される。
   実際は、最初から洗浄液のアルカリ濃度だけを色々変えて最適条件を決めることしか考えていないから、挙げるべき「疑わしい要因」はアルカリ濃度1個である。

つまり、要因が1個しかないのだから「要因が1個の特性要因図」となるはずである。

5-3.追加の用途

偽りなく、しかも正しく特性要因図を作るなら、次のようになる(疑わしい要因は、アルカリ濃度だけである)。

特性要因図

列挙した要因が1個だけの特性要因図で、恥じることは何もない。

なぜなら、現在のところ疑わしい要因 はこの一つだけであり、これに対策を打って効果が不十分なら他の要因に触れる必要がないからである。

ここに、前述の用途に一つの追加することになる。

  1. ブレーンストーミング
  2. 実験計画における要因の整理
  3. CAPDサイクルでの要因の整理

本件の事例では、複数の要因を考えるなら「2」を、1個づつ検証するなら「3」の特性要因図を作るべきであった。本件では「1」は何の役にも立っていない。

5-4.恥ずかしい点

要因が1個の特性要因図を作ることは恥ずかしくないことだけれど、1個で終わることは恥ずかしい。
  つまり、第1弾が「洗浄液のアルカリ濃度」で、その活動が終了したら第2弾として何を追究すべきか、本件ではそれを検討しなかったことが問題点なのである。

「もっと良くならないか?」という問題意識・追究心を欠いている。
  要因が1個の特性要因図を作るのは何ら恥ずべきことではないが、CAPDの2回目に進まなかったことは恥ずべきことである。

   

6.対策の立案

対策を研究するために、次のような実験をしている。

WD の条件を次のように設定して実験をした結果、「アルカリ濃度=0.7%、洗浄時間=10分」を採用することにした。

  • アルカリ濃度=0.6%、洗浄時間=7分 → 不合格
  • アルカリ濃度=0.7%、洗浄時間=10分 → 合格

6-1.従来の条件は?

(1)従来の条件がどうだったのか、分からない。確認→ 現状の把握

「従来の条件」を示さないのは、なぜか?、という疑いの余地が出てくる。
 「新たな条件」を実験で求めたフリをしているが、実はアルカリ濃度も洗浄時間も従来通りなのではないか?
 つまり、何も工夫せずに、単に二次洗浄USを廃止しただけなのではないか?

(2) もし、真に実験をするなら、濃度の変化の巾とデータ数が不足である。
  もっと幅を広げ、濃度間隔を狭くして多数の実験を行い、最適条件を求めるべきである。アルカリ濃度が「0.6%」と「0.7%」のたった2つの条件を比較してよい方を採用した~というのはおかしい。

(3) 洗浄液の温度が検討の対象になっていない理由は何か、説明を要する。普通は高温の方が洗浄が進むからである。この点も「実際には、単に二次洗浄USを廃止しただけ」で何も研究などしなかったのはないか~という疑いの根拠になる。

6-2.多数の実験が必要

下に示すようなグラフに表すのも一つの方法である。
  つまり、これだけ多数の実験をしなければ「最適条件」は得られないはず。

散布図
  

7.効果の確認

次のグラフに示すように、対策前(青)と対策後(赤)を比べて「効果があった」と説明していた。

効果の確認

横軸は、洗浄中の時刻を示す。
 清浄度テスト平均=80% をクリヤした。

7-1.効果判定の方法

上の棒グラフで効果を判断するのは、次のような問題がある。

7-2.合否判定の基準

昨年度の清浄度テスト平均=80%であったことを根拠に、平均清浄度=80%を合否の基準とすることはできない。

理由1:
 清浄度が非常に悪い時と非常に良い時があって、平均が80%だというなら合格にできない。つまり、平均値ではなく「最悪でも何%」を調べる必要がある。

理由2:
 合否の判断は、昨年度との比較ではなく、法令や学会の基準に照らして問題がないことを立証しなければならない。

理由3:
 QCサークルは自主的(他から干渉を受けない)活動ではなく、上司の指揮に従わねばならい。従って、洗浄条件の変更について院長などの責任者の許可を必要とする。
 〔参照〕→ トヨタ堤工場事件

7-3.時間短縮の効果

なるほど、どの日も洗浄時間が短縮され多様に見えるが、その差は、対策による「効果」とは言えない。
  なぜなら、対策後の週は何らかの原因で器材の数量が少なかったのかも知れないし、洗浄作業者が不慣れだったかのも知れないし、他にもバラツキの要因があったかも知れないからだ。

従って、対策前の対策後の「それぞれの多数回のデータ」によって、「平均値とバラツキ」を確認しないと効果は判定できない。

8.正しい活動

正しい活動とするために改めるべき点を整理しよう。

8章-目次
8.正しい活動
8-1.目標を設定するな
8-2.第2弾が欲しい
8-3.最悪洗浄度
8-4.責任者の承認

8-1.目標を設定するな

1. 小集団活動は、目標を設定して達成する「一発勝負の大改善」と違って、目標を設定しないでCAPDサイクルを重ね、「もう少し良くならないか」と小さな改善を積み重ねる小改善である。

ところが誤った指導を受けて、「QCストーリーに従って目標を設定し、達成して終わり」という一発勝負の活動を発表する事例がほとんどである。

→ 大改善と小改善の区別

8-2.第2弾が欲しい

「一発勝負の大改善」ではないから、1つの対策を打って効果が出ても、それで終わりということはない。「もう少し良くならないか」と、次の活動に繋げなければならない。

本件で、なぜ、第2弾がないか?
 それは、特性要因図を見せかけの目的で作成したからである。

「洗浄時間を短縮する要因は、洗浄液のアルカリ度以外にないのか?」と、本当の特性要因図を作成すれば、いろいろと手段はあったと思われる。

例えば、器材を「汚染の程度」、または、「洗浄のし易さ」の違い等で分別すれば、さらに洗浄時間を短縮できたかも知れない。

なぜなら、これら雑多の器材を混合して洗浄すると、最も時間のかかる条件を選ばなければならないが、器材を分けると、それぞれに必要な時間で済むからである。

また、洗浄液を高温にすれば、さらに時間を短縮できたかも知れない。

今後の方針

このように対策を積み重ねれば、次の時系列図のようにCAPDが続くことになる。

時系列図

8-3.最悪洗浄度

洗浄度の平均値ではなく、最悪値に着目しなければならない。

  1. 条件ごとの最悪値を明確にすること。
  2. 最悪値が法令等によって承認されること。

8-4.責任者の承認

次の行為について、院長などの責任者の承認を得なければならない。

  1. 実験した洗浄品を実務に使用する場合
  2. 改善後の洗浄工程の工程設計

9.正しい発表

この活動事例を正しく発表するなら、どのような発表になるか?

9章-目次
9.正しい発表
9-1.発表テーマ
9-2.選定理由
9-3.現状の把握
9-4.原因解析
   9-5.対策の立案
9-6.効果の確認
9-7.標準化
9-8.今後の方針

9-1.発表テーマ

発表テーマの名称は、次の通りです。

医療器材の洗浄時間の短縮

私達は、病院内の各部署から回収した使用済み器材を次の2段階に分けて洗浄している。

  1. ウォッシャー・ディスインフェクター(WD)による一次洗浄で、器材に付着した汚れを初期段階で処理する。
  2. 更に、超音波洗浄装置(US)で洗浄して残留した微細な汚れを減らす。

このうち前者の洗浄液のアルカリ濃度を最適化することによって洗浄時間を短縮し、かつ洗浄力のを強化して後者の洗浄を省略できないか、これがこのテーマの内容です。


9-2.選定理由

発表テーマ選定理由(=参考になる点、学んだ点)は次の通りです。

〔注〕 選定理由だから「複数の中から選んだ理由」である。しかし、求めているのは「どういう点で参考になるのか、何を学んだか」であって、「他にどんなテーマがあるか?」ではない。従って、他のテーマを示すことは必ずしも必要ない。


9-3.現状の把握

下のグラフは、火曜日~金曜日の2回分のデータを示す。月曜日は土日の分をまとめて洗浄するので、データから除外した。

WDの洗浄条件:
 ・洗浄液のアルカリ濃度:0.6%
 ・1回の洗浄時間:10分

現状把握のグラフ

このグラフから分かること:
 ・一次洗浄時間WD、二次洗浄時間USのいずれも、日によるバラツキが小さく、改善効果の判定が容易である。
 ・二次洗浄時間USは1日につき約20分であり、これを省略するだけでは大きな時間短縮にはなない。
 ・従って、一時洗浄時間の短縮が重要と思われる。


9-4.原因解析

疑問点
 普段の仕事の中で、次の疑問を抱いた。

洗浄をWDとUSの2段階にする必要性はあるのか? WD洗浄液のアルカリ濃度は最適濃度になっているか? アルカリ濃度を最適化すれば、二次洗浄USを省略できるのではないか?

すなわち、疑わしい要因は、一次洗浄WDの洗浄液の「アルカリ濃度」のみである。これを最適化すれば(要求される清浄度が決まっているので)、一次洗浄時間も自動的に決まり、全体としての洗浄時間も決まるからである。

特性要因図

アルカリ濃度の最適化
 WDの洗浄液の最適アルカリ度を求めるために17回の実験をして、次のグラフを得た。

散布図

この図表が意味すること:


9-5.対策の立案

結局、次の二つの対策を実施することになった。

  1. WD洗浄液のアルカリ濃度を0.9%とする。
  2. US洗浄を廃止する。
  3. 洗浄度が75%以下となったときは再洗浄する(法令に準拠)。

9-6.効果の確認

対策案を実施して、次の結果を得た。

効果確認のグラフ

この図表が意味すること:

一次洗浄時間(WD)
 1日につき、約15分の短縮が認められた。

二次洗浄(US)の廃止によって清浄度 は変わらなかった。

洗浄時間の合計
 1日につき、約35分の短縮が認められた。


9-7.標準化

洗浄工程をQC工程表にまとめて、院長の承認を得た。


9-8.今後の方針

今後、さらに次の改善を進めようと考え、特性要因図に2個の疑わしい要因を追加した。


今後の方針

今後取り組むサイクル:

  1. 器材を汚染度によって分別し、別々に洗浄する。
  2. 洗浄液の最適温度を求める。

私たちは、今後も日常業務の中で「もう少し何とかならないか」を繰り返して行こうと考えています。
 以上で発表の終わりと致します。

(終わり)


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客観説TQM研究所 鵜沼 崇郎