工程設計の手順を事例を通じて理解しよう。
QC工程表(quality control process chart)とは、読んで字のごとく、工程のQC(品質管理)をしやすくするように、表形式のフォーマットで作成した工程設計書であり、トラブル予防のための トラブル対策の束 である。
よく見るのは、次二つの混同である。
これらは目的もフォーマットも全く異なる。品質管理と品質保証の区別 がそのまま、QC工程表とQA表の区別につながる。
工程設計とは、
工程でトラブルが起きないように対策を網羅した計画(=対策の束)をいう。
QC工程表に入る前に、工程、及び工程設計などの予備知識に触れよう。
国語辞典には、~
工程とは、物品の生産・加工を計画的・能率的に行うための作業の手順。また、作業の各段階。
~とある。
しかし、この定義は、われわれの実務に適合しない。われわれの実務で扱う工程は、次のように定義することができる。
その具体的な例として、「物品の生産・加工」の工程がある。この製造工程は、材料を入力とし、人・機械・作業方法・測定を配置した処理過程を経て製品を出力する。従って、工程を構成するものは作業手順だけではない。
「工程」という文字が「工業的な過程」という印象を与えるため、「物品の生産・加工」に限定したように解されるが、今われわれが扱う工程は「プロセス一般」であって、サービスの提供工程、経理事務の工程、受注・販売工程など、およそ全ての処理過程を含む。
作業者に対して「好きなように業務を進めよ」と指示したら、工程から生まれるもの(品質、納期、コスト、安全、環境保護)は、どうなるか?
恐らくトラブルが頻発する。
だから、トラブル予防のために「あれこれ」と細かく指示しなければならず、この指示が工程設計である。
ただし、工程設計の宛先は、作業者ではなく工程管理者(製造工程なら製造部の班長・係長・主任等)であって、作業者等の第一線担当者ではない。
工程設計を行うには、は2つの段階がある。
機能設計 工程は、次の機能を持たねばならない。
工程が所定の機能を満たすように、その構造を設計することを「機能設計」という。このページは、これを中心に説明する。
信頼性設計 工程設計の違反が起きにくい構造を設計することを「信頼性設計」という。信頼設計の合否は、→ 工程FMEA によって判定する。
以下、品質管理の意味(経済的に作り出す)を踏まえて検討しよう。
プロセス(工程)は、次の3つの要素から構成される。前提になるのは、日本工業規格(JIS)による定義である。
品質管理(Quality Control)は、JIS によって次のように定義されている。
品質管理とは、買い手の要求に合った品質の品物またはサービスを経済的に作り出すための手段の体系をいう。
この定義文のうち、「経済的に」「作り出す」の意味が重要である。
上の→ 品質管理(JISの定義) でいう「作り出す」は、俗に「作り込み」と呼ばれる。すでに出来上がったものを検査することは品質管理ではないことを意味する。
品質管理は、品質等を作ることであり、その作り方を設計したものが工程設計であり、通常、QC工程表という様式が利用される。
作り込みは、次の5Mを決めて行う。これが 工程の構造 である。
材料(Material)
工程は入力Xを出力Yに変える処理の過程である。その「処理を受ける入力X」を材料という。
材料が必要な条件を満たさないと結果も不合格となるので、材料の条件を規定する必要がある。
学校には入試があるのは、材料(教育という処理を受ける学生)の適否を確かめるためである。
機械(Machine)
語呂合わせで「Machine」となっているが、実は建物、立地、設備、工具、備品、補助材料などの準備や段取りを含む広い概念である。
処理をするのに機械等の設備を要する場合は、その仕様や段取り等の条件を規定する。椅子やテーブル、部屋や立地なども、成果に影響する場合は機械の一種とみなして規定する。
人(Man)
工程を操作する作業者や指示を出す管理人の習熟度や資格を規定する。
方法(Measurement)
作業や指示の仕方を規定する。
測定(Method)
要求の確認、実現した結果の確認、データの記録などに関する規定である。
以上の「工程の構造」は、下図の左下に示されている。
上図の右上に工程の機能が示されている。つまり、品質、納期、コスト、安全、環境保護を生み出すことが工程の機能である。
品質管理(JISの定義)でいう「経済的に」とは、単に「安く」という意味ではない。「経済活動として」の意味であり、経済活動として考慮すべき全ての要求を満たして」の意味である。
よい品質Qを作り出しても、次のような状況では失敗だからである。
故に、品質を含めて、これらを「同時・一体に」管理しながら品質を管理しなければならない。これを QDC一体管理 という。
公益である安全と環境保護が最優先であることは当然の前提になっている。
私益である、品質Q・納期D・コストCが矛盾するとき(あちら立てればこちら立たずの場合)は、品質が優先する。これを 品質第一主義 という。
品質保証 (quality assurance) とは、品質が要求事項を満たすことを誰かを相手に請け負う(=確認して報告する)こという。
品質管理は「作ること」であるが、それを保証する仕組みが必要である。すなわち、作り方や結果を調査して関係者に報告する仕組みが必要で、これが品質保証業務である。
品質保証には、全社的な品質保証と工程内の品質保証がある。
QC工程表には、工程内品質保証として、次のような規定を設ける。
〔注〕
これは、作業者(or 代行検査員)が「要求通りの結果」を得たことを確認して上司に報告するための保証である。これを 工程内品質保証 という。
一方、品質保証部が行う「品質保証 QA (quality assurance)」は企業の上層部、および、顧客に対して報告するための保証である。
【注】
ISO 9001-5.5.2 の Management Representativeの規定にも、同様に規定されている。
ただし、「管理責任者」という用語は正当でなく、誤訳である。
〔参照〕→ 管理責任者
工程設計(or 業務管理規定)というと、「これをして、次にこれをする」という具合に業務の手順を規定するものと理解しやすい。
それは正常時の手順を示すものであって、それだけではトラブルの予防という管理の目的を達成することができない。
普段は起きないが、何かのはずみで起きる異常事態というものがある。その場合にどうするか決まりがないと、担当者の個人的な判断で処置され、これがトラブルになることが多い。
工程設計や業務管理規定は、このような突発的な特殊事態について規定しなければならない。
例1:製造工程で、組立作業者が部品を床に落とした場合:
作業者は、落下した部品を拾い上げて、目で見て異常がなければそのまま使ってしまいがちである。しかし、それで支障ないかどうか、製品によっては使用禁止かも知れない。
例2: 欠勤が多い場合:
ある日、欠勤が多く、製造ラインを動かせるかどうか、製造部の責任者が迷う場合がある。
多能化といって、作業者を「どのステップでも担当できる」ように訓練してあれば頭数さえそろえればラインを稼働できる。
しかし、普段は担当しない作業を割り当てて「ラインを稼働に自信を持てないときは、ラインをストップせよ」との明確な業務規程がないと、責任者は容易にラインストップに踏み切れない。
そして、大量の不良品を作ってしまうことがある。
例3:刑法の「電気は財物とみなす」という規定:
窃盗罪は「他人の財物を盗んだ者は~の刑に処す」という規定になっている。
昔、配電線から勝手に電線を引いて料金を払わずに電気を使った人がいて、これが窃盗になるかどうか裁判で争われたことがある。
当時、「電気は財物か?」について規定がなく、これが争点になった。大審院(今の最高裁)は、管理(=支配)可能性を理由に「財産犯に関する限り、電気は財物なり」と解釈して窃盗犯の成立を認めた。
後日、この判例を反映するために「電気は財物とみなす」という特殊事情を考慮した規定を設けた。
例4:民法の「相続に関し、胎児は人とみなす」という規定:
人間の胎児は(猫ではないから)人であるのは当然のように思えるが、実は胎児は所有権や債権を持つことができないから、法律的には「人」ではない。
通常は人が死亡すると配偶者や子が財産を相続するが、それだと死亡時に胎児であった者は相続人から除外されてしまう。
この「死亡時に胎児であった」という特殊事情を考慮したのが「胎児は人とみなす」という規定である。
QC工程表は、次の3つの要素で構成される。この表はQC工程表が3つの要素で成り立つことを示すが、QC工程表の様式(フォーマット)を示すものではない。
書誌的事項 | 要因系(5M) 管理事項 |
特性系 管理事項 |
作成者 作成年月日 製品名 工程名 工程番号 |
機械:Machine 材料:Material 方法:Method 人:Man |
特性規格 検査規格 |
測定:Measurement (基準、方法、時期) |
測定器管理 |
上の図表を簡単に説明する。
書誌的事項
書類として必要な体裁を記載する。
要因系(作り込み系)
5Mに関する事項を規定する。
トラブル対策として、機械・人・材料・方法・測定がどうあらねばならないか、必要事項を規定する。
これが工程の構造になる。
特性系(保証系)
特性と要求レベル、工程内品質保証(検査)に関する事項、記録に関する事項等を規定する。
これが工程の機能の確認になる。
下の図を見ると、要因系と特性系が、特性要因図と同じ構成になっていることが分かる。
下の図は、ある工程の第4ステップ(本締め)に関するQC工程表フォーマットの左半分である。
上部の見出し欄に5Mを記載し、それぞれについてトラブル予防に必要な事項を記載する。製品を落下した場合など、特殊事情の場合の規定を網羅すること。
4番 | 機械 | 人 | 方法 | 測定 | 記録 | |
本締め | 本締め機#24 ①60〔rpm〕 ②5〔kg-cm〕 ③潤滑油#23 ④緩衝材(キズ) ⑤清掃(汚れ) フィーダー#25 設備保全規格 A124 |
⑥ Bクラス |
前工程品 | 前工程品を本締め機にセット →SW ON |
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ A1 P1 |
様式 R4 |
終了ランプ →ワーク外し →フィーダーへ →SW ON | ||||||
⑦手袋着用 落下品は廃棄 |
この図は要点だけを示しており、実際にはより詳細に記載しなければならない。例えば、次の通り。
「機械」(設備)
「本締め機」、「フィーダー」等を特定するための、メーカー・機種・設備管理番号などの情報を記載する。工具・補助材料もここに記載する。
「人」(担当者・管理者など)
熟練度Bクラスの作業者を配置する。作業者以外に関与すべき人を記載することもある。
「材料」(処理を受けるもの)
前工程から流れてくる部材だけで、新たに追加するものはない。
「方法」(作業)
作業項目だけ記載して、詳細を作業標準に記載してもよい。
「測定」(情報の収集・分析)
「点検」は作業者等が行うべき点検事項であって、「記録」の様式に点検結果を記録する。A1:午前の始業時、P1:午後の始業時。
下の図は、右半分の保証系のフォーマットである。
要求事項(特性)、および測定方法、時期、合否判定基準、測定結果の記録方法などを規定する。
品質保証部がチェックする事項は、品質保証部自身が記入する。
特性 | 方式 | 器具 | 記 録 |
時 期 |
品証 |
締め トルク 5±1 |
全数 | 本締め機内 トルクレンチ(自動) 10(kg-cm) |
0/32 | ||
5個 | 製品検査用 トルクレンチ(自動) 10(kg-cm) |
グ ラ フ |
A2 P2 | ||
検査具点検G2-43 | R5 | W1 | ← | ||
きず 汚れ |
0/32 | 目視 | R4 | A2 P2 |
0/32 |
世の中の情報は、玉石混交である。素晴らしい教訓もあれば、ひどい誤りもある。読者は賢明に取捨選択しないと騙される。
以下、ひどい誤りの事例を吟味して、正誤の判別力を高める訓練をしよう。
日科技連本部指導員の東條徹男 氏は、次のように説明している。
1. QC工程表とは
QC工程表(QC工程図または管理工程図)とは、製造品質が設計仕様に適合しているかを 確認する ために製品ごとに材料・部品の供給から完成品として出荷されるまでのすべての工程を図示し、各工程の管理項目、管理方法を明らかにしたものをいう。
各工程の流れに従って、どの特性をどこでだれがどのようなデータで管理するのかを一目瞭然にわかるように表現した管理資料のことである。
上の説明から、同氏が品質管理の意味を誤解していることが分かる。品質を検査・確認する行為は品質保証であって品質管理ではない。
下の図は、東條徹男 氏から引用したQC工程表のフォーマットである。何をどのようにカン違いしているか、吟味してみよう。
工程 | 管理 項目 |
管理 水準 |
管理方法 | |||
管理 帳票 |
担 当 |
サンプ リング |
異常 処置 |
|||
プラグ 挿入 |
挿入代 | 〇±△ | X-R 管理図 |
岩 崎 |
n=5/時 | 菅野 |
成型 | A寸法 | □±△ | X-R 管理図 |
山 本 |
n=1/時 | 高橋 |
外観 選別 |
不良率 | キズ なし |
チェック シート p管理図 |
田 中 |
全数 | 三宅 |
「管理方法」の欄に作り込みの規定がない。つまり、品質管理の意味を理解していないことが分かる。この表は、QA表と呼ばれるものに近似する。
「担当」とか「異常処置」の欄に固有名詞を記載している。つまり、QC工程表やQA表のような規則(規格)と作業日報の区別を理解していないことが分かる。
東條氏は日科技連の指導的な立場にありながら、堂々とQA表とQC工程表を取り違えているわけで、愕くべき現状という他はない。
工程管理の実務経験があれば、こういうカン違いはあり得ない。なぜなら、結果を検査するだけでは、工程の管理が不可能なことは常識だから。
しかもQC工程表でいう「人」とは、「岩崎」や「山本」などの固有名詞を指すのではない。「どのような教育・訓練を受け、またはどの程度の知識、経験、資格を持つ者か」を指す。
経営資源としての「人材」を問題にしているのであって、岩崎か山本かを問題にしてはならない。もし固有名詞を記載するのであれば、工程表という規格ではなく、作業日報である。
公開された(有)浅井製作所のQC工程表である。
工 程 |
設 備 |
管理項目 | 管理方法 | 頻度 | 管理者 |
材料受入れ | -- | 外観 | 目視 | サイズごと | 作業者 |
線径 | マイクロ | 作業者 | |||
材質 | ミルシート | 作業者 | |||
圧造加工 | ヘ ッ ダ | |
外観 | 目視 | 作業者が毎ロット、ヘッダー加工開始後10分ごと、および終了時に1~2個を検査する。 | |
頭部高さ | マイクロ | ||||
頭部外径 | マイクロ | ||||
ブランク径 | マイクロ | ||||
ブランク長 | ノギス | ||||
十字穴偏心 | 目視 | ||||
頭部偏心 | 目視 |
「圧造工程」では、機械としてヘッダーを使う。しかし、その段取りはどうなのか、使う工具は何で、交換限度はどうで、加工油は何をどれだけ使うのか、「作り方に関する管理事項」は何もない。
書いてあるのは、出来上がった製品の検査だけ。検査=品質管理、と誤解していることを示す。
これもQA表をQC工程表と誤解した事例である。いわば「工程設計がない」状況だから、工程FMEAに移ることも不可能である。
関東通測(株)の事例である。
工程名 | 管理 項目 |
検査項目 | 規格 | 実施 | 数量 | 計器 | 記録 |
材料 切断 |
寸法 | 指示票 | 製造 | n=5 | メジャー | チェックシートを含む日報 | |
「線材切断」のステップを見ると、切断した製品をメジャーで測定することしか記載がなく、切断機械・段取り・工具管理・加工油・作業方法などの「作り込み条件」は不明である。
「数量=5個」とあるのも、生産数量ではなく「抜き取り検査の抜取り数」である。つまり、プロセス・アプローチではなく、何の管理もせずに、とにかく「加工して検査する」というやり方だ。
しかし実際にそのようなことで生産はできないから、この「QC工程表」なるものは実情を反映せず、QA表をQC工程表だと誤解して作ったと思われる。
以上のようなカン違いが横行する原因は何だろうか?
上に紹介した東條徹男氏のような多くの日科技連本部指導員が誤った指導を長年繰り返したことが第1の原因と思われる。
QC工程表は工程設計書だから、本来、工程を設計する生産技術部が作成する。
しかし、作り方が分からず、品質保証部が「QC工程表」と称して「QA表」を客先に提出する。それを受け取る客先の品質保証部も、QA表と「QC工程表」の区別を知らずにQA表を受け取って満足することが第2の原因と思われる。
日本規格協会から出ている大津亘氏の「中小企業に役立つFMEA実践ガイド」と題する書物に「QC工程表」と称して掲載されているものである(若干の変更を加えてある)。
番 号 |
保 証 特 性 |
規 格 ・ 重 要 度 |
担 当 |
自主検査 | 製造部の 要因管理 |
検査部門 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
方 法 |
時 期 |
担 当 |
記 録 |
要 因 |
方 法 |
基 準 |
時 期 |
担 当 |
記 録 |
方 法 |
時 期 | ||||
1 | 巾 | × × |
製 造 |
ノ ギ ス |
× × |
作 業 者 |
デ ❘ タ シ ❘ ト |
ノ ギ ス 精 度 |
定 期 点 検 |
点 検 標 準 |
4 カ 月 ご と |
班 長 |
チ ェ ッ ク シ ❘ ト |
||
しかし、どこを見ても検査・測定のことだけで、加工の段取りや作業手順に関する記載がないから、QA表であってQC工程表ではない。
これは、東條徹男氏と似たような理解である。出来上がったものを検査することを品質管理(QC)だと思い込み、「品質の作りこみ」という観念を欠いている。
出版されている書物がこの調子だから、誤った知識が蔓延するのも無理からぬところである。しかもひどいことに、内容がめちゃくちゃである。
1. 保証特性が「巾」だ~という意味は何だろうか? 品質管理QCではなく、品質保証QAだというなら、最初からQC工程表ではないと宣言していることになる。
2. その品質保証を担当するのが製造で、自主検査は製造の作業者が担当するという。ここまでは、要するに「品質保証部ではなく、製造部が品質保証を担当する」という変なことを言っている。
3. 傑作なのは、その次である。
「製造部が要因管理として、ノギスの精度を点検する」とある。「巾」が特性で、それが不良にならないようにノギスを管理するという(笑)。
4. そして、検査部門は検査をしない(空白)。
品質管理研究所のQC工程表の様式である。
番号 | 工程名 | 設備 | 管理部門 | 管理 項目 |
管理 方法 |
記録 | 異常時の処置 | ||||
管理特性 | 管理基準 | 測定方法 | 測定頻度 | 測定者 | 責任者 | ||||||
品質管理研究所のHPに「現在、実務をしている」と自己紹介し、「相談を受けつける」としているので、本人は専門家の積りでいるようである。
この様式を一見し、5M管理条件をどこに記載し、特性の検査はどこに記載するのか不明である。この重要事項の解説は、何と解説第17番目に次のように記載されている。
(17) 管理項目
管理項目には、
①「生産設備の管理項目」と②「製品の品質特性項目」という2つの意味があります。2つを分けて記載するQC工程表もありますが、今回ご紹介したQC工程表はまとめて管理項目としていますので、管理すべき生産管理項目と品質特性項目をもれなく記入しましょう。
これが何故おかしいか?
1. 管理項目には2つの意味があり、それらを同じ記載欄に記載する~という点だ。
a. 生産設備の管理項目→ 作り込みの条件
b. 製品の品質特性項目→ 品質保証系
これらを同じ記載欄に記載するのは厳禁である。前者は作り込み(QC)であり後者は品質保証(QA)であって、全く別の活動である。
2. 次に、作り込みの管理が「生産設備の管理」だけになっている点。残りの次の管理はどうするのか全く分からない。
これで工程の管理ができる道理はないのであって、素人の説明だと言うしかない。
以上のように、QC工程表は工程設計書であり、管理の仕方を記載したもので、「何をどのように管理すれば所定の成果が得られ、トラブルを防止できるか」を示した管理ツールである。
ところで、QC工程表は、専ら品質だけを得るためのツールか、コスト・納期・安全・環境保護をも管理するツールなのかという点を吟味しよう。
結論を言えば、品質だけを単独に管理することはできないから、QC工程表は品質Q、納期D、コストC、安全S、環境保護Eの全てを考慮して、これらの問題が起きなように設計しなければならない。
西沢総研の西沢隆二氏は、「作業者がQC工程表を見ながら作業をする」ことが正常だとの前提に立って、次のように述べている。
この誤った指導が及ぼす弊害は甚大である。
QC工程表は、何故、現場で使われないか?
品質は設計を含め、現場第1線の作業できまる。
しかし、現場ではQC工程表を見て、作業をしていない例がほとんどであろう。それでも作業は正確にできる。何故、スタッフが努力して作ったQC工程表を現場で使わないのか?
まず、QC工程表は全工程書いてあるが、作業者は、そのうちの1部分しか必要がないからである。(以下、省略)
1.「現場で使われない」の意味が不明確である。
現場の作業者のことか、現場の工程管理者のことか、はっきりしない。
2.「スタッフが努力して作った」の「スタッフ」の意味が、製造現場の職員を指すのか生産技術課の工程技術者を指すのか不明確である。
正しくは、次のように理解しなければならない。
1. QC工程表は「作りこみ」管理の仕方を記載した工程管理のツールであり、生産技術課から現場の工程管理者に対する指示書である。
2. QC工程表を見るべきは工程管理者であって、企業によって担当製造課長かも知れないし班長かも知れないし作業指導係員かも知れないが、少なくも作業者ではない。
3. 工程の最初の試運転において、工程設計者の立会いの下、工程管理者が実地に作業を覚え、検討し、改善すること。
4. 工程設計に規定した作業に問題があるときは、工程設計の変更を申し出ること。
5. 作業者に対し、工程管理者が現地で現物で実際にやって見せ、やらせてみて、体で覚えるまで繰り返して指導すること。もし覚えきれない多様な条件があるなら、別途、「条件表」や作業標準を作成して掲示する。
6. 作業者が直接にQC工程表を見て作業をする習慣があったら、廃止すること。
「運転の仕方」というマニュアルを見て自動車を運転するか? それとも、正しい運転法を体で覚えてから運転するか? 体で覚えないと免許証は貰えないよ~だ。