このページを要約しよう。
〔結論〕:QCサークルは、QCストーリーを使用してはならない。そのことは、QCストーリーのタイプ、すなわち、問題解決型か課題達成型かを問わない。 |
QCストーリーに基づく活動・発表の事例を第1章で検討したが、このページではQCストーリーの指導例をとりあげて吟味する。
典型例として、細谷克也氏著(日科技連、すぐわかる問題解決法)に記載されている小集団活動向けQCストーリーの解説を吟味し、誤りを指摘する。
よく理解するためには、誤った例を研究することが非常に重要である。
正しい活動・発表の手順は → 第4章 を参照。
元来、QCストーリーは、次のような役目を負っていた。
ところが、なぜか、QCサークルの「活動手順・発表手順」として、誤って指導されてしまったのである。
このようになった経緯を説明しよう。
もともとQCストーリーは、過去の問題解決事例を他の人に分かりやすく説明するために工夫された報告書の構成ステップとして提唱された。QCストーリーという名称もここに由来する。
その後、実際に問題を解決していくときの進め方としても非常に有効であると確認されたため、問題解決法として広く提唱されるようになった。
上記の引用文のうち、下線の部分に着目しよう。
QCストーリーが「進め方として極めて有効」と確認されたのは、QCサークのような管理サイクルを繰り返す小改善の活動ではなく、石川馨先生が得意とした実験計画法に基づく大掛かりな一発勝負の大改善の活動だったのである。
→ 小改善と大改善の区別
QCストーリーが管理サイクルを繰り返す構成になっていないのは、そのためである。
QCストーリーをQCサークルに取り入れた歴史に、重大な間違いがあった。
各人が好きなように発表すると、ばらばらで理解しにくい。そこで昔の学者は、発表QCストーリーを『誰にも理解できる発表』として標準化した。
そして、さらに活動手順としても使えるのではないかと考えて、「誰にも行える活動」として標準化したのである。
つまり、QCサークル(現場の作業者)でも、活動や発表をQCストーリーにパターン化してレールを敷いてやれば、あとはレールの上を走れば進められるだろう、という親心だった。
しかし、それはカン違いだった。
お陰様で、発表内容の全てがQCストーリーに沿った「作り話」になった。発表大会は、期せずして「ほら吹き大会」になったのである。
QCストーリーの弊害は、以上に止まらない。
さらに大きい弊害は、CAPDサイクルによる「もっと改善できないか」という積み上げに繋がらず、対策を1個講じて終わり、という一発勝負のみになったことである。
どこがカン違いだったか? それは、QCストーリーの内容を見れば一目瞭然だ。
これを見ると、七転び八起である小改善のCAPDサイクルになっていない。むしろ、失敗が許されない、やり直しが効かない、一発勝負の大改善の手順になっている。
つまり、QCストーリーは、本質的にQCサークルに不向きであって、無理に適用すれば「ウソ話作成ツール」の役目しか果たせないのである。
この標準化は、実験計画法による大掛かりな要因分析・原因解析を行う一発勝負の活動には適するのである。
現実は、筆者のように「目標は立つはずがない」、「計画は立つはずがない」、「要因を多数挙げても無駄だ」などという指導者は少ない。皆がスイスイのスイとQCストーリーに沿った発表をする。
大学の研究者、指導機関、企業の指導者や発表の審査員も(内心はともかく)表立ってQCストーリーに疑問を提示する人は少ないのが現状である。
QCストーリーの問題点を整理しよう。
ステップ | 指導内容 | 正しい考え方 |
---|---|---|
テーマの選定 | 活動テーマの選定 | 発表テーマのはず。活動テーマは1個に制限すべきでない。 |
選定理由 | 活動テーマの理由 | なぜ、このテーマを発表するのかを示せ。 |
活動計画 | 全体の活動計画 | できないはず。 予測に根拠がないから。 |
目標の設定 | 設定を強制する | |
要因分析 | 多数の要因を列挙 | 名探偵は少数の容疑者を挙げる。1~数個の疑わしい要因を挙げよ。 |
対策の立案 | 要因への対策を要求 | 要因は原因にあらず、対策しても普通は効果は出ないはず。 |
効果の確認 | 目標達成率を重視 | 目標は立たない。 |
今後の計画 | 何を計画するのか不明 | 管理サイクルの予定を示せ。 |
以下、順に、QCストーリーの詳細を検討しよう。
この項の詳細は → 第5章:QC活動のテーマ選定 を参照して頂き、ここでは概要のみとする。
テーマは、活動テーマと発表テーマに分けて扱わねばならない。
QCストーリーに「テーマの選定」という項目があるが、これは活動テーマと発表テーマのどちらを指すと解釈するべきだろうか?
こういう疑問を持たない人は、「活動テーマと発表テーマは同じだから、そういう問題は存在しない」と考えているのである。
しかし、活動テーマは1個に限らず2個でも3個でもよい訳であり、反面、発表テーマは1個に限定されるから、原則として両者が同一ということはない。
私達はトラブルをいくつか抱えたとき、1個だけ選定するのが普通だろうか?
テレビとパソコンと水道の蛇口が故障したら、その全てを修理するのが普通であって、
・困る程度
・かかる費用
・期待効果
・実現性
・お父さんの方針
・家族の方針
・かかる期間
など、いろいろと理由を探して1個だけ選び、残りは手を付けずに放置する~というのは、バカのすることである。
新規に製造工程を立ち上げたら、不良が4項目発生じたとする。
あれこれと理由を挙げて1個だけ選定して、残りは放置するのが正常な日常管理だろうか? それとも、4つの不良を同時に検討し、解決できるものはどんどん解決するのが正常だろうか?
以上のように考えると、活動テーマは選ばない(同時に複数のテーマに手をつける)のが普通だと考えるべきである。従って、QCサークルの「テーマの選定」は発表テーマを一個だけ選定することを意味する(活動テーマの選定と理解してはならない)。
では、なぜ、「活動テーマを選ぶもの」という考え方が蔓延したのか? それは、QCサークルの歴史において、「活動テーマは特別なものを選定せよ」と重点管理が指導されたことによると推測される。
重点管理こそが、「むやみに手を付けるな、手を付ける問題を選べ」との教えだからである。
〔詳細な説明〕 → 第5章:重点管理は誤り
ここで、指導例を吟味しよう。
それらの問題を、管理者の方針・目標や期待効果、実現性などの項目で評価し、取り組むべきテーマを決定します。
誤りである。
「取り組むべきテーマ」として選定したテーマ以外は全て「取り組むべきではないテーマ」として長期にわたって放置されることになり、到底、賛成できない。
小集団活動の目的は、次の通りである。
(前略)全社的品質管理の一環として、次の目的で行う。
- 自己啓発と
- 相互啓発を行い、
- QC手法を活用して職場の管理、改善を継続的に全員参加で行う。
これらの目的のうち、相互啓発
の目的で行われるのが事例発表会である。従って、相互啓発の目的に沿うテーマを、過去のいくつかの改善事例から選定することになる。
ところが多くの場合に、そのように指導されない。活動テーマを1個だけ選ぶように誤って指導されるから、発表テーマの在庫がなく、選定する余地がないのである。
すると困った問題が発生する。改善に失敗して成果を出せなかったとき、どうするか?
活動テーマとして特別なものを選定しているから、選定理由が必要になり、しかも発表せねばならないことになる。
「失敗すると発表に困るので、成功すると分かっているテーマを選定しました」と正直に発表する人は誰もいない。
QCストーリーに沿って改善テーマを1個だけ選ぶという間違いが、発表テーマの選定を不可能にし、それが「ウソ話」に繋がっていくメカニズムを説明した積りである。
このメカニズムは、いわゆる「本音と建て前」論とは全く異なる。QCストーリーによって真実の発表が強制的に禁止され、強制的にウソ話の発表に導かれるのである。「本音と建て前」論によっては、正しい活動・正しい発表の仕方を導くことはできない。
QCストーリーによって、活動計画を立てるよう要求される。しかし、実際には計画を作成せずに、発表の直前に体裁のために創作する。
そうなってしまう事情は、次の通り。
以下、説明しよう。
QCストーリーによると、活動テーマを選定して、すぐに全体の活動計画を立てる。つまり、原因も対策も、何も分からない状態で、最初から最後までの活動を見通さねばならない。
それは、神仏でなければできるはずのない不可能を強いることである。原因も対策も分からないトラブルを一発勝負で一挙に終了させるQCストーリーの筋書きで成功する事例など、ほとんど実在しない。
実際に行われる改善活動は、QCストーリーのような一発勝負ではなく、試行錯誤の CAPDサイクル である。
CAPDサイクルを手段が尽きるまで繰り返す。つまり、いつ、誰が、何を、どうするのか分からない活動を事前に予知して計画せよというのはムリな話である。
QCストーリーのこの点について、細谷克也氏から引用する。
問題解決活動を計画通りに円滑に推進していくには、活動計画が必要です。
ここでは、活動の実施事項を決め、これを「誰が」、「どのよう実施するか」について日程を定め、「活動計画表」とします。
細谷氏は計画の意味・目的を誤解している。
計画は、計画通りに円滑に推進
するために作成するのではない。期限に間に合わせるために作成するのであって、計画通りである必要はない。物事は計画通りには進まないのが通常である。
生産計画のように「行動や所要時間」が分かっていて計画を立てる場合でも、物事は計画の通りには進まず、多くの場合に計画からずれる。その場合、「現状からどのように納期に間に合わせるか」という再計画を何回も繰り返す。
従って、実務を知る者なら、細谷氏が示す見本のような「1回しか作成しないガントチャート」などはあり得ないことを知っている。
従来のQCストーリーのように活動テーマを1個だけ選定するやり方では、「発表に間に合わせなければならない」との理由で活動計画を立てるように要求される。
しかし、もともと発表テーマは既に終わった過去の事例であって、これから始まるテーマではない。従って、発表会に間に合うための計画を作成する必要性もない。
→ QCストーリーの役目
QCサークル(小集団)活動に「目標の設定」を要求することは不適当である。
失敗が許されない方針管理では、失敗を避けるための条件を満たすことの証として、目標の設定が不可欠である。
他方、QCサークル活動(小集団活動)は失敗が許される CAPDサイクル による小改善であるため、事前に研究活動がないから目標を立てることは不可能だし、立てる必要もない。
正しい活動では、CAPDサイクル をアイデアが尽きるまで継続する。結果がどうなるか予測も制御もできず、「このような結果にする」と目標を宣言するのはハッタリである。
ところが世間で実際に指導されるQCサークル活動は、QCストーリーで目標の設定が要求されるが、実際には設定せずに「設定したように」装う。これは「活動計画」の作成と同様の現象である。
筆者がある企業に出張してQCサークル・セミナーを開催したときの話。出張先の社長とセミナー会場で激しい議論になった。
社長:目標を設定しても無意味なんて、そんなことはない。目標を設定すれば、その目標のようになるものだ。私の友人である一流企業の社長も、そう言っている。 筆者:「不良ゼロ」の目標を設定して、その後の検討で会社が倒産する程の莫大な費用が掛かると分かっても、やはり「不良ゼロ」を進めるのですか? 社長:その場合は、目標を変更する。 筆者:変更するということは、つまり、目標が間違っていたと認めるのですね? さらに、目標の立て方も間違っていたことになりますね? 社長:・・・ 筆者:「原価ゼロ」の目標を立てれば原価ゼロになり、「利益3倍」の目標を立てれば利益が3倍になるなら、企業経営というものは随分と楽なものですね? 社長:・・・ |
QCストーリーでいう要因分析に関する指導例を吟味しよう。
日科技連:細谷克也氏の要因分析を吟味する。
要因解析では、結果を悪くしている真の原因を突き止め、なぜ悪いのかを明らかにします。
QCストーリーでは、結果に大きく影響していると思われる要因を抽出すること、抽出された要因群の中からどれが真の原因かを検証するという2つの作業がポイントになります。
洗い出された要因を特性要因図等に整理します。なお、要因とは、結果に関する主な原因のことです。
大変な誤りである。
短く整理すると次の3つになる。
これらは、全て間違いである。理由を挙げよう。
1.要因解析とは、ある特性に対して「影響力のある要因」を明らかにすることであって、原因は明らかにならない。
2.結果に大きく影響すると思われる要因は、通常、厳格に管理するから原因であることは少ない。反対に、影響するとは思わずに放置していた事項が原因である場合がほとんどである。
3.QCサークル活動で採用すべきCAPDサイクルでは、「効果の確認」によって行う。すなわち、ある要因に対策を講じ、
~と判定する。
上記のように、特性要因図に要因を漏れなく列挙するように指導する傾向は、実験計画法を用いた一発勝負の大改善に由来する。
→ QCサークルの提唱者
QCサークルが作成すべきは、「多数の単なる要因」ではなく「少数の疑わしい要因」を列挙した特性要因図である。
→ 正しい用語の意味
→ 一つの要因
特性要因図は、業務管理規定や工程設計に反映させるための報告の目的で、活動が終了した後に作成することを推奨する。
QCストーリーの指導例を吟味しよう。
要因解析で究明された真の原因に対して、それを除去するための対策を検討・評価・選択して、適切な処置を確実に実施するのが、この手順です。
ここでは真の原因を取り除いて、二度と同じ現象が起こらないように根本的な対策を打つことに意義があります。
3つの点で誤りである。
1.「要因解析で究明された真の原因」とあるが、要因解析は要因であるかどうか(影響力の有無・程度)を解析するだけであって、原因は解明されない。
2.QC改善では、「先に原因を究明して、その原因に対して対策を講じる」という行動(原因確定型)をほとんど採用しない。
多くはCAPDサイクル(試行錯誤法)で、「仮説を立てて、先に対策を講じて、効果があったらそれが原因である(仮説が正しい)」というやり方をする。
3.ここで講じる対策は「問題解決のための対策」であって、「再発防止のための根本対策」ではない。
再発防止は管理の欠陥(根本原因)を追及し是正することであって、主に技術者、管理職、経営陣の役目である。QCストーリーでいえば「歯止め」がこれに該当する。
→ なぜなぜ分析
QCストーリーの指導例を吟味する。
効果の確認とは、対策をとる前と後で、問題となっている管理特性がどのように変わったか、その有効性を調べることです。
(中略)
データはできるだけ時系列で表します。対策前後の確認は、必ず「現状の把握」で用いたグラフに対策後のデータを付け加える形とし、グラフの中にはベンチマーク(BM)、目標、結果を明記します。
もし、対策の効果が明確でない場合には、統計的手法により検定するか、あるいはデータ数を増やします。
上の指導内容を箇条書きにして正誤(〇、△、×)と解説を示そう。
発表の最後に「今後の予定」を説明することが重要である。この発表の段階で活動は終了か、それとも CAPD をさらに続けるか、の説明である。
ところが、細谷克也氏(日科技連、「すぐわかる問題解決法」)には、この点が抜けている。一発勝負の活動だと勘違いしているから、ストーリーとして今後の予定は不要と考えたのかも知れない。
以上のように、一般に解説されるQCストーリーはQC改善にとってマイナスの面に満ちており、活性化を妨げる大きな原因となっている。