このページでは、QCサークル活動に役立つ時系列折れ線グラフを中心に、現状把握・原因解析・効果の確認に利用する事例を解説する。
グラフは、数値データを可視化する手法である。
可視化しただけではダメ。可視化して、何が分かったかを説明せよ。 |
第8-1図は減量中の体重の測定データであるが、これを見ただけではデータの意味が分からない。減量が急激に過ぎるかとか、緩慢に過ぎるかとか、というような情報を得ることは難しい。
第8-2図は、上のデータを時系列の折れ線グラフにしたものである。データからの情報の読み取りが容易になり、今後の方針を立てる「よりどころ」になる。
すなわち、数値データ表を見ただけでは解析(情報を取り出すこと)が難しいので、これをグラフに可視化するのである。可視化の方法として、いくつかの方法があるが、ケースバイケースで選んで使えばよい。
第8-3図は、ある人の集団についての円グラフである。健康診断の結果が異常な人の全体に占める割合を表わしたものである。
第8-4図は、ある人健康診断の結果を表わしたレーダーチャートである。これにより、その人の特徴を示すことができる。
第8-5図は、在庫品の不良品の損失金額を表わした棒グラフである。これにより、どの不良の予防にいくらの投資が可能かを知ることができる。
グラフにはいろいろあるが、現状把握・原因解析・効果確認に役立つのは、唯一、時系列折れ線グラフである。
1) 現状把握として、職場に存在する種々の問題を1つの時系列折れ線グラフに表して、全体を観察することができる。
2) 現状把握として、それぞれの特性の時系列な平均値とバラツキの特徴(急変、慢性、突発、季節変動等)を把握することができる。
3)CAPDサイクルを繰り返したとき、各サイクルの効果を判定することができる。
従って、小集団活動で、現状把握、CAPDの繰り返し、効果の確認に便利に使うことができる。
第8-6図は、A・B・C・Dの4項目の不良について、横に日付、縦に不良率%をとった時系列折れ線グラフである。ここに示す4項目の不良率のグラフから、次のように情報を読み取る。
定常不良A
毎日、ほぼ一定の%で発生する。どこかの機械に欠陥があるままで長期間に使われ、条件や作業方法が不適切なのに「適切だ」と信じ込んでいる場合などに見られる。故に、その究明は簡単ではなく、根気よく要因を挙げては実験や層別で確認することの繰り返しとなる。
数値特性の不良の場合は、ヒストグラムで「高原型」、「ふた山」、「離れ小島」等の有無を確認する。
周期不良B
不良率が次第に上昇、あるとき急落する。例えば、「給油すればよくなるが、そのままにしておくと次第に不良が増える」とか、「洗浄水槽の水を新しくすればよくなるが、使っているうちに汚れて不良が増える」とかの場合である。
突発不良C
普段は全くでないが、ある間隔で急激に発生する。これと同じ時期に変化するものが何であるかを不良の内容から推測してみる。定常不良A以外は、不良率の変化に対応する現場条件の変化を探す活動になる。
交代不良D
ある期間ごとに不良率の高低が交代する。2社発注の部材の交代、夜勤組みと昼勤組みの交代、残業が続いたり止めたり、2台の機械の1台を使ったり中止したり、などの交代である。どの交代と不良率の対応をつきとめ、さらに詳細を詰める。
〔注意〕
1) 同一品に複数の不良項目が存在する場合に、同じ1枚の用紙に全項目一括して色分けして表示するのが便利である。
2) 「時系列折れ線グラフ」を使いこなすのがQC活動の要である。そのためには現場に詳しく、かつ種々の解決手段を着想する固有技術を持たねばならない。
3) グラフの変化に対応する要因を容易に見つけられるとは限らない。その場合、思いついた要因候補に次々と即座に対策を講じてみる即時実施型に活動が有効なことが多い。
改善効果があったことを主張するには、2つの方法がある。 |
第8-7図は、1つの特性について対策aを講じ、その結果を見て次の対策bを講じ、これを繰り返した事例である。これはPDCAを反復して改善を進める小改善の典型活動であり、日常管理(小集団等の小集団活動)で多くみられる。
このグラフから、「対策 1」と「対策 4」には効果が認め得るが「対策 2」と「対策 3」には認められないこと、一目瞭然である。
なぜ、一目瞭然か? その根拠は?
「効果があった」ということは、特性値の変化(グラフの落差)が「単なるバラツキ」と明確に区別できるということである。
そこで、「対策 1」による落差をみると、その前に起きたバラツキを超えた大きさである。単に偶然に起きたもので対策とは無関係だ、という主張は統計的に無理である。
従って、「対策 1」の効果が認められ、「対策 4」も同様である。他方、「対策 2」と「対策 3」による変化は、バラツキと区別できないから効果は否定される。このように、効果の証明はバラツキとの関係で示さねばならない。
第8-8図はある不良項目についてロットごとの不良率を記録した表であり、それを時系列折れ線グラフにしたものが第8-9図である。
対策を講じたのはロット番号9であるが、第8-9図のグラフでみると、対策の前後の平均不良率で0.1%程の改善効果があったように見えるが、果たして効果ありと判断してよいか。
〔解説〕
これは、同じ母標準偏差の2つのデータ群A,Bがあって、それぞれの平均値xAとxB の間に差があるかどうかを検定する「平均値の有意差検定」の問題である。
対策前のデータ群Aと対策後のデータ群Bについて、正規の計算を行なって検定してみる。
データ数:nA=nB=8
平均値 :xA, xB
平方和 :SA=(1.2)2+・・・+(1.4)2=11.16
SB=(1.1)2+・・・+(1.2)2=9.42
分散 :VA=SA /(nA-1)=1.59
VB=SB /(nB-1)=1.35
上の平均値の差は偶然であって有意ではない、との仮説H0 を立てる。
データ群A、Bの標準偏差をSA、SBとして、共通の標準偏差sを求める。
次式でt0 を求める。
5%のt検定では、次のいずれかであれば、仮説H0を棄却する。
or,しかるに、t分布表から、
が求められ、仮説を棄却できず、平均値に差がある(効果あり)とは言えない。
効果ありと言えるためには、
といった程度の差が必要となる。
このことをグラフに示したものが第8-10A図である。上のグラフではデータ群Aとデータ群Bを混ぜたときに、2つのグループを識別できず、効果があるとは言えない。
第8-10B図のように、Bグループの全点がAグループの平均値以下であるように、「効果がないとすることに無理がある」なら効果を認定できる。
しかし、わずかな効果では価値がない 訳であり、価値ある効果を認めるには目で見てはっきりと分かる効果が欲しいと言える。このように、いちいち「t検定」せずとも、実用上はグラフの上で簡便に判断することができる。
小集団の改善事例発表で、多くは平均値の差を「効果」と発表するが、それは認められないと指導する必要がある。
しかし、管理図のところで述べたような連続した「傾向」の形になっていれば効果を読み取ることができる。
下のグラフは、ある機械の「段取り時間の短縮」というテーマで3個の対策を講じた結果である。対策A、B、Cに効果はあっただろうか?
対策A、B、Cのいずれも効果ありである。なぜ、そう言えるか? 「グラフが下がって来たから」では理由にならない(偶然に下がったのかも知れないから)。
〔理由〕対策による変化が対策前のバラツキ(グラフの上下変化)を超えているからである。
1) トラブルの内容
毎日いろいろな雑用で時間をつぶし、本来の仕事が遅れがちである。
2) 手順計画
どの雑用も単純なもので、原因も対策も大して困難ではない。従って、1件ずつ対策を講じていって、全体の効果を確認するしか方法がない。
3) 原因分析・対策の立案・実施
最初の1か月間は、「どのような雑用で席を立ち、いくら時間を費やしたか」詳細にデータを記録するだけだったが、それだけでは進まないので、「雑用で席を立つたびに対策を検討して直ちに実施する」ことにした。
4) 効果の確認
右の時系列グラフで効果は明白だが、このグラフで効果を確認できる根拠は、「何らの効果もなければ、このようなデータ傾向となる確率は極めて低い」という点にある。
5) 歯止め
有効性を認めた個々の対策を継続するように、職場管理規定に規定した。