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なぜなぜ分析 医療事例 トヨタは誤り

4H・オンライン講習会
 なぜなぜ分析 11/19(木)
 定員12名 → 詳細

4Hオンライン講習会

はじめに

「なぜなぜ分析」(Why-why analysis)とは、

根本原因分析 RCA(Root Cause Analysis)とも呼ばれ、
 事故が起きたときに再発防止の目的で、
 「なぜ」を繰り返すことによって、
 事故を許してしまった管理システムの欠陥=根本原因 (root cause)を追求す活動をいう。

深掘りとは、

(発散ではなく収束に向かう)ボトムアップ方式によって、より根本的な管理システムの欠陥に迫ることをいう。

真の原因とは、

「見かけの原因」の反対語であり、
 原因のうち、対策を打てば問題が解決するものをいう。

真の原因は、その分野の知識に基づくデータ収集と解析を繰り返すことによって追求するものであって、「なぜ」を繰り返しても得られない。

〔注〕反対説あり。
 このページでは、正しいなぜなぜ分析を医療などの事例を通じて究明し、最後にトヨタ式の「なぜなぜ5回」、その他のやり方の是非を再検討しよう。


目次
1.三つのやり方
1.管理欠陥説
2.真因追究説
3.要因展開説
2.手順
1.真因の確認
・説明用の事例
2.会議の招集
3.根本原因の特定
4.根本対策
3.真の原因
1.真因とは
2.事例研究
・航空機の墜落事故
・医師による診察
3.データの収集分析
4.再発とは
5.根本原因
1.根本原因とは
2.根本原因の追究
・深掘り
3.ブロック塀の倒壊
4.新幹線:台車枠亀裂
5.京大エタノール事件
6.トヨタ式

1 三つのやり方

出張講習会

「なぜなぜ分析」には三つのやり方があり、実務が混乱している。以下、これらの考え方について簡単に説明する。

→ 目次

1-1. 管理欠陥説

鵜沼崇郎の肖像

客観説TQM研究所が提唱した手法である。

業務は、ミスが起きないように管理されていなければならない。そのため、業務管理規定や業務工程等の設計に、ミスが起こさないための予防策が仕組まれて(規定され、設計されて)いる必要がある。さらに、それを実行する人材・時間・設備等の経営資源が必要になる。

これら 規則・設計と実行手段(人材や設備等の経営資源)を合わせて、管理システムという。

もし、管理システムに欠陥があると、そこから次々と事故が発生することになる。従って、最初に事故が発生したときに真因を解明して対策を講じた上で、その対策を事前に打てなかった管理上の欠陥を追究して是正しておけば、その後の再発を防げたはずである。

この欠陥を根本原因(root cause)と呼んで、トラブルが発生したら早めにこれを突き止めて是正する必要がある。この根本原因を突き止める活動・手法が「なぜなぜ分析」である。
 真の原因を突き止める活動・手法を「なぜなぜ分析」とは呼ばない。

このページでは、以上の定義による「なぜなぜ分析」を解説するが、以下、他の説にも簡単に触れる。

現在、呼び方はいろいろあり、定まっていない。

  1. なぜなぜ分析 Why-why analysis
  2. 根本原因分析 RCA (Root Cause Analysis)
  3. なぜなぜ5回 5 whys analysis

〔注〕1 と 2 は適切な名称であるが、3 は不適切である。

実務を混乱させる主な考え方は、次の二つである。

→ 目次

1-2. 真因追究説

トヨタが提唱したやり方である。詳細は後述する(→ トヨタ式)とし、ここでは要点のみを紹介する。

大野耐一氏

大野耐一氏は、著書「トヨタ生産方式」の中で「なぜなぜ5回」を紹介した。そこでは「なぜ」を5回繰り返して真の原因(別称:真因、英語名:true cause)を追究する手法として説かれた。
 しかし、大野氏は、次の点を誤解されたたと思われる。

(1) 一般に真因の解明は、

  1. その分野の知識と経験
  2. データの収集
  3. データ分析

によって行われ、「なぜ」を繰り返しても真因は解明できない。

(2) 何らかの方法で真因を突き止めて対策を打って問題を解消できたとしても、それだけでは再発防止にはならい。なぜなら、「予防できなかった」という管理システムの欠陥(根本原因)が是正されずに放置されるからである。真の原因(真因)と根本原因は同一ではない。

トヨタが優れた固有技術を持ちながら、世界一のリコール多発企業となっているのは、「なぜなぜ5回」の誤りに起因すると思われる。

→ 目次

1-3. 要因展開説

小倉仁志氏

もう一つ実務を混乱させている説は、要因展開説である。小倉仁志氏 が代表的な提唱者である。

再発を防ごうとするなら、事故に繋がりそうな全ての要因を展開して対策を打たねばならない。「なぜ」を繰り返して展開された多数の要因に対して、さらに「なぜ」を繰り返して多数の要因を展開する。そして、これらのうちの対策が不十分なものに再発防止策を講じると説く。

・要因展開説の欠陥

小倉氏が展開するのは、あくまで要因(原因かも知れない事象)であって現実の事故の原因ではない。従って、真の原因は特定できないから問題が解消したという確信は得られず、まして再発防止は手つかずである。

小倉氏の展開図

1. 「なぜ」を何回繰り返すのか~という問に対し、小倉仁志氏は「再発防止策が見出せるまで繰り返す」というが、それは不可能なことである。技術的に完全に解決しても、根本原因(管理の欠陥)を追究して是正しなければ再発は防げないからである。

2. 要因を展開しても、現実のトラブルの原因は見つからないから問題は解決しない。要因と原因は、意味が異なる。

〔参照〕→ 要因と原因

3. 「起きるかも知れない無数の要因」に展開すると、全てに対策しきれず、必ず頓挫する。

4. 展開して要因数が多くなればなるほど、各1個の要因の重みが薄れ、一部の要因に対策を講じても再発防止の効き目は薄くなるから、浅掘り になる。
〔参照〕→ 深掘り

・まとめ

真因追究説と要因展開説に共通する問題点は、次の通りである。

  1. 深掘り」の意味を誤解している点
    多数から少数に収束することが正しい「深掘り」である。
  2. 真の原因と根本原因を混同する点
  3. 真の原因も根本原因も解明されない点
  4. 目的が不明な点
    (問題解決なのか、再発防止なのか)

正しい「なぜなぜ分析」は、これらを明確に説明できる必要がある。以下、管理欠陥説について説明する。真因追究説の詳細は後述する。→ トヨタ式

→ 目次

2 手順

「なぜなぜ分析」の手順を下の表にまとめ、その後、事例をまじえて説明する。

下の表では、特に赤文字で示すように、真因の解明が先で、なぜなぜ分析はその後であることに留意して欲しい。

再発防止の全体的手順
手順内容
事故の発生報告事故の顛末の明確化
真因の解明情報収集・分析→真因
なぜなぜ分析会議で規則と実行手段の欠陥を討議
欠陥システム是正すべき規定の列挙
根本原因の特定是正すべき点
根本対策の決定是正の方法
根本対策の実行是正の実行

以下、事例をまじえて説明する。

→ 目次

2-1 真因の確認

上の表に示すように、なぜなぜ分析を開始する前に、事故の真因が明らかになっている必要がある。
 従って、真因を解明した者(担当者、技術者等)は、真因の根拠となるデータ(情報)をなぜなぜ分析会議に説明する必要がある。

なぜなぜ分析を「事故の真因が明らかにする手順」だと思っている人にとって、上の説明を奇異に映る。しかし、その意味は、この先を読むことによって明らかになる。

〔参照〕→ 真の原因

→ 目次

 説明用の事例

説明の便宜上、次の事例を扱う。

製造工程で作業者がうっかりミス(別称:ポカミス、ヒューマンエラー)をして不良品を作ってしまい、それが出荷されてクレームになった。

この場合、作業からの聞き取り調査、クレームの内容等のデータから「ポカミスによって発生した」との裏付けが取れれば、「ポカが真因である」 と認定できる。
 〔参照〕→ 真因とは

→ 目次

2-2 会議の招集

事故の内容や規模にもよるが、企業の課内で済む問題の場合は課長が議長になって関係者を招集して開始を開く。他の部門にも関係するような事故の場合は、品質管理委員会で討議する。

事例では、製造課長が工程設計にポカ対策がされていないことが根本原因であると判断し、製造部長にその旨を報告して討議を依頼した。製造部長は品質保証部長と協議の上、品質管理委員会での討議を要請した。

→ 目次

2-3 根本原因の特定

ここから「なぜなぜ分析」の開始となる。

議長は、「この事故を予防できなかったのは、なぜか、皆さんの意見を聞きたい」と切り出す。必要なら、提出された意見に対して「なぜ」を繰り返す。

根本原因は一個に限らず複数の、又はより根本的な原因があり得るので、「なぜ」を繰り返すことによって(深掘りする。)。

〔注〕「より深い根本原因」というと、複数に展開する(トップダウンする)ことのように先入観を持ちやすいが、正解は逆である。後述するように、収束に向かってボトムアップに追跡するのが正しい。
 事例では、次のように討議された。

  1. 品質マニュアルや工程設計管理規定に、ポカが起きそうな作業にポカ対策を義務付ける規定がない。
  2. 工程FMEAが実施されていない。
  3. 設計審査がされていない。
  4. FMEA等の社員教育制度がない。
  5. 技術陣が多忙で、事実上、これらの要請に対応できない。
  6. 営業部門が工場の実力を超えた受注をしている。
  7. 受注の妥当性を品質管理委員会で確認してから受注する調節制度がない。→ 根本原因に決定
→ 目次

 経緯の説明

「品質マニュアルや工程設計管理規定に、ポカが起きそうな作業にポカ対策を義務付ける規定がない」という欠陥が最初に持ち上がった。

しかし、その原因を辿ると、技術陣が多忙で設計管理規定に規定を設けても実行できない~という実行力の欠陥が浮上し、営業部門が無制限に受注して技術管理を弱体化している現実が浮かび上がった。

技術陣の多忙を防ぐための受注量の調整制度がないことが根本原因であると判断された。そこで、これに対する対策を講じた上で、必要な技術関連の規則を強化することにした。

→ 目次

2-4 根本対策

技術陣の多忙を防ぐための受注量の調整制度として、何を行うか。最終的にどの規則・設計のどの部分が問題か、範囲を特定し、是正案の討議・決定に至る。

事例では、社長を委員長とする品質管理委員会の決裁で、次の事項を実施することになった。

  1. 受注の妥当性を品質管理委員会で確認してから受注するよう、営業管理規定を改訂する
  2. 技術部門関連の規定類を改訂し、次の事項を義務付ける。
    ・ポカが起きそうな作業のポカ対策
    ・FMEA社員教育制度の設置
    ・シーケンス回路の教育の実施
    ・設計審査の実施
→ 目次

3 真の原因

なぜなぜ分析の前に、事故の真因が明らかにする必要があること前述の通りであり、下に全体の手順を再掲する。

再発防止の全体的手順(前掲)
手順内容
事故の発生報告事故の顛末の明確化
真因の解明情報収集・分析→真因
なぜなぜ分析会議で規則と実行手段の欠陥を討議
欠陥システム是正すべき規定の列挙
根本原因の特定是正すべき点
根本対策の決定是正の方法
根本対策の実行是正の実行

以下、真因とは何か、どうやって究明するか、このような問題を考えよう。

→ 目次

3-1 真因とは

真因(別称:真の原因:true cause)とは、原因のうち、対策を打てば問題が解決するものをいう。これに対して、原因ではあるが、対策を講じても問題が解決しないものを「見かけの原因」(apparent cause) という。

例えば、ヒューズが溶断して機械が停止した場合、「ヒューズが溶断」は機械停止の原因である。しかし、ヒューズを交換しても問題が解決しないから「見かけの原因」であって、真因は別のところにある。

真因は、「なぜ」を繰り返しても究明できない。もちろん、何事も疑問を抱くことは大切なことで、それを否定する意図は全くない。真因を究明するのに必要な事項は、次の通りである。

  1. 固有技術
    その分野の十分な知識・経験
  2. データの収集
    原因を推測させる事象・痕跡
  3. データの解析
    データの意味を読み取る作業

3-2 事例研究

→ 目次

事故の原因を解明するには、固有技術が必要である。「なぜ」と自問したところで、知識・経験がなければ真因の調べようもない。そのことは、経理課の女子事務員が機械の故障について、いくら「なぜ」を繰り返しても一歩も進まないことから明白である。

火を噴く航空機

1) 航空機の墜落事故

航空機の墜落事故が発生した場合に、この方面に詳しい事故調委員会が原因調査を担当する。素人が担当しても、手に負えない。

2) 医師による診察

医師による診察

患者が腹痛を訴える場合、病院ではその方面の医師が診察を担当する。素人が担当しても、手に負えない。

3-3 データの収集分析

→ 目次

事故の原因を解明するには、固有技術に基づいてデータを収集し、その意味を解釈するための分析が必要である。
 そのことを示す事例を拾ってみよう。

1) 航空機の墜落事故の場合

事故調委員会は、「なぜなぜ分析」によって真因解明を試みることはしない。残骸・フライトレーダ・ボイスレコーダ等のデータを収集する。必要なら、クルーの病歴、航空機の整備・修理履歴などの記録も収集する。また、目撃者の証言も収集の対象になる。

これらのデータが何を意味するか、分析して原因を推測する。また、必要に応じて実験などにより、データを補強する。

2) 医師による診察

医師は、「なぜなぜ分析」によって腹痛の真因を解明しようとはしない。患者の自覚症状、小規模な検査、必要に応じて血液検査・尿検査・レントゲン・CT・MRI・内視鏡などの検査を通じてデータを収集する。

医師は、これらのデータが意味するところを汲み取って、病名や治療計画を検討する。

→ 目次

4 再発とは

「再発」とは、どういう意味か?
 同一の管理システムの下で、続いて事故が発生すことをいう。

同一の原因、同一の事故である必要はない。なぜなら、一見して同じ原因、同じ事故に見えても、多少は異なる点があり、全く同一の原因・事故というものは存在しないからである。

〔事例〕
 あるレストランで食中毒事件が発生した。原因は、一人のコックの手の洗浄不良にあった。店長は、コック全員に手の洗浄方法を指導し、これをもって再発防止が完了した旨を宣言した。

その翌月、また食中毒が発生したが、今度の原因は野菜の洗浄法にあった。店長は、同様に関係者全員に野菜の洗浄方法を指導し、これをもって再発防止が完了した旨を宣言した。そして、店長は「今回は前回と原因が違うから、再発ではない」と主張した。

しかし、世間は「再発だ。あの店の管理はなってない」と批判した。原因は違っても、同じ管理システムの下で起きているから、いわゆる モグラ叩き であって再発である。これを防止するには、食中毒に関する管理システムを全面的に見直さねばならない。

→ 目次

5 根本原因

根本原因(root cause)は、どこに存在するか? この基本的な問題を明らかにする。

展開図

手始めに、問題を出そう。
 右の展開図でトップ事象が左端にあって、これを右に向かって多数の要因事象に展開されたたとしよう。さて、根本(root)とは、左のトップ事象を指すか、それとも右の多数の端末事象を指すか?

正解は、左のトップ事象が根本事象である。右の多数の事象は枝先(branches)である。そもそも、根本的な事象は一個(又は少数)であって、「多数の根本原因」などはあり得ない。

根本原因(root cause)の "root" は、日本語でも「ルーツ」という。
 よく聞く話は、世界の多数の人種のルーツは、DNA解析で一群の「ミトコンリア・イヴ」という女性達に行き着くといわれている。つまり、多数に分岐した枝先がルーツなのではなく、多数の枝葉からさかのぼった「根もと」がルーツなのである。

このことを念頭に入れて、次に進もう。

→ 目次

5-1 根本原因とは

いま、品質マニュアルや工程設計管理規定に「ポカ対策を義務付けていない」という欠陥があるとする。すると、いろいろな作業でポカミスによるトラブルが発生する。この状態を下の図に示す。

ポカが多発する仕組み
ポカが多発する仕組み

ポカ対策を義務付けていないから、特に教育の必要もなく、FMEAの教育もシーケンス回路の教育もしていないし、設計審査もしていない。従って、ポカが多発することになる。

→ 目次

5-2 根本原因の追究

根本的な原因があると、そこから繰り返しトラブルが発生する。

故に、最初にポカミスが発生したときに「なぜ」を繰り返して根本原因を特定して是正しておけば、他のポカミスは防げたはずである。これが「なぜなぜ分析」による根本原因の追究と再発防止の仕組みである。

この原理を下の図に示す。

根本原因の追究
根本原因の追究

上の図を見ると、根本原因には階層があることが分かる。この階層のどこまで「なぜ」を繰り返せばよいかは、その企業の状況によって異なる。最も根本的な原因に近づくことを、「深掘り」という。

上の図を左から見ていこう。

規則でヒューマンエラー対策を義務付けていない。
→ すると、ポカヨケの教育をしない。
教育しないから~、
→ 設計審査でポカを問題にしない。
ポカを問題にしないなら~
→ 設計者もFMEAをしない。
FMEAをしないからポカ対策が抜けて~
→ ポカミスが次々に発生する。
従って、最初にポカミスが発生したときに~
→ 「なぜなぜ分析」で根本原因を是正しておけば、その後のポカミスは防げたはずだ。
これが再発防止のメカニズムである。

→ 目次

深掘り
・このように、根本原因に階層があるため、どこまで「なぜ」を続けるかという問題が存在する。
・多数から少数に収束する方向にアプローチすることをボトムアップといい、ボトムアップに進むことを深掘りという。
・その深掘りの程度は、課のレベルで済む場合もあれば全社的な対応を必要とする場合もあり、扱う問題と企業の事情によりいろいろである。
深掘り
深掘り
→ 目次

5-3 ブロック塀の倒壊

2018年6月18日、大阪北部を地震が襲った。高槻市立寿栄小学校のブロック塀が倒れて登校中の女児が亡くなった。真の原因 (true cause) がブロック塀の違法建築であることは、倒壊したブロック塀を専門家がデータ解析すれば容易に分かるのであって、「なぜ、倒壊した?」などと訊く必要もない。

倒壊したブロック塀

問題は、根本原因 (root cause) である。

地震時のブロック塀の倒壊事故は国内で過去にも起きており、安全の確保が不可欠であることは広く知られていた。にもかかわらず、「なぜ、学校、市役所、教育委員会等が、その処置をしなかったか?」、すなわち、管理システムの欠陥である。これを解明しない限り、同様の安易な事故の再発を予防できない。

ところで、報道によれば、実に奇妙な根本原因があった。

事故の3年前に、問題のブロック塀について防災アドバイザーから「危険な状態」との指摘を受けて、同小学校は市に調査を依頼した。市は素人の職員による検査を実施して「安全」と判断し、学校側の指摘を生かさなかった。

そうだとすると、調査を依頼する側が専門家で、調査・判断する責任者が素人という矛盾した管理システムになっていたことに気づかされる。まず、これが一つの根本原因である。

次に、なぜ、そのような矛盾する管理システムになったのか? この「さらに深い根本原因」を深掘りするのも「なぜなぜ分析」である。

建築基準法も、単に違法・合法を規定するだけではなく、合法性を実現する仕組み(管理システム)を規定すべきであろう。この点を報道機関が積極的に報道しないことも根本原因である。

→ 目次

5-4 新幹線:台車枠亀裂

台車クラック

2017年12月11日、新幹線「のぞみ」の台車枠に亀裂が生じた。当然、国土交通省から「重大インシデント」に指定された。

原因は、7mm以上必要な肉厚が溶接部の削りにより最小で4.7㎜しかなかったことにあると推測された。

メーカーの川崎重工が台車枠の底部を不正に削った2007年当時、現場の兵庫工場では台車枠の削り込みを禁止する工程設計になっていた。しかし現場では、溶接部の最小限の削りを許容した別の規定を誤って適用。ずさんな製造工程や品質管理体制で、欠陥製品が出荷されていた。

川崎重工が発表した再発防止策は、概略次の通りである。

  1. 車両カンパニープレジデントを筆頭とする品質管理委員会を設置する。

  2. 品質保証本部による初品製造過程におけるチェックポイントを増やす。

  3. 製造部門に品質管理部門を新設し、工程内のプロセス確認、作業指導票を含めた書類監査、作業者の教育内容を刷新する。

しかし、これで再発防止になるとは思えない。根本原因を明確に特定していないからだ。

参照 → 根本原因(root cause)の意味

そもそも「削ってはならない」と告知したことを守れないという単純な現象に大げさな対策は不要だ。とりあえず改善すべき点は、次の2つである。

1) 工程FMEAを実施していない。
 そのために生じた「不順守」という故障モードに対策を講じていない。

参照 → 工程FMEA

2) 品質保証部が、工程の順守を監視して報告するのを怠ったことに触れていない。

参照 → 機能別監査

根本原因が分からず、焦点がぼけたままの状態である。
 そういう状態で「あれも改善しこれも強化し」というのは、やたら人件費が増えるだけで、再発防止の効果がない。

焦点がぼけているため、上に発表された品質管理委員会、品質保証部、新設の品質管理部も「形式を整えただけ」で役目を果たさない恐れがある。

特に問題なのは、製造部門に品質管理部門を新設するという点だ。

戻って確認 → 再発防止-3

その新設する品質管理部門は何をする人達か?

  1. もし品質管理をする人達だというなら、これは全社的品質管理を破壊することであって最悪の事態だ。
    つまり、それ以外の社員は品質管理をしないという昔の習慣への逆戻りである。

  2. もし発表の通りに、工程内のプロセス確認、作業指導票などの書類監査をする人達だというなら、それは品質管理ではなく品質保証である。
    その場合、従来の品質保証部は何をしておったのか?という問題になる。

製造部門は、それ自体が品質管理部門である。なぜなら、品質・納期・コスト・安全・環境保護を管理する部門だから。

技術部門も資材部門も、同様に品質管理部門である。この品質管理部門であるところの製造部門に「品質管理部門を新設する」とは、どういう意味だろうか?
 魚屋の店舗内に魚屋を新設することの意味が分からない。

製造品質を管理する人は、製造品質を作り込む人(作業者と作業者の上司)だけである。もし、この他に品質管理部門を設けるなら、作業者やその上司は品質の作り込み(=品質管理)をしないことになる。

川重車両カンパニーの品質保証本部長は、他人事のようにコメントした。

現場が自分たちで何とか(解決)しようとして、設計部門に伝わっていなかった。


しかし、現場の品質管理状況を監視し問題点を把握して関連部署や上層部に報告するのは、他ならぬ品質保証本部長ご自身の役目ではないのか?

再発防止の目的で「なぜなぜ分析」を正しく行うなら、「品質保証本部長は、なぜ、役目を果たせなかったか」という会社の管理システムの欠陥に辿り着かねばならない。

本件で最小限度に確認しなければならないのは、次の事項である。

つまり、「当然のこと」をするだけ、「基本に戻れ」である。川重は、これらに全く触れず、「なぜなぜ分析」をしていないように見える。

もう一つ、実はこれが一番重要である。

品質保証部は、問題を上層部に伝えていなかった。なぜなら、その伝える場が「社長を委員長とする品質管理委員会」だからである。

何と驚く勿れ、従来、その品質管理委員会がなかったというのだ。これでは「品質第一主義」を維持することができない。これもTQMの基本である。

参照 → 品質管理委員会

5-5. 京大エタノール事件

人工呼吸器
→ 目次

 事件の経緯

2000年3月2日、京都大医学部付属病院で人工呼吸器の加湿器に誤ってエタノールが注入され、女性(17)が死亡する医療事故が起きた。

看護師Aが加湿器に蒸留水を補充しようとして、倉庫の消毒用エタノール入りポリタンクのラベル確認をせずに蒸留水と思い込んで病室に運び込んだ。

京大病院では、従来、蒸留水は500mLの容器を使用していたが、500mLの容器では蒸留水の補充のため頻繁に倉庫に行かなければならなかった。そこで、最近になって、看護師の手間を省くために蒸留水を4Lの容器に変更した。

ところが4Lの蒸留水の容器は5Lのエタノール容器とほぼ同じ形状で、倉庫に並んで置かれていた。容器のラベルも注意しなければ区別がつかなかった。

数日後、看護師Bが加湿器に注入する蒸留水を取ろうとタンクを傾けたたら、エタノールのラベルに気付いた。それまで複数の看護師が10数回にわたりベッドの下のポリタンクからエタノールを加湿器に注入していたが、エタノールのラベルはベッド側の見えない片面に貼られており、誰も気づかなかった。

女性患者は、急性アルコール中毒で死亡した。

 真の原因

看護師Aがラベルを確認しなかった思い込み(ポカ)が真因であること、本人の供述や客観的な状況から明らかである。このことは、事故の責任が看護師Aにある、あるいは看護師Aのみにある、という意味ではない。

 根本原因

根本原因は、京大病院の管理システムの欠陥である。

ラベル確認の義務があるとはいえ、人は誰しも、うっかりや思い込みをするものである。従って、管理体制(規則と実行手段)において、このヒューマンエラーを予防しておく必要があった。

最も簡便で確実な方法は、受け渡し確認である。人は、通常、1年に1回ぐらいの頻度で比較的大きなポカをやらかす。それを受け渡し確認で360年に1回に減らすことができる。

さらに、ヒヤリハット活動によってサイレント・インシデントを探し出すことが大切である。


6 トヨタ式

→ 目次

大野耐一氏が主導したトヨタ式のなぜなぜ分析を吟味しよう。

6-1 なぜなぜ5回

トヨタ生産方式の生みの親といわれる大野耐一氏は、著書「トヨタ生産方式」の中で「なぜ」を5回繰り返すことの重要性を機械が故障停した場合を例に説明しています。次の表は、その「トヨタ式」(真因追究説)の考え方をまとめたものです。

大野耐一氏からの引用
Why Because How
(1)なぜ、機械が停止?過負荷でヒューズ切れ ヒューズ交換
(2)なぜ、過負荷が? 軸受部の潤滑が不十分 潤滑油をさす
(3)なぜ、潤滑不十分? 潤滑ポンプ軸の摩耗ポンプ軸を交換
(4)なぜ、摩耗した? 潤滑油に切粉が入っていた切粉を掃除
(5)なぜ、切粉が混入? 濾過器が欠品(真の原因)濾過器をつける

大野氏は、上のように「なぜ」を5回繰り返したことにより真の原因にたどり着いたと考えた。そして、これで再発が防止されると考えたようである。しかし、ここに2つの誤解がある。

1. 真の原因は、「技術的知識、及び、データ収集と解析」によって得られたのであって、「なぜ」の繰り返しによって得られたのではない。女子事務員が「なぜ?」を10回繰り返しても、故障の原因は分からない。

2. 真の原因に対策を講じることにより問題は解決するが、水平展開をしても再発防止にはならない。根本原因を解消しない限り、今度は「モーターが欠品した機械」や「起動スイッチが欠品した機械」が設置されるかもしれない。

→ 目次

6-2 正しい理解

では、大野氏が示した機械の故障停止の事例で、なぜ、真因が得られたのであろうか?
 それは「なぜ」を繰り返したからではなく、技術的知識に基づいてデータの収集と分析を繰り返したからに他ならない。

データの収集と解析の繰り返し
  データの収集 解析の結果
1 ヒューズの点検 ヒューズ溶断
2 ショート、過負荷 回転が重い(過負荷)
3 潤滑の状況 軸受に油なし
4 詰まり、漏れ、ポンプ異常 ポンプ軸受の摩耗
5 油の状況 切り粉が混入
6 フィルターの状況 濾過器なし

このデータと解析を繰り返すのに必要なことは、「なぜ」の繰り返しではなく、その方面の技術力である。

→ 目次

6-3 大野耐一氏について

1.「なぜなぜ分析」はトヨタの大野耐一 氏が元祖であるとして、その元祖の「なぜなぜ分析」を売り物にする講師やサイトがあります。しかし、大野氏の言葉を根拠に「自己の理論の正当性」を唱えることはナンセンスです。自分では何も考えない「単なる模倣者」だ、と宣言しているようなものである。

大野氏と同様の「トヨタ式なぜなぜ分析」、あるいは「なぜなぜ5回」を説く人は、専門家に欠かせない「自分で考える力」を持たない証拠である。

2. 大野耐一氏は自動車業界に限らず、生産業全般に革命をもたらした大恩人であることに異論はない。また、「なぜなぜ分析、なぜなぜ5回」の名称を使い始めた人は、大野耐一氏だったかも知れない。

3. しかし、大野耐一氏は大きな功績を残した反面、大きな弊害も生んだ。大野氏は、方針管理の目標は「例えば、毎年、不良30%減」という具合に設定する、と唱えた人物である。彼によれば、その根拠は「15%減とか20%減とか、あれこれ言っても仕方ないから30%減くらいにする」との呆れた説明であった。彼の記述は一企業内の経験談であり、万人が使える管理技術として理論を構成したものではない。

品質クレームについて客先が「なぜなぜ5回」を納入業者に要求し、業者側は形だけの「5なぜ」をでっち上げる悪習慣を蔓延させたのは彼に他ならない。

また、トヨタが、その優れた技術を持ちながら世界一のリコール件数を誇った(再発防止に失敗した)業者であることも、トヨタ式なぜなぜ分析に欠陥があることを示している。

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(終り)

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