なぜなぜ分析のやり方、事例、注意点を徹底解説
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トヨタ式の「なぜなぜ分析」とは、問題が起きたときに次のステップを踏むことによって真の原因(原因のうち、対策を打つことによって問題が解決するもの)を追究する手順をいう。
- 「問題(or 事象)が起きた」との報告があったら、直ちに現場に行って現品を見て現実の問題を把握する。
よく見る誤った指導では、ただ「起きる、起きた」という表現では、「頻繁に起きるのか、起きたことがあるのかはっきりしないから、正確に表現せよ」というが、正しくは「表現がどうか」ではなく、問題の現実を現場で把握しなければならない。 - 「なぜ?」と問いつつ、原因として最も疑われる要因Aを一つ挙げて現地現物で調査する(会議室で特性要因図を作ってはならない)。
- 要因Aが原因でないなら、次に疑わしい要因Bを挙げて同様に調査する。
- このようにして原因が分かったら、それに対する処置・対策を検討し、
- もし、処置・対策の手段がないときは、問題または原因の把握が誤っている。
- 処置・対策の手段はあるが、それで解決しないなら、その原因は「見かけの原因」であり、真因にたどり着くまでさらに「なぜ」を続ける。
- 処置・対策の手段があって、それで問題が解決するならその原因が真の原因(真因)であることが確定し、その対策を講じて問題を解決する。
- 問題が解決したら、同じような問題が他にも起きていないか調査して、水平展開する。
〔注〕
1.原因が人の行為である場合、原因+理由で答えること。例えば、重要な会議に遅刻した原因を問われたとき、「家を出るのが遅かったから」とは答えず、次のように理由(やむを得なかった事情)を伴って答えること。
- 子供が急病で救急車を手配するため、家を出るのが遅くれたから。
- 昨夜は深夜残業だったので朝起きれず、家を出るのが遅くれたから。
つまり、原因だけで理由が伴わないと処置が決まらず、なぜなぜ分析がとん挫する。
2.疑問がないときは「なぜ?」と問わない。
例えば、Cが原因がBが発生し、そのBが原因でAが発生したことが分かっている場合に、次のように分割してはならない。
- Aが発生した。
- なぜ、Aが発生? Bが起きたから。
- なぜ、Bが発生? Cが起きたから。
〔理由〕分かっている事実を分割して「なぜ」の回数を稼ごうとする悪い習慣が世間ではびこるのは、主に、「なぜ」を5回行わねばならないとする客先企業からの誤った要求による。しかし、これは無意味な作文であって、「なぜなぜ分析」に値いしない。
2.真因の追究手順
2-1.三現主義
2-2.真の原因
3.なぜなぜサイクル
3-1.テンプレート
3-2.効用
4.真因とは
4-1.真因の定義
4-2.例題
5.原因と理由 6.「なぜ?」の意味
6-1.機械の故障停止
6-2.航空機の墜落
6-3.事務員による修理
7.横展開(水平展開)
8.トヨタ式の問題点
8-1.回数で深刻な弊害
8-2.問題解決と再発防止
8-3.横展開の効果
8-4.真因と根本原因
8-5.再発防止
QCサークルの活性化 目次ダウンロード 05/08(木)
方針管理の進め方 目次ダウンロード 05/15(木)
工程FMEA、DRBFM 目次ダウンロード 05/22(火)
設計FMEA、DRBFM 目次ダウンロード 05/29(木)
RCA(なぜなぜ分析) 目次ダウンロード 06/05(木)

1.大野耐一氏の模範例(真因追及説)
大野耐一氏は、著書「トヨタ生産方式」に、なぜなぜ分析の模範例を次のように示した。
問題(事象):機械が故障で停止した
- なぜ、故障停止した?
〔原因〕過負荷・ヒューズ溶断
〔処置〕ヒューズ交換 - なぜ、過負荷に?
〔原因〕潤滑不足
〔処置〕ベアリングに油を差す - なぜ、潤滑不足に?
〔原因〕ポンプ軸の摩耗
〔処置〕軸の交換 - なぜ、摩耗?
〔原因〕潤滑油に切粉が混入
〔処置〕切粉の清掃 - なぜ、切粉が混入?
〔原因〕濾過器の欠品(真因)
〔処置〕濾過器の取付け
上の模範例の正しい読み方は、次の通りである
問題(または、事象):機械が故障で停止した。
- なぜ、故障停止?
現場の状況をみると、最も疑わしいのはヒューズの溶断である。現場を調査したら、過負荷でヒューズが溶断していた。
〔処置〕ヒューズを交換しても一時しのぎで問題は解決しない。過負荷の原因を調べる必要があり、なぜを続ける。 - なぜ、過負荷?
調べたら、潤滑不足であった。
〔処置〕メタルに油を指しても一時しのぎで問題は解決しないから、なぜを続ける。 - なぜ、潤滑不足?
調べたら、ポンプ軸が摩耗していた。
〔処置〕ポンプ軸を交換しても一時しのぎにしかならず、摩耗の原因を究明する必要がある。 - なぜ、摩耗?
調べたら潤滑油に切粉が混入していた。
〔処置〕切粉を清掃しても一時しのぎだから、切粉混入の原因を究明する必要がある。 - なぜ、切粉が?
調べたら潤滑油系統のフィルターが欠品であった。
〔処置〕機械にフィルターを取り付ければ問題が解決するから、「フィルターの欠品」が真の原因(真因)である。
〔注〕
トヨタでは、一時しのぎにしかならない手段を「処置」といい、問題が解決する手段を「対策」と呼ぶようであるが、日本語として適切でない。正しくは、次のように用語を使い分けるのが望ましい。
- 一時しのぎの手段、問題を解決する手段、何の役にも立たない手段~等、良かれと思って対応することは(結果がどうあれ)全て「処置」である。
- 処置の内、問題の解決になるものが「対策」である。
- 一時しのぎの手段を臨時対策、本格的な手段を恒久対策と呼ぶこともできる。
2.真因の追究手順
大野耐一氏は、著書「トヨタ生産方式」の中で、上に示す事例を使って「なぜなぜ5回」を紹介した。そこでは「なぜ」を5回繰り返して真の原因(真因:true cause)を追究する手法として説かれた。
2-1 三現主義
機械が故障で停止したとき、どうすればよいか?
大野耐一氏の考え方は、こうである。
問題が発生したら、とにかく直ちに現場に直行し、現場で現物を見て(何が起きたか)問題を把握してから「なぜ?」と問え。
そして、それに対する答えも、意見や可能性(要因)ではなく、現実を調査した結果で答えよ。
これを三現主義、あるいは、現地現物という。
つまり、会議室で特性要因図のようなものを作って多数の要因を列挙するような「机上の空論」をせずに、現場で現品を見て現実を把握した上で最も疑わしい要因を一つ挙げてそれを調査せよ、もしそれが原因でなかったら次に疑わしい要因を挙げて調査せよ~ということである。
「なぜなぜ分析」でいう「なぜ?」とは、以上のように、現地現物(現場で現品を見て現実を把握せよ)で調査した結果で答えよ~という意味である。
2-2.真の原因
上の調査の過程で、いくつかの原因が見つかった。最初は「ヒューズの溶断」である。これも原因であることには変わりない。なぜなら、ヒューズの溶断がなければ機械の停止もなかったからだ。
しかし、ヒューズを交換しても問題は解決しないので真の原因(真因、True cause)ではなく、これは「みかけの原因、Apparent cause」である。同様に、潤滑不足による過負荷もみかけの原因であって、処置を講じても問題は解決しない。問題を解決するには「なぜ?」を繰り返して、真の原因にたどり着いて対策を講じなければならない。
このように、「なぜ?」に対する答えが出るたびに処置・対策を検討して、それが真因なのか「みかけの原因」なのか判断しなければならない。
処置・対策を検討して、もし、問題が解決する対策が見つかったら、それが真の原因である。
真の原因に対策を講じて問題が解決したら、さらに、同じようなことが他でも起きていないか調査して対処する(水平展開、or 横展開)。
以上が、大野耐一氏の考え方である。
3.なぜなぜサイクル
なぜなぜ分析が順調に進んでいるかどうかチェックするツールとして「なぜなぜサイクル」がある。上に紹介した大野耐一氏の事例を、なぜなぜサイクルのテンプレートを使ってチェックしてみよう。
3-1.テンプレート
上の表を以下のテンプレートに示す「なぜなぜサイクル」で読む。
〔問題〕機械が故障停止した。
- なぜ、故障停止した?
〔原因〕過負荷でヒューズ溶断
〔処置〕ヒューズ交換
↓
それで解決するか?
→過負荷の問題が残る
→なぜを続ける - なぜ、過負荷になった?
〔原因〕軸受に給油なし
〔処置〕油を差す
↓
それで解決するか?
→自動給油の問題が残る
→なぜを続ける
「なぜ?」とは、「なぜ問題が起きたか、現地・現物で原因を調査して報告せよ」の意味であって、次のようなことは求めていない(三現主義)。
- 意見(何が原因だと思うか)
- 要因(どのような事象が原因になりうるか)
→ 「なぜ?」の意味
原因が判明したら、「処置によって問題が解決されるか」を検討して、解決するならそれが真因であり、解決されなければ次の「なぜ?」に進む。
もし適切な処置が定まらないなら、問題や原因の記述に欠陥があり、是正しなければならない。
〔注〕
「処置」を無視して、
なぜ、停止? → 過負荷,ヒューズ溶断
なぜ、過負荷? → 給油不足~
という具合に進める人がいるが、間違いである。
処置を講じることができるかどうか、検討しなければならない。処置が打てないときは、問題の内容や原因の記載に欠陥があることが表面化する(→ 下の例題を参照)。
〔注〕
トヨタでは、とりあえず目前の現象を解消する一過性の対応を「処置」と呼び、真因に対する対応を「対策」と呼び分ける。ただし、この呼び方は本来は妥当でない。国語辞典では、処置は広く物事に始末をつけることを意味するので、次のように呼び分けるのが望ましい。
- 処置は、広く物事に始末をつけることを意味し、次を含む。
- 応急対策:とりあえず、目先の現象を緩和する一過性の処置
- 恒久対策:問題を解決する処置
なぜなぜサイクルの最終段階は次のようになる。
5.なぜ、切粉が混入?
〔原因〕濾過器の欠品
〔処置〕濾過器の取付け
↓
それで解決するか?
→解決する
→濾過器の欠品が真因である
このようにして真因が見つかり、これに対策を講じて問題が解決する。
3-2.なぜなぜサイクルの効用
「なぜなぜサイクル」のテンプレートを使うと、
(1)「なぜ?」に対する答えの適否
(2)さらに「なぜ?」を続けるべきかどうか
を検証することができる。
〔例〕うっかりミスの場合、下表の「なぜなぜサイクル」のテンプレートを使うと理解することができる。「処置」のところに何が書けるか考えて見よう。
ポカヨケ以外にないことが分かる。
- なぜ、問題が起きた?
〔原因〕うっかり(ポカ)
〔処置〕ポカヨケ
↓
それで問題が解決するか?
→解決する
→故に、うっかりが真因だ
ところが多くの指導者は、「疲れていたから、うっかりした」とか、「見ずらい表示であったため、うっかりした」などの原因を挙げ、誤った指導をすることが多い。
4.真因(True cause)とは
上の事例から分かるように、その処置によって問題が~
- 解決すれば、その原因が真因(True cause)であり、その処置が「対策」になる。
- 解決しなければ、原因は「見かけの原因」(Apparent cause)である。
4-1.真因の定義
「真因(真の原因)」とは、対策を講じることによって問題が解決する原因をいう。
解決能力の高いA君は問題を解決する対策を思いついたが解決能力の低いB君は手に負えなかった場合、A君にとっては真因でありB君にとっては見かけの原因となる。なぜなぜ分析は、誰がやっても役立ち、正しい真因を探すことができると考えてはならない。
〔注〕
トヨタでは「真因」は「根本原因」とも呼び、これらは同義とされるが、後述のように全く異なる用語と理解すべきである。 → 真因と根本原因
4-2.例題
次の分析事例(豊田マネージメントから引用)の欠陥をなぜなぜサイクルによって見出せ。
〔問題〕A君が顧客との重要会議に遅刻した。
そこで、上司が遅刻した部下に尋ねた。
- なぜ、遅刻した? → 家を出るのが遅かったから。
- なぜ、遅かった? → 朝、起きれなかったから。
- なぜ、起きれなかった?→ 疲れたから。
- なぜ、疲れた? → 最近、残業が続いたから。
- 〔処置〕では今日は残業せずに帰宅して体を休めよう。
〔解説〕真因は残業制度にあり、今日だけ残業せずに帰宅しても真因に対する対策にならない。
〔解説〕
読者は、これと同じ結論になっただろうか?
筆者は、全く違うと考える。
これをなぜなぜサイクルのテンプレートに反映させると、次のように処置の段階で行き詰まる。
- なぜ、遅刻した?
〔原因〕家を出るのが遅かった
〔処置〕?
↓
?
→?
→?
「家を出るのが遅かった」ことに対する処置として具体的に何をすればよいのか分からないことから、このなぜなぜ分析の欠陥が表面化する。これは問題又は原因の捉え方に欠陥があることを示している。
欠陥の内容は次の通り。
- 「家を出るのが遅かった」だけでは、その遅くなった事情が分からず、処置が取れない。
- 「朝、起きれなかったから」「家を出るのが遅かった」と言われても、
- さらに「疲れたから」「朝、起きれなかったから」「家を出るのが遅かった」と言われても、夜遊びやマージャンで疲れたのか、家族の病気の看護で疲れたのか、残業が多くて疲れたのか~によって処置の仕方も変わるから、これでもまだ処置がとれない。
- 「最近、残業が続いたから」という事情が判明すれば、そこで初めて「やむを得ない遅刻だから会社の負担で定刻起床装置(下図)を貸し出す」~という処置が可能となる。
- 反対に、毎晩、徹夜で賭けマージャンをしたことが判明すれば、減給処分などの処置をとることになる。
JRが販売している定刻起床装置

つまり、これら全体で1つの(理由付き)原因になっており、「なぜ?」は1回で終わりである。
〔問題〕A君が顧客との重要会議に遅刻した。
- なぜ、遅刻した?
〔原因〕朝起きれず家を出るのが遅くなった。+〔理由〕残業が続き疲れていた。
〔処置〕原因に正当な理由あり、会社から定刻起床装置を貸し出す。
↓
それで問題が解決するか?
→解決する。
→故に、これが真因だ。
人の行為・判断・感情等について「なぜ?」と問うのは、実質的には理由を問うことになる。人は、機械や自然現象と違って、原因で動いたり判断するのではなく理由によって行動・判断するからである。
- 人の意識的な行為が何らかのトラブルの原因になった場合、その原因には理由が付きまとう。
「なぜ、遅刻した?」という問いは「遅刻せざるを得なかった、どんな正当な事情があったのか?」という理由に重きを置いて尋ねることになり、回答も「こういう原因であるが、これこれのやむを得ない事情がありました」という具合に言い訳(理由)が付きまとう。 - 人の無意識な行為が原因の場合は、理由が付くことはない(他人に不意に押されたから倒れた)。
5.原因と理由
「原因」とは、事象(出来事)と事象の間の因果関係において、結果事象に対する先行事象をいう。
「理由」とは、人の行為・判断・感情等が、仕方のない、当然の、やむを得ない、正当なものであることの根拠をいう。裁判官が判決を下すとき、その判決が正当なものであることの説明を「判決理由」といい「判決原因」とは言わない。法律でも原因と理由は明確に区別されている。
〔参考〕
A君の行為によりB君が死亡した場合、
- B君が死亡した原因は、A君が包丁でB君の心臓に届くキズを負わせたからである。
- A君がB君を殺した理由は、長年いじめを受けたからである。
6.「なぜ?」の意味
なぜなぜ分析における「なぜ?」とは、何を尋ねているのだろうか?
- 「何が原因だと思うか」と、意見を尋ねている(トヨタ式を誤解した人)
- 「原因の可能性がある(複数の)要因」を尋ねている(小倉式)
- 「何が原因か」と、現実を調査した結果を尋ねている(トヨタ式、鵜沼式)
トヨタ式は、三現主義を基調とするため、現実の調査結果を求める。
真因の調査・解明は、
- その問題の分野の知識と経験に基づき、
- その分野の知識と経験を有する者が、
- データの収集と
- 分析を繰り返す
~ことによって行う。
つまり、調査を繰り返すのであって、「なぜ」という号令を繰り返す必要はない(やってもいいが)。
機械を修理する技術者、航空機の墜落原因を調査する運輸安全委員、病院で患者を診察する医師~等、誰も「なぜ?」を繰り返しながら仕事をしている人は見かけない。このことを示す具体例を挙げよう。
6-1.機械の故障停止
大野耐一氏の機械の故障停止の事例も、「なぜ?」は単なる号令で、実質はデータ収集と分析の繰り返しになっている。
- なぜ,停止? → 過負荷,ヒューズ溶断
- なぜ、過負荷? → 潤滑不足
上のステップで、「過負荷,ヒューズ溶断」というのは、単に「そう思う」という意見ではなく、そのような可能性があるという要因でもない。三現主義に従って事実を調査した結果である。つまり、データの収集である。
それを分析すると「潤滑油が回っていないのではないか?」との疑念を生じ、事実を確認したら「潤滑不足」であった~と言っているのである。

6-2.航空機の墜落
航空機の墜落があったときのことを考えれば、上の意味は容易に理解できる。
- 航空機事故の分野の知識と経験を有する者(運輸安全委員会)が、
- データの収集(フライトレコーダー、ボイスレコーダー、機体の残骸等の回収)
- データの分析(データの意味をくみ取る)
~を繰り返す。しかし、「なぜ、なぜ~」と号令を繰り返す人は誰もいない。
6-3.事務員による修理
事務職しか経験のない事務員は、いくら「なぜ?」の号令を繰り返しても機械の故障の真因にたどり着けない。
このことは「なぜ?」が単なる掛け声であって、繰り返すべきは調査(データの収集と分析)であることを裏付ける。
7.横展開(水平展開)
真因を突き止めて対策を講じて問題を解消する目処が立ったら、他にも同様の問題がないか調べる(故障停止の事例でいえば、濾過器の欠品が他の機械にもないか調べる)。
これにより、現存する潜在的な同種の問題を解決することができるが、あくまで現存する問題だけの解決であって、将来発生するかもしれない同様の問題を予防する効果(問題の再発防止の効果)はない。
8.トヨタ式の問題点
トヨタが優れた固有技術を持ちながら、一時、世界一のリコール多発企業となったのは、以下の「問題解決と再発防止の混同」に起因すると思われる。
8-1.回数で深刻な弊害
トヨタには、「なぜ?」を5回繰り返せ、どのような場合も5回繰り返さなければならないという、奇妙な規則がある言われている(大野耐一氏の考え方である)。
これを真似て、多くの企業で「なぜは5回でなければならない」、「何とか、5回やったように見せかけて作文しよう」という悪い習慣が横行し、せっかくのなぜなぜ分析を台無しにする弊害を招いた。
「なぜ?」を繰り返す目的は真因を探すことだから、真因を見つけたらそこで終えなければならないのは当然である。
否、むしろ、少ない「なぜ?」で真因を探するように努力しなければならない。
8-2.問題解決と再発防止
トヨタでは、真因と根本原因を同一と考え、これに対策を講ずることを「再発防止」と称しているが、これは誤りである。真因に対策を講ずると問題は解決するが、再発防止にはならないと考えるべきである。真因は業務の現場に存在し、根本原因は管理システムにあるからである。
このことを「故障による機械の停止」の事例に沿って説明しよう。
「濾過器」を取り付けることによって解決するのは、当の機械の故障の問題だけである。将来、現場に搬入される機械に同様な問題があっても、そこまでは解決されない。まして、濾過器に限らず他のユニットや部品の欠品の可能性も解決しない。つまり、問題の再発防止の効果はない。
8-3.横展開の効果
水平展開をしても現存する問題を解決するだけであって、将来搬入される機械の再発防止にはならい。
8-4.真因と根本原因
トヨタ関係者の中には、次のように説く者もいる。
真因は根本的な原因であって、繰り返し様々な問題を生み出してネズミ算的に問題を発生し、「もぐら叩き」の状態にする~という(A図)。

しかし、それは間違いであろう。
機械の故障停止の事例における真因(濾過器の欠品)は、そのまま放置しても伝染病のように他の機械に伝染して蔓延する訳ではない。台湾の列車脱線事故における真因(防護柵の欠如)も同様で、そのまま放置しても別の場所に伝染するのではない。その同じ機械、同じ場所における問題が解決しないままになるだけである。
「問題が解決なければ問題が継続する」と理解すべきであって、「問題が解決していないから再度起きる=再発」と考えるべきではない。
真因(True cause)は発生した問題ごとに存在するのであって、決して根本原因(Root cause)と同じではない。根本原因は真因とは別に存在する(B図)。

根本原因は、真因の発生を許してしまった「管理システムの欠陥」である。
8-5.再発防止
「再発」の意味について、二つの立場がある。
- 現象再発説:現象が繰り返し出現すること。(例)大野耐一氏の機械故障の事例で、「停止」という現象が再び起きること。
- 問題再発説:問題が繰り返し出現すること。(例)同上の事例で、「濾過器の欠品」等、何らかの欠品を伴った機械が将来、繰り返し現場に持ち込まれること。
これらの妥当性を比較すると、現象の再発の本質は問題の未解決(継続)である。再発という以上は、問題の再発を考えるべきある。
問題再発説でいう再発防止は「真因をなぜ防げなかったのか?」という「新たななぜなぜ分析」によって管理システムに潜む欠陥(根本原因)を見出し、根本対策(再発防止策)を講ずることによって行うべきものである。