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[ 改善活動の手順に関する考察 (2)]

タイトル
改善活動の手順に関する考察 (2)
QCストーリー
著者:鵜沼崇郎(単独)
学会名:日本品質管理学会 第74回研究発表会
場所:日本科学技術連盟 東高円寺ビル
  日時:2004年5月29日 15:00~15:30

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  前回は目標概念と設定手順について考察し、大改善と小改善とで目標の設定だけでなく他の点でも手順が相当に異なることが予測された。
  • 大改善は目標の設定、経営者の反省、担当者の反省、達成率の管理などの厳格な手順を踏み、長期の管理サイクルを回すもの。
  • 小改善はこれらに手順を踏まずに頻繁に短期の管理サイクルを回すもの。
~であることが明確になった。

  今回は論点を追加してQCストーリーの是正を図る。 なお、QCストーリーとは、報告を分かりやすく編集する要領として「活動手順の原理」を示したもので、活動手順そのものではない。  

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 今回の論点を先に示す。
  1. 大改善と小改善の相違点 ― 目標の設定、達成率の管理、活動テーマの選定、大日程計画の要否などの点で相違がある。

  2. 小改善でいう「テーマ選定」の意味 ― 発表テーマの選定である。小改善は重点管理、目標の設定、達成率の管理がなく、 期限もないから大日程計画もない。

  3. 活動のタイプ ― 大改善の場合は問題解決型、課題達成型、施策実行型の3個であるが、小改善では2つの型を追加する必要がある。

  4. その他、特性要因図のタイプ、 列挙する要因の数なども考察する。
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  「テーマの選定」とは、どういう意味か。
  1. 大改善 ─ 多額の出費を伴う故に、活動テーマを厳選し、かつ、選定理由の説明責任を負う。

    例えば、ワースト3など、のっぴきならぬ理由がなければ大金を投資することはできない。

  2. 小改善 ─ 発表テーマの選定を意味する。
     吸殻が落ちている場所に 「吸殻入れ」の空き缶を置くような活動は、「問題があるから手を出した」という以外の特別の理由は要らない。なぜなら、もし特別の理由で選ぶとすれば、これら4つの深刻な疑問に突き当たるからである。
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  日常管理で行う小改善は、選ばずに何でも取り組むから、発表に値するものは滅多にないのが普通である。

  従って、 発表テーマを選ばねばならないし、選ぶ理由(発表に値する理由)が必要になる。小集団活動などでいう「テーマ選定理由」とは、 見せ所(参考になる点)の意味になる。

  ただ、説明を強要すると 「体裁のための説明」 を招くので任意とする必要がある。   

5 テーマ選定 ②重点管理

  重点管理は、小改善には適用なく大改善だけの問題である。 また、ワースト3は一元的な判断であって、多元的評価を必要とする実務には使えない。
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  • 出費が多すぎる、
  • 期間がかかり過ぎる、
  • 技術的に困難、
  • 商品寿命が短い、
などの点を多元的に考慮すべきであって、単に最悪特性だから最優先テーマとは言えない。そこで重点管理を修正する必要がある。   
  • 検討は 特性ワースト3 を優先し、
  • 目標を設定して「テーマストック」を作り、その中から、~
  • 年度方針に基づいて 目標ベスト3 を選んで実施する。
 つまり、高ニーズのテーマから優先的に検討し、有利な目標が立つものから優先実行するのがよい。
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 「現状の把握」で、何をするのか? 
  1. 主観説の色彩が強い立場 → 現状の悪さ加減から、主観的な目標を描くことを重視する。

  2. 客観説の色彩が強い立場 → 実績データから、「要因が具備すべき条件=要因が存在する範囲」を絞ることに主目的にする。
  客観説は、後者である。従って、「現状の把握」を要因分析に統合し、意味の紛らわしい「現状の把握」のステップ名の廃止を提案する。
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  有名出版社の出版物に記載ある模範例で、ガントチャート式の大日程計画であるが疑問がある。
  • 小改善の実務は日常管理として行われ、期限がなく、大日程計画を作成しないのが普通である。
  • QCストーリーは活動手順そのものではなく、原理に過ぎない。実際には前後したり並行したりする。
  • 大改善では、通常、期限があって大日程計画が必要になるが、期限遵守のためは常に日程を再計画するので、実績と計画は一致するはずである。
  • 7月に計画を立てたなら4月、5月、6月の計画はないはずで、この計画が虚偽だと分る。
  この模範例が模倣され、 虚偽発表の弊害を生んでいる。
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  主観説は、ブレーンストーミング(BS)やナゼナゼ分析で60個~70個と多数の要因を列挙してから要因を絞ろうとする。

  しかし60個~70個と列挙したのでは、データをとることもままならず、QC7つ道具も使えない。実験計画法や多変量解析の適用も容易でなく、失敗を隠すためのデータのねつ造に努力を集中することになる。

  客観説は、根拠ある要因のみを列挙するから最初から要因が少ないという違いがある。

  多数の要因を挙げる傾向に対しては、「診察で、当を得た2~3の病名を挙げる医師と、当てずっぽうに60個~70個の病名を挙げる医師のいずれが名医か」との警鐘が適当と思われる。

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  特性要因図を2つに分けて扱う。
  • 管理用 は、トラブル予防のため、その分野の常識から網羅的・演繹的に要因を列挙し、原則として全てを管理する(予防型)。 心配なものを全て列挙するから、要因は多くなる。

  • 解析用 は、予防措置を講じたのに原因不明のトラブルが発生する場合に、原因を探すために作る(問題解決型)。データ的根拠によって要因を列挙するから要因の数は始めから少なく、更に主要因に絞って (又は絞らずに) 対策を講ずる。

  • 誤用  問題解決型の活動で『BSやナゼナゼで多数の要因を列挙し、その後に主要因に絞る』との誤った指導が多く行なわれる。 根拠が見当たらないから勘で絞るが、事例発表ではこの勘が当たるから不思議である。
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 従来、 問題解決型、課題達成型、施策実行型 の3型が紹介されたが、小改善用に次の2つを補充する必要がある。
  1. 事後予防型  本来の予防策をとらずに業務を始めた場合の改善は、「遅ればせながら、予防策を講ずる」ことから始まる。 また、労働安全、製品安全、顧客クレームなどはトラブルのデータを期待すべきでないから予防型の活動になり、 当然、 管理用 の特性要因図を作って 「全ての要因」 に対策を打つ。
  2. 対策先行型  問題解決型は、本来なら原因が確定してから対策を考案し実施する。しかし、小改善では、対策を講じてみて有効なら原因だったことになるし、影響なければ特性要因図から削除する。

 →適合する型がないと虚偽報告をする以外にないので、補充は不可欠である。

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 2つのタイプが追加されて、はじめて体系化されます。原因に着目し、「分かる」が施策実行型であり、「不問」が課題達成型であることは明白です。

 原因が「不明」な場合に、

  1. データで要因を列挙し(解析用特性要因図)、そこから要因を絞らない場合が 対策先行型 になる。

  2. 知識経験から要因を列挙し(管理用特性要因図)、全部に対策を打つ場合が 事後予防型 になる。
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  活動タイプの選定で、最も犯しやすい誤りは、

 「トラブルがある以上は原因があるはずだから、その原因を探して除去しよう。すなわち、問題解決型だ。」

と考えてしまうことである。

  予防が相当に行き届いているのに起きる場合は、特定の原因(犯人)を探す問題である。しかし、予防がされていなければ、多数の要因に対して対策を講じなければならず、問題解決型ではなく、 事後予防型 が必要になる。

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  大改善は、通常は経営者・管理職・専門部署などが関与しますから、経営者の反省と担当者の反省を十分に行うべきである。

  また、 小改善に関して経営者が虚偽発表について、また専門家の鑑定などによって反省するのも有益である。しかし、小改善を行なう作業者に反省の発表を求めることに問題がある。

  1. 主観説と客観説の見解の相違から分るように、良かった点、悪かった点の指摘は、非常に難しい。
  2. 特に反省点がない場合もある。
  3. 発表を要求すると、「体裁上の反省」 を考えた虚偽発表の原因になる。
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 小改善の手順を整理する。
  1. テーマ選定、現状把握、目標の設定、目標達成率、反省、今後の計画~を廃止する反面、活動タイプを増やす。無用なものを排除し、必要なものを補充した結果である。

  2. 原因確定型以外は、改善効果を見ることによって原因が判明する。

  3. 1つのテーマの下で型が複合する場合もある。例えば、不良対策で、「きず」 は課題達成型、「寸法のばらつき」 は対策先行型という具合に。

  4. 施策実行型は、先に特性要因図を作る場合と、「対策→効果確認→特性要因図に要因追加」を繰り返して特性要因図を育てる場合がある。
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  大改善は、問題解決型、課題達成型の2つで大部分を占める。 ここでは問題解決型で代表する。
  1. 前半は、いわば「ワ-スト3」を選定して検討し、テーマストックを備蓄する活動である。

  2. 中間で経営者の反省がある。テーマ・ストックが貧弱なら経営資源の強化が優先課題になるし、テーマ・ストックが十分なら年度方針によってベスト3をそこから選定する。

  3. 後半は、選定したベスト3を実行する。目標を達成できるはずですだが、達成度が不足するなら担当者の反省が求めらる。さらに、実績がニーズを満たさないときは、経営者の反省事項にもなる。
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  以上の調査、検討、選定、反省、実施の5フェーズ法は、方針管理の手順を示唆している。

  次回は、以上を踏まえて方針管理の手順を検討するものとし、今回の発表は以上で終わりと致します。

第2回 終り